バラの神と魔界の皇子

緒方宗谷

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23 一つになった愛は、何にも負けない

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 トカゲは、毎日毎日スズとハルを観察し続けていました。 しかし、いくら待っても、2人は堕天しません。おかしいなと思いながらも、まだかまだかと行ったり来たりしながら、様子を覗き見していました。
 「ハルちゃん、ちょっといい?」スズがハルのもとにやってきました。
 「スズちゃん、わたしも、ちょうどお話ししたいと思っていたところなのよ」
 なんと、仲たがいしたはずの2人が、おしゃべりしているではありませんか。
 スズが言いました。
 「なんか、トカゲさんから変な話聞いているんじゃない? あれは誤解よ。
  ハルちゃん、わたし、ハルちゃんの事とても可愛いと思っているわ、ハルちゃんの可愛さにはみんな敵わないわよ。
  でもわたしは負けないの、だって毎日貴婦人ウォッチングをしていたのよ? それなのに、おねぼーさんに負けたら、シャレにならないでしょう?
  だから、わたしはハルちゃんの事を悪く言ったわけではないの、分かってくれる?」
 「うん、確かにスズちゃんは、おめかしのお勉強をいっぱいしたものね、わたしは全然だもの」
 「それに考えてみて、貴女はスレンダーで素敵な白ヘビでしょ? イメージ的に膨らんだ袖より、すらっとした袖の方が似合うと思うの。
  でもわたしは鳥だから、こんな風に肩が膨らんでいたら、羽を連想させるから、本性のイメージに合うでしょう?」
 そう言いながら、スズはハルの手を引いて、そばの避難所に向かいました。
 「2人ならんで鏡の前に立ってみましょうよ。
  ほら、違うお洋服を着ていた方が、わたし達の個性が出て素敵でしょ?おんなじお洋服じゃ、つまらないもの」
 「そうね、お揃いも素敵だけど、違うファッションも素敵よね」
 スズとハルが育んできた友情は、トカゲの物の怪が考えていた以上に成長していたのです。
 2人が初めて出会った頃は、お互い愛される事だけを望んでしました。スズはハルにチヤホヤされるだけで満足していましたし、ハルもスズにチヤホヤされる事だけを考えていました。
 自分の内側の世界しか感じる事が出来ませんでしたから、内面で起こる気持ちに素直に従っていたのです。相手を思い計る事が大事であるなど露にも思いません。
 自分を好いてくれるから好き、という気持ちでもありませんでした。好かれて当然、そういうものだと思っていたのです。2人共、殆ど相手を物扱いしているのと同じでした。
 ですが、2人共独立した一個人でしたから、自分よがりな思い込みと行動では、お互いを理解する事もされる事もありません。
 どうして思い通りにならないのか、どうして相手は自分の望むことをしてくれないのか、2人は色々と思案を繰り返しました。
 すれ違っては手を伸ばし、すれ違っては手を伸ばしを繰り返しているうちに、相手を思いやる心を覚えました。
 相手に自分へ何かさせるのではなく、自分が相手に何かしてあげる事を思いついたのです。
 初めは自分が何かしてあげた事に満足していた2人でしたが、相手がそれを望んでいなければ、相手の為にはなりません。感謝されない事に、初めは憤りを覚える事もありました。
 こんなに自分は頑張っているのに理解してくれない、と怒りもしましたが、頑張っている相手の姿を見る事によって、頑張っているのは自分だけではない、と知りました。相手の頑張りを見た事によって、愛される愛から、愛する愛に成長したのです。
 そして、鳥であるスズとヘビであるハルは、お互いが違う種であることを理解しました。お互いを尊重できるまでになったのです。
 しかし、尊重するだけでは、貴女は貴女、わたしはわたし。我関せず、と無関心になってしまいます。ですから、なぜミツスイのスズは蜜や朝露しか飲まないのか、なぜ白ヘビのハルはお肉を好むのか、お互いが理解しようとし、そしてそれを受け入れました。
 お互いが己と違う相手の性質を、個性として認めあえるようになっていた2人にとって、トカゲが仕掛けたすれ違いは、あって無いようなものだったのです。
 ハルは、トカゲからスズが言っていた事を聞いて傷つきましたが、それはスズが言ったから傷ついたのではなく、トカゲが傷つくような言い回しで言ったから、傷ついたのです。
 悪意を持って陥れようとする言動に耐性のないハルでしたが、初めの内からトカゲの話に違和感を覚えていました。それはスズも同じで、トカゲの話はハルの話した事実と違うのではないか、と思っていたのです。
 2人は、わたしが相手だったら、こんな風に思うだろうな。あんな風にするだろうな、と思いをはせる事が出来ました。それに、トカゲの話にどう受け答えしたら、自分の意図がおかしく伝わってしまうかも想像して話す事が出来ました。
 一生懸命働くトカゲを無視できませんから、慎重に言葉を選んで話したのです。
 漠然とですが、薄々気が付いていました。トカゲは、誰かの所に行って、ここで話した事を話すだろう、と。もしかしたら、スズの(ハルの)所に行って話すだろう、と。第一感が危険だと教えてくれていたのです。
 そう感じられたのも、普段からお互いの事を理解しよう、と思い続けていたからです。
 トカゲがどんな風に言っていたかを教え合った2人は、こんなに意地悪に言い方を変えられるものかと、驚くやらおかしいやらで笑いました。
 2人が本当に話した内容を伝えると、それぞれが想像していた内容と一致します。2人は、心が通じ合っているなぁと思って、嬉しくなりました。
 誤解を解いた2人は、避難所の鏡の前で、相手の可愛いところや好きな所を言いっこして遊んでいます。可愛すぎて、チャームの効果っぽいのが発生しました。
 鏡に当って跳ね返ったラブリーなハートは、ふよふよと窓の方に流れて行って、覗いていたトカゲの物の怪の頭に当りました。
 「かっわゆーい💘💘💘」
 2人分の可愛さに魅了されたトカゲは、両目をハートマークにして駆けて行きます。何も見えませんでした。恋は盲目というやつです。
 我を失ったトカゲは、最初に見つけた守衛に、自分がやった悪さを洗いざらい告白して、自ら捕まってしまいました。
 「やや! なんで俺は牢獄に!!?」
 気がついた時は、もう後の祭りでした。
 「まっ良っかーっ、スズちゃんとハルちゃんに出会えたしっ💕💕💕」




 
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