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三年生の一学期
第二百五十七話 揚羽蝶
しおりを挟む話を切り上げるように大きなため息をした奈緒が、背伸びをして後ろにひっくり返りそうになった。
「わちゃちゃちゃちゃ」と手足をばたつかせたこの子は、南に背中を支えられながら体勢を立て直す。「ふう」と安堵して、おもむろに持論を述べ出した。
「でもわたし、思ったんだけど、夜にアゲハ蝶って飛ぶのかな? もしかしてそれって蛾じゃないの?」
「はぁ?」南が大声を上げる。「なんてこと言うのよ。わたしのいい青春の思い出に」
「え~? だって違うじゃん。 夜 飛ぶ 虫っていったら、変な虫か蛾しか いないじゃないのよ。ぜったいそれ蛾だと思う。モスラン[日本の怪獣映画のキャラクター]だ。今日からあなたはモスランだ」
けらけら笑う奈緒は、南の左胸の下をのぞき込んだ。
「ということは、それも…蛾――なんですね。今日から蛾――なんですね」
「やめてよ、変なこと言うの。今の今まで気がつかなかった。確かにそう指摘されると自信がない気がする。――いや、でも間違いなくアゲハ蝶だったよ。すごくきれいだったもん」南が、刺青のある辺りを右手で覆う。
「確信を持って言え ますか? どんな色の羽だったとか記憶 ある?」
「そう言われると定かではない。でも紫色だったと思うよ。街灯に照らされてきらきら光ってた」
「街灯の下に集まってたばこ吸ってたの? なんか違和感ある。普通“コンボニ”の駐車場とか 学校とか 河原とかじゃないの?」
「そういえば、街灯なかった気がする。建設中のマンションに囲まれた空き地か、田んぼに囲まれた一画だった気がする」
細めた瞼の端で南を見つめた奈緒が、「ふふん」とほくそ笑む。
「あらぁ、それでよく飛んでいるのが蝶々だって 分かりました ねぇ。しかも羽の色まで見える な ん て すごい。信じられない。だから やっぱり 蛾じゃないの?」
「いや、でも街灯あったかな? そうでなくとも月明かりが強くて明るかった気がする」
「言い訳はもういいですよ」
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