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出発
8ー1
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目が覚めると妻はもう起きていて、窓から庭の苗木を見つめていた。それを見た私は、昨日息子が死んだ事、昨日中には死んでいたかもしれないこの子供を匿うことにした事など、寝るまでに起きた全ての出来事を思い出した。
左を見ると、新しい我が子は、まだぐっすりと寝ている。昨日あれだけ恐ろしい目に遭ったのだから、起きる事が出来ないのも仕方がない。
微かにスープの香りがする。卵焼きを焼く音が聞こえてくる。私はこの子を起こさないように静かにベッドを下りると、妻と一緒に窓の外を見て言った。
「今日、あの子を連れて旅立つよ。
なるべく早い時間の切符を取って先に行って、君を待つよ。
本当は君と共に行きたいんだけど、あの子は早くにベルリンから出してやらないといけないからね」
「そうね、支店に行ってしまえば、なんとかなるはずだわ。
下にお店があって、上が住む部屋になっているから、アパートの様に他の住人がいるわけではないし、従業員も上には来ないでしょうから」
不意に、後ろから子供の声がする。
「あの・・・、おはようございます。
おじさん、おばさん、僕の事助けてくれて、どうもありがとう。
僕、本当に何でも言うこと聞きます、何で もしますから・・・、本当に」
私は笑って答えた。
「ダメだよ、何でもしたら。私達の息子はね、とても病弱なんだ。だから、毎日1日中寝て過ごしていたんだよ。
君も同じようにしてもらわなくちゃ困ってしまうよ」
「はい、じゃあ、そうします」
既に、外では人間狩りが始まっているようだ。犬の吠える声と、車両が走る音が聞こえてくる。昨日行われた区画より遠くで行われているようだ。
幸い、このアパートにドイツ人以外は住んでいないから、ここが襲われることは無いだろう。ここのオーナーは義父だから、住人の素性は全て把握している。
朝ご飯が食べ終わったらすぐにでも出発したかったが、ちょうどその時間帯にここの住人は仕事に向かう。何人かは息子の顔を知っているから、鉢合わせになるわけにはいかない。
食堂に出てきた義父は、ぎこちなくハルトを見て言った。
「おはよう・・・、良く眠れたかね? ええっと・・・」
「ハルトですよ、お義父さん」
「そうだったな、おはようハルト、良く眠れたかね?」
「はい・・・、・・・おじいちゃん?」
ハルトは、恐る恐る義父をそう呼んだ。その言葉に微笑で返した義父は、孫を連れて食卓に着いた。
左を見ると、新しい我が子は、まだぐっすりと寝ている。昨日あれだけ恐ろしい目に遭ったのだから、起きる事が出来ないのも仕方がない。
微かにスープの香りがする。卵焼きを焼く音が聞こえてくる。私はこの子を起こさないように静かにベッドを下りると、妻と一緒に窓の外を見て言った。
「今日、あの子を連れて旅立つよ。
なるべく早い時間の切符を取って先に行って、君を待つよ。
本当は君と共に行きたいんだけど、あの子は早くにベルリンから出してやらないといけないからね」
「そうね、支店に行ってしまえば、なんとかなるはずだわ。
下にお店があって、上が住む部屋になっているから、アパートの様に他の住人がいるわけではないし、従業員も上には来ないでしょうから」
不意に、後ろから子供の声がする。
「あの・・・、おはようございます。
おじさん、おばさん、僕の事助けてくれて、どうもありがとう。
僕、本当に何でも言うこと聞きます、何で もしますから・・・、本当に」
私は笑って答えた。
「ダメだよ、何でもしたら。私達の息子はね、とても病弱なんだ。だから、毎日1日中寝て過ごしていたんだよ。
君も同じようにしてもらわなくちゃ困ってしまうよ」
「はい、じゃあ、そうします」
既に、外では人間狩りが始まっているようだ。犬の吠える声と、車両が走る音が聞こえてくる。昨日行われた区画より遠くで行われているようだ。
幸い、このアパートにドイツ人以外は住んでいないから、ここが襲われることは無いだろう。ここのオーナーは義父だから、住人の素性は全て把握している。
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「おはよう・・・、良く眠れたかね? ええっと・・・」
「ハルトですよ、お義父さん」
「そうだったな、おはようハルト、良く眠れたかね?」
「はい・・・、・・・おじいちゃん?」
ハルトは、恐る恐る義父をそう呼んだ。その言葉に微笑で返した義父は、孫を連れて食卓に着いた。
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