Kaddish

緒方宗谷

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私とハルトの日常

11ー2

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 10畳程度の狭い寝室に1日中閉じ込められていて、耐えられるはずがない。私は何か適当な書物が無いか探したが、店舗には子供が読めそうな本は無い。
 社員に言って何か良い物を持って来てもらう事も考えたが、下手に子供との接点を作って、顔を合わせる機会ができるのもまずい。
 仕方がないので、余ったポスターの裏に絵を描けるようにとインクとペンを渡してやった。
 絵は、もっぱら家族の絵であった。宗教上の儀式なのか、燭台にのった何本もの蝋燭に灯が揺らいでいる。
 中には灰色の薄暗い絵もあった。そのような色合いの絵は大抵街中の絵で、路上には人が倒れている。彼の心の傷が如何に深いかを私に知らしめる絵だ。
 みんなが帰ると3階のキッチンに下りて行って、私は2人分の料理を作るのだが、日本にいたときから私は何1つ料理を作ったことが無く、悪戦苦闘の連続だった。幸い缶詰や調味料は店舗に置いてあったから、それを自ら購入して温めてもりつければ良い。
 ただ殆どが塩茹でで味が無い。醤油でもあればと思うのだが、西の果てで、しかも1人しか日本人の住んでいない田舎町で、醤油や味噌が手に入るはずがなかった。
 それでもソーセージは良いダシが取れるもので、大抵のスープはハーブやスパイスで味を調えれば十分飲むことが出来た。
 私は魚の方が好きであるが、基本的に肉食のドイツの田舎町では魚はほとんど手に入らない。だが、ソーセージの種類はビックリするほど豊富だ。
 妻や義母が作ってくれていたビルク家の味を思い出しながら、ポテトを煮たりミートボールを煮るのだが、大抵は全てブイヨン煮になる。ホワイトソースやシチューはレシピが分からず、作ろうにも作れない。私は、パンケーキのスープが大好物だったが、当分はおあずけだ。
 それでも不満は無かった。煮干しや鰹節は手に入らないけれども、ブイヨンとソーセージのお陰で毎日美味しい洋風煮物を作ることが出来る。なんとか自分もハルトも食事に困る事は無かった。
 少し離れたところにパン屋があるし、取引のあるライ麦農家もあるから、主食のパンにも困らない。牛乳も欠かさず飲むことが出来る。慎ましいながらも、衣食住に事欠く事は無かった。
 大体はこの様な毎日の繰り返しだ。しかし、思ったより妻が来るのが遅く、私は少し心配し始めていた。
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