Kaddish

緒方宗谷

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爆撃

18ー3

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 「どうしたんだ、メラ!? 気分が悪いのかい? もしそうなら、部屋で休んでいると良いよ」
 「大丈夫よ、病気ではないから。
  少しすれば落ち着くの、本当に何でもないから安心して」
 心配する私達に気を使いながらソファに横になる妻は、度々吐き気をもよおすようになっていた。原因は不明であったが、医者に行かなくても大丈夫だと言う妻を信じて、そっとしていた。
 食べ物の好き嫌いが激しくなって、私はようやく気が付いた。妻は妊娠したのだ。とても喜ばしい事であったが、こんなご時世で、生まれた子供をちゃんと育てられるのか心配だった。
 それを察したのか、ある時、悪阻のためにリビングの床にへたり込んだ妻は、駆け寄った私に言った。
 「もう少しして、ハッキリしたら伝えようと思っていたんですけど、わたし妊娠したみたいなの。
  コウスケさんは喜んでくれるでしょう? この子はわたし達の希望なのよ、春人の弟になるのよ。
  ドイツ人の血を引いているけれど、わたし達の子供なんですから、きっと差別しない子に育つわ。
  なんせ、春人がちゃんとお兄ちゃんになってくれるんですもの」
 「当り前さ、はるとは頼もしい長男だからな。
  それに、この地方の大都市は、空襲で既に焼け野原だ。
  もしかしたら、この子が生まれる前に戦争なんか終わっているかもしれないよ。
  ナチスがいなくなれば、みんな解放されるさ、・・・ドイツ人も他の人々も」
 「本当にそうであってほしいと切に願うわ。
  この間の爆撃で多くの人は目が覚めたようだけれど、誰もヒトラーが悪魔だなんて、口が裂けても言わないもの。
  なぜわたし達は、イタリア人みたいにできないのかしら。もしできていたなら、今頃平和になっていたかもしれないのに」
 妻も、このような時代に生まれてくる我が子の将来を案じている。不安で不安で仕方ないのだ。縋る様に私を抱きしめる彼女を抱えてソファへと連れて行った。
 しばらくして、4階から降りてきたはるとに妻の面倒をお願いした私は、彼女の代わりに紅茶の準備に取り掛かったちょうどその時、入り口をノックする音が聞こえたかと思った瞬間、陸軍士官トーマスの妻が扉を開けて入ってきた。
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