Kaddish

緒方宗谷

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再会

22ー1

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 既に雪はだいぶ積もるようになっていた。線路の爆破を恐れた汽車は度々止まり、収容所への距離は遅々として縮まない。
 私に座る席は無かったが、堂々と車両の端に立っていた。正式な軍属ではないが、会社は以前から軍に缶詰を卸していたし、町が壊滅して以降も軍と親衛隊に缶詰を届けていたから、誰も私を疑わなかった。
 ただ、親衛隊の1人だけが、私を冷ややかに見ている。ダニエル・ホフマンだ。トーマスの話では、彼ははるとが私の実の息子ではない事を知っている、というのだ。もしかしたら、彼がはるとを汽車に乗せたのかもしれない。彼を殺してやりたい気持ちでいっぱいだったが、私は堪えた。
 ナチスドイツは、断末魔の叫びをあげてのた打ち回っている様である。この汽車には、私が会ったことも無いような地位の将校が幾人か乗っているようだ。
 実際、黒服の親衛隊員はただの1人もいない。全員フィールドグレーの制服を着ている。非常勤の下っ端隊員がいない、と言うことだ。戦争がこの期に及んで、どこかに逃亡しようというのだろう。
 私は、はるとの消息を憂慮していた。戦争が末期に突入して、ドイツ本国の大都市は度重なる空襲に遭い、既にそのほとんどが壊滅しているようだ。
 トーマスの話では、収容所にいる人々は、ナチスが伝えているような幸せな生活はしていないが、畑を耕したりするなど農家の様な生活をしているらしい。だが同時に、ここから一番近いザクセンハウゼン収容所は、連合国軍が行ったオラニエンブルク爆撃によって壊滅したようだという噂が、車内に流れていた。
 皆はちゃんと食べている様であるが、私に食料は配られない。私は出発する前の晩に、小麦粉がほとんど入っていないライ麦パンを焼いていた。パンといっても満足に発酵させることが出来なかったので、硬くぎっしりしていて、とても美味しいといえるものでは無い。
 妻は、良くパンを焼いてくれていた。形が可愛いからと、ハートや動物の形をしたブレッツェルを焼いてくれた事を思い出す。調味料が手に入りづらくなってからは、だいぶ塩味をきかせていた。
 そういえば、時折小麦をあまり使わずに、ずっしりとしたギチギチの小型のライ麦パンを焼く事があった。私は日本の白いパンの方を好んでいたので、彼女は時々しか焼かなかったが、何故もっと彼女の家庭の味の1つであるライ麦パンを食べなかったのか。
 彼女は、ドイツで手に入る豆を軟らかく煮て砂糖を混ぜ、日本のあんこを再現しては、パン生地で丸く包んでアンパンを作り、はるとに食べさせていた。あの懐かしい甘みは、もう二度と食べる事ができない。
 はるとはいつも言っていた。
 「おかあさん、いつか僕も日本に行ってみたいな。
  だって、こんなに甘くて美味しいパンがあるんだもん」と。
 幸助は、嗚咽しながら言った。
 「日本へ行こう、4人で・・・。はるととメラと赤ちゃんと、4人で・・・」








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