猫のモモタ

自信なさげな駿馬の話

思い込みは鎖と同じ

　とても広い原っぱです。モモタは、はじめて牧場を見ました。原っぱは地平線の向こうまで続いています。
　始めてみるお友達がパッカパッカ走っています。
　モモタはウキウキしながら、大きな屋根のおうちがある方に、駆けて行きました。
　そよぐ風には、いろんな匂いが混ざっています。いろんな出会いの予感です。
　牧場を見渡すと、何頭もの馬が駆けています。熊さんのような大きなに、モモタはビックリです。ですが、草を食べているので安心です。
　とても早く走ったり、遊んだりしているみんなに、お尻を向けてそっぽを向いている馬がいます。
　視線の先には、柵のむこうに地平線が広がっています。
　それを見つけたモモタは、立ち尽くす馬のそばに駆けよって言いました。
　「お馬さんのように速く走れるなら、地平線になんて、僕よりも早く行けるだろうね」
　馬は、しばらく黙ってから言いました。
　「でもあんなに遠いよ、地平線の向こうになんか行けるはずないよ。
　　その先に何があるかもわからないし、行った先も草原だったら、意味ないじゃないか」
　モモタには、目の前の壊れた柵から目を背けるために、地平線を見ているように思えました。
　「自分に言い訳するのはやめなよ、本当は行きたいくせに。
　　少なくとも、あの地平線までは行ける、見えているんだから。
　　あの地平線にまで行けば、その先に何があるか分かるよ。
　　必要があれば行けばいいし、なければ戻ればいい。
　　ここと向こうの間には、草原しかないんだから」
　馬は、しらけぎみに聞いています。
　「君はいいね、柵をくぐれるんだから」
　「お馬さんはまたげるでしょ？」
　「君は僕のつらさが分からないから、簡単に言うけど、柵の大きさと怖い気持ちの大きさは違うんだよ」
　自分が大丈夫だからといって、相手が大丈夫だとは限りません。