猫のモモタ

緒方宗谷

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世界の中心、揚羽蝶の話

表は裏で裏は表

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 アゲハちゃんとスズメバチの女王は、もう長いこと喧々諤々(けんけんがくがく)の舌戦を繰り広げています。
 そこまで言って、アゲハちゃんはふと思いました。
 「分かったわ、あなたたち、とても目立ちがり屋さんなのね。
  だからここが良いんでしょう?こんなところに巣を作ったら、とても目を引くわ。
  とても自慢でしょう?だって、スズメバチの巣は大きくて強そうで、とても綺麗だもの」
 「何よ、いきなり」
 ちょっと照れたスズメバチの女王に、アゲハちゃんは説明しました。
 「だって、みんなに大人気じゃない?熊さんが大好物だって言っていたわ」
 「熊?熊だって?あいつらはわたしたちの天敵よ?」
 「そうなの?でも人間に好かれているのは嬉しいでしょう?私達も嬉しいもの」
 「アイツらも私たち達の事食べるのよ。
  お酒に入れたり、佃煮にしたしする恐ろしいやつらなのよ」
 「へぇ、じゃあ、なんでここにお家を作ろうとするのかしら」
 「そりゃ、見晴らしが良いし、温かいし、虫やトカゲがたくさんいるからね」
 「あなたたち、わたし達を食べる気でいるみたいだけど、あなたたちは食べられないとでも思っているの?
  わたしたちを見つけやすいかもしれないけど、あなたたちも見つけやすいのよ。
  そもそもここは人が作った木のお家とお庭だもの、あなた達すぐ目に留まるわ。
  そして人は言うの。『まあなんて素敵なスズメバチの巣なのかしら』って」
  どう、怖いでしょう?わたしたちはあなたたちにそんな思いをさせられているのよ」
 スズメバチたちは、顔を見合わせました。
 「それが何だって言うのよ、お前たちの事なんて知るんもんか」
 「そう、それじゃあ、わたしたちが人間や熊さんに、スズメバチがいますよって教えてあげようかしら?」
 「そういうのやめなさいよ、同じ虫仲間なのに、私達の事を脅す気なの?」
 「あら、脅してなんかいないわ、脅されているのは私たちだもの。
 私たちは、あなたたちが怖いから、仲の良い人間のところ逃げるのよ。
あなたたちに追い出されてね」
 形勢逆転です。弱いのを逆手にとって、とても強い立場を手に入れました。
 「そうだ、こうしない?わたしたちはあなた達の事を誰にも言わないわ。
 その代わり、ここに巣を作るのをやめてちょうだいよ」
 アゲハちゃんの提案に、スズメバチたちは考え込みます。
 スズメバチにとって揚羽蝶はとても弱い存在です。当まきに見ている紋黄蝶たちもとるにたりません。もし、一世に襲い掛かって来たとしても、今いる兵隊蜂だけで勝てるでしょう。
 ですが、一斉に逃げられては全員を捕まえることは出来ません。誰かが人間のところに知らせに行くでしょう。
 兵隊蜂達が不安げにしているのを見て、スズメバチの女王は言いました。
 「分かったわよ、その代り人に行ったらひどいんだからね」
 言い終わると、スズメバチの女王は子供たちを連れて飛んで行きました。
 今まで固唾を飲んで見守っていた虫たちは、拍手喝采、大歓声。一斉にアゲハちゃんの周りに集まって、いっぱい讃え賛美しました。
 握手しようと手を刺し延ばす虫たちに答えながら、モモタのお腹にとまったアゲハちゃんに、モモタは讃えた後に続けて言いました。
 「お互い干渉しあわないなんて、いつまでたっても分かり合えないよ」
 アゲハちゃんは笑いました。
 「分かってるわ。でも大丈夫。分かりあってるもの。
  だって、わたしたちは美味しくないけど、あの子たちは美味しいもの」
 良く分からないけど、人と熊のご馳走は分かっているんだろうな、と思うモモタでした。

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