猫のモモタ

ママになったパパの話

愛情は、１人じゃ生めないんだよ

　「あだぁ」と赤ちゃんが声を出しました。
　お父さんは、「よちよち」と声をかけます。
　赤ちゃんの声は、泣き出しそうな声でしたが、泣き出しませんでした。
　モモタの目には信じられない光景です。
　息を飲んで見つめ続けるしか出来ません。
　お父さんはおもむろに、赤ちゃんに乳首を差し出します。
　赤ちゃんは吸い付きました。
　しばらくすると、モモタの鼻に母乳の香りがほのかに伝わりました。
　なんということでしょう。男のお父さんなのに、おっぱいが出ているではありませんか。
　モモタは、はたと気がつきました。そう言えば、お父さんには乳首があるぞ、と。
　モモタご自分のお腹を見ると、男の子なのにやっぱり乳首がついています。
　犬にもウサギにもモルモットにも男の子にだってついています。
　なぜなのでしょう。モモタは不思議に思いました。だって赤ちゃんを育てるのは、ママのお仕事でしたから。
　オスはおっぱいをあげる必要がないので、乳首なんていらないはずです。
　実際、馬のオスには乳首がありません。ですが、お父さんにはありました。
　モモタが思い返すと、ご主人様の祐ちゃんにも、子供なのにありました。祐ちゃんパパにもありました。しかも、印象深い桃色乳首。
　今まで出会った男の人のお胸には、老いも若きも乳首がありました。桃色だったりバラ色だったり様々でしたが、みんな印象深い色でした。
　何のために乳首があるのでしょうか。
　そうです。おっぱいをあげるためなのです。
　子育ての大変なところも幸せなところも、パパとママ、夫婦で分かち合って、赤ちゃんを愛して育むのです。
　モモタのお友達は、猫でも犬でも、生まれた赤ちゃんをほったらかしにするパパしかいませんでした。
　ですが人間は違うのです。
　お父さんの内に眠る子への愛情は、動物とは、比べ物にならないくらい、大きくて深いのです。
　お父さんが、赤ちゃんを慈しむ姿は、窓から差し込む日の光を浴びて、あたかも優しさでほんわかしているかのようでした。
　そのほほ笑みは、モモタの微かな思い出の中で、何度も思い起こされるママを彷彿とさせました。
　モモタがママとお別れしたのは、とても小さかった時なので、霞の中のおぼろげな記憶しかありません。
　ですが、ママが僕に注いでくれた愛情と、お父さんが、今赤ちゃんに注いでいる愛情は、同じものだと、モモタには思えました。
　お父さんは、誰に言うわけでもなく言いました。
　「この子の笑顔だけが僕の幸せだと思えるよ。
　　この子の幸せを守ることだけが、僕にとってかけがえのない使命なんだと思える。
　　何の見返りがなくてもいい。
　　僕の全てを注ぎ込みたい。
　　僕の中にこんな愛情があったなんて知らなかった。
　　無償の愛を教えてくれたこの子に、この子を産んでくれた萌花に、心からありがとう、と言いたい」
　モモタは、人間はとても愛情深い生き物なんだなぁ、と思いました。
　動物と違って、人間の乳首が愛色なのは、内情が深いからなのでした。