猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第三十四話 モモタの想い

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 モモタたちは、クロスズメバチが追ってこなくなるくらいだいぶ遠くまで逃げてきました。もうクロスズメバチが一匹もいないことを確認して、ようやくミーナと合流です。

 ミーナは言いました。

 「でも、これで分かったでしょう? 空の王者はハチクマだって」

 チュウ太が呆れ気味に言いました。「ホントだな。だってスズメバチに勝てるやつなんていないもんな。あのツキノワグマでさえ逃げていったんだぜ。硬い毛におおわれているのにさ。さすがのキキだってスズメバチには敵わないだろ?」

 ミーナは得意気になってキキに言います。

 「ハチクマの“ハチ”は“蜂”の“ハチ”、“クマ”は“熊”の“クマ”、“蜂を屠る熊より強いタカ”って意味なのよ。」

 「そうなの?」とチュウ太。

 「分かんないけど、わたしが今考えたの」
みんな、ズコーとズッコケます。

 ミーナが笑いながら、キキに言いました。

 「だから言ったでしょう。“早く飛べるのは逃げるためでしょ”って。

 空の王者って言うからには、鳥の中だけで王者であっても仕方ないのよ。それなら鳥の王者止まり。どうしても空の王者って言いたいのなら、山の真上の空だけの王者って言いなさい。“大”は取るのよ。“蒼”に戻すの。あと、“スズメバチのいない”を頭につけないとね。

  空の王者って言うからには、虫の王者にも勝てないといけないわ。空の王者統一戦に勝てなきゃダメ」

 キキが反論します。

 「なに言ってんのさ。君と僕の対戦なら、確実に僕が勝つんだから。

  君に対してだけってわけじゃないぞ。他のハチクマと闘ったって負けやしないよってこと」

 「分かっているわ。そのくちばしと飛翔速度と旋回能力、突撃速度、どれをとってもハチクマには勝てないかもね。

  わたし、別の鷹匠と組んでいるハチクマの男の子を何度か見たことあるけれど、あなたほどクチバシも爪も鋭くないもの。力こぶでは負けないと思うけど。でも実戦では敵わないでしょうね」

 これでもかとミーナに褒めそやされて、キキは得意気です。

 会話が終わったのを見計らって、モモタが雫をくれないか、とお願いしました。

 ミーナが、黄色に輝く虹の雫を見やってからモモタに視線を戻し、「あげてもいいけれど――」と言って、キキに視線をずらしてから見つめて「――付き合ってくれるのなら、あげるわ」と言いました。

 そして続けます。

 「わたしたち、一緒になるといいと思うの。二羽揃えば、間違いなく大空の王者よ。どこの空に行ったって確実よ」

 「キャーすてきー」とアゲハちゃんが絶叫しました。「ミーナの言う通りだわ。二羽とも付き合っちゃいなさいよ。絶対確実間違いないわ」

 ひらひら舞い飛んで騒ぐアゲハちゃん。キキは、迷惑そうに翼をなびかせて風を起こし、そんなアゲハちゃんを向こうに流します。

 キキは言いました。

 「今はモモタと旅をしているから無理。空の王者として、友を見捨ててここに住みつくなんて、格好悪いことできないよ」

と断ります。

 するとミーナは、「そこが素敵」と言って雫をくれました。

 「やったー」とみんなが喜びます。

 ミーナが、黄色い虹の雫をモモタに渡してから、キキに話しかけました。

 「じゃあ、王者の誇りが傷つかないように、わたしが取り押さえて旅立てないようにしてやるんだから」と言って、キキに襲い掛かります。

 キキは、ひらりとミーナをよけて、慌てて飛んで逃げていきました。「まって~」とミーナも飛んでいきます。

 それを見上げて、アゲハちゃん「ちぇ~、なによ、ラブラブになっちゃえばいいのに。もう少しですてきなラブストリーが始まったのになぁ。そしたらミーナは、キキを追いかけてついてくるだろうし、わたしたちもっと安全になれたのに」

 「あ、確かに」とチュウ太が納得です。

 「こういうの、『三方良し』っていうのよ」
 アゲハちゃんが得意気にうんちくを披露しました。

 モモタたちは、キキが戻ってくるのを待って、ニホンミツバチの女王様のところに行くことにしました。

 黄色い虹の雫を見たことのあるミツバチたちは、モモタの持ってきた雫を見つけると、びっくりして騒ぎ出します。

 モモタは、巣から出てきた女王蜂のミチコさんに、黄色い虹の雫を取り返した経緯を話しました。そして、太陽と虹色の女の子の言い伝えを語り、「この虹の雫を僕にくれませんか?」とお願いしました。

 ミツバチたちは、お互いに耳を寄せ当て、
 ((もし渡さなければ、ハチクマに食べられちゃうんじゃないか))とヒソヒソ囁き合っています。

 チラチラ自分を見やるミツバチたちに、ミーナが言いました。

 「もともとこっちが持っているんだから、断ったからって返さなければいいだけ。だから食べないわよ」そして、続けてミツバチたちを見渡しながら、「返せって無理に取り上げようとするのなら、食べちゃってもいいのよ」と、ツンツンした感じで言い放ちます。

 ミツバチたちは恐れをなして、お城の木にとまって固まりました。

 アゲハちゃんが、ミチコさんに一つ提案しました。

 「くれたほうがいいと思うわ。だって恩を売れていいでしょう? わたしたちが感謝すれば、キキと仲がいいミーナは、この巣のミツバチを悪くはしないと思うの。だってミーナはキキに嫌われたくないはずだもの。悪くされないということは、食べられないということだし、今度スズメバチに襲われたら助けてくれるわ。すっごい心強い味方よ。だってツキノワグマすら撃退するほど強いクロスズメバチを食べちゃうんだから」

 ミチコさんは、確かにそうだ、と頷きながら聞いていました。後ろで縮こまるミツバチたちも、なんか前代未聞の出来事が起こりそうだ、と騒ぎ出します。だって、蜂を食べるハチクマが蜂の用心棒になるかもしれないのですから。

 ミチコさんは言いました。

 「クロスズメバチから取りかえしたのはあなたたちです。あなたたちが取りかえさなければ、わたしは再び蜜の雫石を見ることすら叶わなかったことでしょう」そして微笑みをモモタに送って言いました。「だから、差し上げます」

 「やったー」みんなお喜び。

 陽が暮れ始めました。空は燃えるような茜色に染まっています。遠くに、お家に帰るカラスの鳴き声が聞こえていました。

 一日の営みが一段落して、みんなが一日を振り返っているのでしょう。楽しかったことや失敗したことがありました。茜色の太陽は、そんなみんなを褒めたり慰めたりするように村を照らします。

 地上の出来事を見守っているかのようにみんなを照らす太陽の輝きは、眩しくありません。みんな太陽が好きなのでしょう。あんなに眩しくて見つめられなかった太陽が見つめられるくらいの優しい光に変わると、みんな慈しむように夕日を見つめます。

 モモタたちも夕日を眺めました。色々なことを語り合いながら帰りました。

 次の日の早朝モモタたちは、大きな道路の脇の茂みでミーナのお見送りを受けました。

 ミーナが、名残惜しそうにキキに言いました。

 「いつか迎えにきてね。わたし待っているからね」

 キキは、もじもじテレテレしています。

 「ヒューヒュー」と、みんなに囃されて、「茶化すなよ」とキキが言いました。

 「キャッキャ」としながら、次の雫を探す冒険が始まりました。
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