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モモタとママと虹の架け橋
第四十七話 虹の雫はどんな味?
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丘一面を覆う菜の花畑の中に、一匹のキツネが潜んでいました。美味しそうな匂いでも見つけたのでしょう。土のにおいを嗅ぎながら、静かに一歩、また静かに一歩、と進んでいきます。当てもなくさまよっているわけではないのは、明らかです。
大空を舞うキキには、全てがお見通しでした。
菜の花と菜の花の隙間からチラチラ見えるキツネの背中。何かの匂いを追っていること。そしてその先にはヒマワリ畑があって、その中にチュウ太がいること。
そうです。キツネは、チュウ太を狙っていたのです。
キキがアゲハちゃんを見やりました。彼女は気がついていません。たぶん、モモタもそれほど遠くないところにいるでしょう。彼女が何事もなくヒラヒラ飛んでいるところを見ると、モモタも気がついていないはずです。
キツネから見て、モモタたちは風下にいましたから、モモタの鼻なら気がつけるはずですが、モモタが騒いで危険を知らせる様子はありません。とても広大な範囲を花々が覆い尽くしていましたから、風の通りが弱く、においに気がつけないのでしょう。
キツネのそばにもごはんになりそうな小動物がチョロチョロしているのが、キキには見えました。彼らはキツネに気がついていないようですし、キツネも気がついていないようです。
キキは、キツネの上空を旋回しながら、黙って見ていました。
(故郷のキツネと比べてだいぶ大きいな)と思ったキキですが、負ける気はしていないのでしょう。強気の姿勢は崩しません。だってキキは空の王者ですから。
先手必勝で背中を鷹掴みしてしまえば、どんなに暴れられても放しはしません。海もそれほど遠くありませんし、川もあります。水攻めにしてしまえば、今日明日はお腹いっぱい食べられます。
キツネが更に慎重に身をかがめました。キキも慎重になりました。キツネがちょうど菜の花畑とヒマワリ畑の境に来たからです。
ヒマワリは、菜の花畑よりも一本一本が密集していません。ですから風通しがいいですし、音の通りもいいはずです。ですから、キツネはチュウ太に見つからないように、一度立ち止まって伏せたのでしょう。
菜の花畑から突き出したキツネの頭が、キキからよく見えます。ということは、キツネが見上げれば、キキの姿も見えるはず。そう思ったキキは、キツネの視界に入らないように、旋回する位置を変えました。
不意に、キツネが進み始めます。とても低姿勢で小走りして進んでいきます。真っ直ぐではありませんが、地面のにおいも嗅がずに進んでいく姿から、チュウ太のいる方向を把握しているのでしょう。
キツネはチュウ太の風下に回り込んでいましたから、もはや足跡のにおいを追跡しなくとも、居場所が分かるようです。
チュウ太は、相変わらず気がつかない様子で、拾ったヒマワリの種をつまんでいました。
キツネが駆けだしました。ついにチュウ太の位置を肉眼で確認したのでしょう。一心不乱に直進していきます。
キキは、左に体を傾けて高度を下げ、そのまま頭をキツネに向けるために螺旋一回転急速降下。時速100キロ超えで突っ込みました。
ザザザッ、と葉の擦れる音がしてヒマワリの茎が激しく揺れます。上空から見ても、ヒマワリの花が不自然に激しく揺れるのが見えました。その揺れは帯となって進んでいきます。
キキは、よく目を凝らせてその揺れの先を目指しました。無数に重なり合うヒマワリの茎の隙間に見える美味しそうなきつね色を、刹那の合間も見逃しません。
ヒマワリの葉が擦れる音に気がついたチュウ太が、音の鳴るほうを向いた瞬間、ヒマワリの束の合間から、急にキツネの顔が現れました。キツネは大きく口を開いています。ぎらつく牙が何本も並んでいました。
「ぎゃー!」とチュウ太が叫びます。
チュウ太には、咽喉の奥の奥まで見えていました。あの奥はお腹の中までつながる暗闇の洞窟。突然の襲来にびっくりしたチュウ太は、もんどりうってお尻をキツネに晒しました。
一回転したチュウ太が、図らずもキツネの方を見やると、迫りくるキツネの真後ろに、太陽の光を背に受けながら大きく翼を広げたキキの姿が見えました。
逆光で陰になったその雄姿に、キツネは背中を鷹掴みにされて宙に持ち上げられます。一瞬何事が起きたのか分からない様子のキツネの表情が、チュウ太には見えました。
キキは、上空に舞い戻るとジェットコースターのように高速で飛び回り、キツネに遠心力をかけて怖がらせます。
ジタバタするキツネを海まで連れて行こう、と羽ばたいたキキに、キツネが言いました。
「あっ、あっ、あっ、待って、待って! 食べないで。君あれだろ? 虹の雫ってのを探しているタカの子だろ? おいら知ってんだ。教えてやる。教えてやるから、おいらを食べないで」
情報がないので立ち往生していたキキたちにとっては、まさに渡りに船です。
キキは、「嘘ついたら食べてしまうぞ」と念を押して、彼を連れてアゲハちゃんのところに向かいました。
キツネを捕まえて勝ちどきをあげるキキの声を聞きつけて、アゲハちゃんのもとに駆け付けたモモタも一緒に、キキを出迎えます。しばらくして、一目散に逃げ戻ってきたチュウ太も合流しました。みんなで、すっかりしょげているキツネを囲みます。
キツネは言いました。
「面白い話なんだ。面白い話……」
キツネが後退りします。キキの爪がとても怖いようでした。背中の傷をなめることもできずにいるようです。キツネは続けて言いました。
「実はね、最近クジラが沿岸近くでたむろってて、人間たちは漁が出来ないらしいんだ。
えーとね、それで、なんでそんなことになたかってゆーと、人間の漁師の一人が虹の雫を持っているって噂で、クジラが奪いに来たんだと。
クジラは――あれだね。その虹の雫を飲んでみたいんだろうね。しょっぱい水しか飲んだことないから」
そう言い終わって、「それで――」と続けたキツネが、鼻先で海の方を指し示します。
みんながチラリと海の方を見やった瞬間、隙をついたキツネが「じゃ、おいらはこれでっっ」と逃げていきました。
しまった、と言ったふうの表情をしたキキが追おうしますが、モモタがキキを止めて言いました。
「いいよ、キキ。人間が持ってるってお話を聞けたんだから。それより、クジラって何か知ってる? 僕知らないから見に行ってみたい」
すると、アゲハちゃんも「さんせーい」と楽しそうな声を上げます。
キキは、残念そうにキツネが逃げた方を見やります。ですが、“虹の雫の話をしたら食べないであげる”と約束もしてあったので、今聞いたお話だけで許してあげることにしました。
モモタたちは、港に下りてきました。
防波堤から海を見やると、遠くの方に大きなお魚が見えます。深い紺色のお魚でした。実際はお魚ではないのですが、誰もクジラを見たことがなかったので、お魚と間違えてしまうのは無理もありません。
あまりの大きさにみんなびっくりです。クマなんかよりもとても大きくて、しかも背中から噴水が出ています。
港には、多くの人たちがいました。雰囲気的に漁師でない人が大半。クジラが珍しいくて集まってきたのでしょう。匂いも都会風の香りがする人たちがいっぱいでした。
モモタは、人の足元をすり抜けて、虹の雫の輝きが衣服から漏れていないかを探りますが、見つかりませんでした。人が多すぎて誰が持っているか分か目星もつきません。
さて、一体誰が持っているんだろう、とみんなで悩みます。
キキが言いました。
「港といってもたくさんあるよ。ここだけじゃなくて、海岸はみんな港ってやつみたいに見えたけどな」
アゲハちゃんが、「そういうことなら、ここにいる漁師って人たちだけを当ってもダメね」と言います。
「それと――」キキが付け加えて、「遠くに雪の積もった島があったよ」と言いました。
「ほんとに⁉」とチュウ太「もう雪が降ってるとこがあるんだな。さすが北国」と驚きます。
モモタはクジラの方を見て言いました。
「クジラは知ってるんじゃないかな。だから集まってきたんだろうし」
しかしクジラたちは、特定の港に集まっているわけではなく、沖合に集まっていたので、どの港のことか分かりません。
そこでキキに頼んで、クジラから一番近くてよく見える漁港を上空から探してもらいました。一番近い漁港でお魚を捕っている人が持っているから、クジラたちはそばに集まっているんだ、と推論を立てたからです。
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キキは、キツネの上空を旋回しながら、黙って見ていました。
(故郷のキツネと比べてだいぶ大きいな)と思ったキキですが、負ける気はしていないのでしょう。強気の姿勢は崩しません。だってキキは空の王者ですから。
先手必勝で背中を鷹掴みしてしまえば、どんなに暴れられても放しはしません。海もそれほど遠くありませんし、川もあります。水攻めにしてしまえば、今日明日はお腹いっぱい食べられます。
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ヒマワリは、菜の花畑よりも一本一本が密集していません。ですから風通しがいいですし、音の通りもいいはずです。ですから、キツネはチュウ太に見つからないように、一度立ち止まって伏せたのでしょう。
菜の花畑から突き出したキツネの頭が、キキからよく見えます。ということは、キツネが見上げれば、キキの姿も見えるはず。そう思ったキキは、キツネの視界に入らないように、旋回する位置を変えました。
不意に、キツネが進み始めます。とても低姿勢で小走りして進んでいきます。真っ直ぐではありませんが、地面のにおいも嗅がずに進んでいく姿から、チュウ太のいる方向を把握しているのでしょう。
キツネはチュウ太の風下に回り込んでいましたから、もはや足跡のにおいを追跡しなくとも、居場所が分かるようです。
チュウ太は、相変わらず気がつかない様子で、拾ったヒマワリの種をつまんでいました。
キツネが駆けだしました。ついにチュウ太の位置を肉眼で確認したのでしょう。一心不乱に直進していきます。
キキは、左に体を傾けて高度を下げ、そのまま頭をキツネに向けるために螺旋一回転急速降下。時速100キロ超えで突っ込みました。
ザザザッ、と葉の擦れる音がしてヒマワリの茎が激しく揺れます。上空から見ても、ヒマワリの花が不自然に激しく揺れるのが見えました。その揺れは帯となって進んでいきます。
キキは、よく目を凝らせてその揺れの先を目指しました。無数に重なり合うヒマワリの茎の隙間に見える美味しそうなきつね色を、刹那の合間も見逃しません。
ヒマワリの葉が擦れる音に気がついたチュウ太が、音の鳴るほうを向いた瞬間、ヒマワリの束の合間から、急にキツネの顔が現れました。キツネは大きく口を開いています。ぎらつく牙が何本も並んでいました。
「ぎゃー!」とチュウ太が叫びます。
チュウ太には、咽喉の奥の奥まで見えていました。あの奥はお腹の中までつながる暗闇の洞窟。突然の襲来にびっくりしたチュウ太は、もんどりうってお尻をキツネに晒しました。
一回転したチュウ太が、図らずもキツネの方を見やると、迫りくるキツネの真後ろに、太陽の光を背に受けながら大きく翼を広げたキキの姿が見えました。
逆光で陰になったその雄姿に、キツネは背中を鷹掴みにされて宙に持ち上げられます。一瞬何事が起きたのか分からない様子のキツネの表情が、チュウ太には見えました。
キキは、上空に舞い戻るとジェットコースターのように高速で飛び回り、キツネに遠心力をかけて怖がらせます。
ジタバタするキツネを海まで連れて行こう、と羽ばたいたキキに、キツネが言いました。
「あっ、あっ、あっ、待って、待って! 食べないで。君あれだろ? 虹の雫ってのを探しているタカの子だろ? おいら知ってんだ。教えてやる。教えてやるから、おいらを食べないで」
情報がないので立ち往生していたキキたちにとっては、まさに渡りに船です。
キキは、「嘘ついたら食べてしまうぞ」と念を押して、彼を連れてアゲハちゃんのところに向かいました。
キツネを捕まえて勝ちどきをあげるキキの声を聞きつけて、アゲハちゃんのもとに駆け付けたモモタも一緒に、キキを出迎えます。しばらくして、一目散に逃げ戻ってきたチュウ太も合流しました。みんなで、すっかりしょげているキツネを囲みます。
キツネは言いました。
「面白い話なんだ。面白い話……」
キツネが後退りします。キキの爪がとても怖いようでした。背中の傷をなめることもできずにいるようです。キツネは続けて言いました。
「実はね、最近クジラが沿岸近くでたむろってて、人間たちは漁が出来ないらしいんだ。
えーとね、それで、なんでそんなことになたかってゆーと、人間の漁師の一人が虹の雫を持っているって噂で、クジラが奪いに来たんだと。
クジラは――あれだね。その虹の雫を飲んでみたいんだろうね。しょっぱい水しか飲んだことないから」
そう言い終わって、「それで――」と続けたキツネが、鼻先で海の方を指し示します。
みんながチラリと海の方を見やった瞬間、隙をついたキツネが「じゃ、おいらはこれでっっ」と逃げていきました。
しまった、と言ったふうの表情をしたキキが追おうしますが、モモタがキキを止めて言いました。
「いいよ、キキ。人間が持ってるってお話を聞けたんだから。それより、クジラって何か知ってる? 僕知らないから見に行ってみたい」
すると、アゲハちゃんも「さんせーい」と楽しそうな声を上げます。
キキは、残念そうにキツネが逃げた方を見やります。ですが、“虹の雫の話をしたら食べないであげる”と約束もしてあったので、今聞いたお話だけで許してあげることにしました。
モモタたちは、港に下りてきました。
防波堤から海を見やると、遠くの方に大きなお魚が見えます。深い紺色のお魚でした。実際はお魚ではないのですが、誰もクジラを見たことがなかったので、お魚と間違えてしまうのは無理もありません。
あまりの大きさにみんなびっくりです。クマなんかよりもとても大きくて、しかも背中から噴水が出ています。
港には、多くの人たちがいました。雰囲気的に漁師でない人が大半。クジラが珍しいくて集まってきたのでしょう。匂いも都会風の香りがする人たちがいっぱいでした。
モモタは、人の足元をすり抜けて、虹の雫の輝きが衣服から漏れていないかを探りますが、見つかりませんでした。人が多すぎて誰が持っているか分か目星もつきません。
さて、一体誰が持っているんだろう、とみんなで悩みます。
キキが言いました。
「港といってもたくさんあるよ。ここだけじゃなくて、海岸はみんな港ってやつみたいに見えたけどな」
アゲハちゃんが、「そういうことなら、ここにいる漁師って人たちだけを当ってもダメね」と言います。
「それと――」キキが付け加えて、「遠くに雪の積もった島があったよ」と言いました。
「ほんとに⁉」とチュウ太「もう雪が降ってるとこがあるんだな。さすが北国」と驚きます。
モモタはクジラの方を見て言いました。
「クジラは知ってるんじゃないかな。だから集まってきたんだろうし」
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