猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第百十六話 灰色の雨

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 カンタンは、だいぶ長いこと飛んでいましたが、まだ目的の島には到着しません。

 チュウ太がお空酔いをしてうな垂れています。

 「ううう~。気持ち悪いったらありゃしない。このまま目が回って飲み込まれたらどうしよう」

 カンタンが笑いました。

 「美味しくいただいてあげたいところだけど、キキが怒るかなぁ」

 「キキー、頼むよ。もし僕が食べられたら、カンタンのお腹を破って僕を救い出してくれよ。僕を食べていいのは、モモタだけなんだから」

 「ああ、分かったよ。でも君だって立派な前歯があるんだから、中から穴をあけてやればいいんだよ」

 モモタもチュウ太をなだめて言います。

 「僕もいるから大丈夫だよ。爪で引っ掻くから、一緒にお腹に穴をあけてあげようよ」

 三匹の話をカンタンが遮ります。

 「やめてくれよ、そんな怖いは話。大丈夫だって、僕は絶対に食べないからさ」

 カンタンはとても大きな鳥ですから、そこそこ力がありました。本気で戦えば、モモタやキキに勝るかもしれません。勝てないまでも負けはしないでしょう。なんせ人間ほどに大きいのですから。ですが、猛禽や肉食獣ではないので、戦ってまでごはんを食べようとは思いません。

 みんなは気がついていませんでしたが、それもまた強さでした。

 度々陸地でお休みをしながら飛び続けて、ようやく目当ての島が見えてきました。

 カンタンが唖然としています。

 「なんか大変なことになっているよ」

 モモタたちが、カンタンのくちばしの先を見やると、何やら大きな灰色の雲が、もくもくと空に上がっています。とても不思議な雲で、島の上空だけを覆っています。それは、島の大部分を占める山の頂上から湧き上がっていました。

 「火山噴火だ」カンタンが叫びます。

 火山は、今正に噴火を繰り返しています。山頂にある火口からは止めどなく噴石をまき散らし、時折、赤いマグマが噴出しています。その量はとても多く、マグマの赤オレンジの川ができるほどでした。

 上空を飛ぶカンタンたちの身にも、熱風が吹きつけます。時々石ころが空から降ってきました。大きなものもあってとても危険です。カンタンとキキはそれを避けながら、島の上空を旋回して、島の様子を伺いました。

 眼下に広がる島には、所々に民家が密集しています。その一部がマグマに飲み込まれて燃えていました。

 地面の大部分は、黒灰色をした固まったゴツゴツの溶岩に覆われています。その上を火山礫(れき)が埋め尽くしていました。

 カンタンは、赤々と燃え上がるマグマの川を避けて、どこか安全に下り立てるところはないものか、と探します。島に下りようと試みますが、カンタンはとりやめました。低空で滑空して着陸態勢に入った時に、尋常じゃない熱を地面から感じて、再び空高く舞い上がりました。

 カンタンは急旋回して、近くの島を目指します。目的の島が見える近くの海岸に下りて、噴火する島を見ることしか出来ません。みんなは唖然呆然とするばかりです。

 火山は、小さいながらも休まず火を噴いていました。人間も逃げたくらいですから、これ以上近づかないほうがいいでしょう。

 カンタンは言いました。

 「虹の雫があるほこらは、海のそばの小さな丘の上だから、マグマの川に流されてはいないけれど、時間の問題だね。もう丘の森は燃え始めてるし」

 モモタは途方にくれました。

 「どうしよう。このままじゃ、虹の雫が燃えてなくなっちゃうよ」

 カンタンが言います。

 「ほこらには行けるけど、あんなにたくさんの石が降ってくる中を行ったら、とても危険だよ。もしかしたら当って死んでしまうかもしれない」

 大きくて何層にも連なった煙は、所々が黒々とした影を滲ませています。そして、火山灰という名の雨を降らせていました。

 モモタたちのいる島は無人島のようでしたが、噴火した島から逃げてやってきた鳥たちが、心配そうに火山を見て途方に暮れいます。只ならぬ雰囲気が、辺りに立ち込めていました。

 島は、噴き出したマグマに飲まれつつあります。丘がマグマに沈むのも、時間の問題かもしれません。

 そんな時、一匹の蝶々がやってきました。みんなのそばに生えていた草にとまった、とっても可愛らしいその女の子は、灰色の翅を可愛らしく揺らしながら、アゲハちゃんに声をかけてきました。

 「もしかして、あなたアゲハちゃん?」

 「そうだけど、なーに?」
 「よかったぁ、こんなところにいたのね」
 そう言って喜ぶ女の子は、誰もまだ出会ったことのない、ウラナミシジミという初めて見る蝶々です。濃いめの羽色が大人びていて、黒とオレンジの小さなまあるい模様がチャームポイント。
 ミヤマカラスアゲハの女の子がアゲハちゃんであることを確認したウラナミシジミの女の子は、カンタンの背に舞い飛んでいって、とまってからモモタに話を続けてきました。

 「あなたね、猫のモモちゃんって。紋白蝶のさゆりちゃんからあなたに伝言を頼まれて、みんなで探していたのよ」

 蝶々の伝言ゲームで、モモタへの伝言が日本全国に広まっているようでした。

 「あのね、祐ちゃんが大変なんだって、病気なの」

 モモタはびっくりしました。

 「うそ! なんで!?」

 「分からないけれど、車にも轢かれて、屋根から落ちて、お家からも追い出されたんですって」

 なんてことでしょう。あんなに幸せだった祐ちゃんに何があったのでしょうか。 


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