猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
484 / 514
モモタとママと虹の架け橋

第百十七話 どの道を進むべきかは、結果と同じくらい大事

しおりを挟む
 モモタは、居ても立ってもいられませんでした。なんせ、大好きな祐ちゃんが危篤だという知らせを聞いたのですから。お家まで陸続きでないにもかかわらず、モモタは慌てて走って帰ろうとします。

 それを見てチュウ太が、モモタのしっぽを引っ張って止めました。

 「ちょっと待ってよ。虹の雫はどうするんだい? 目と鼻の先にあるんだよ。先に取りに行こうよ。このままじゃ焼けてなくなっちゃうぞ」

 「そうよ」とアゲハちゃんも言いました。「もうあと二つだけなのよ。あと二つ集めれば、モモちゃんはママに会えるでしょう? それからでも遅くないんじゃないかしら。

  モモちゃんは、ずっとママに会うことを願ってきたのよ。それがもうすぐ叶うのに、虹の雫を諦めてしまうなんて、捨ててしまうのとおんなじだわ。そんなことをして、祐ちゃんは喜ぶかしら? もしこのことを知ったら、『僕のせいでモモちゃんが不幸になった』って悲しむんじゃないかしら」

 チュウ太が、モモタの前に立ちはだかります。

 「僕もここに残るべきだと思うよ。モモタは強い決意を持ってここまで大冒険を続けてきたんだ。だから、更に強い決意も持ってここに踏み止まるべきだよ。そして、前に進むべきなんだ。

  モモタは、たくさん旅行してきたな中で、時々お家には帰っていたんだろ? その度にまた旅行に出ていたんだ。でも祐ちゃんは止めなかった。一緒にいたいはずなのに、止めなかったんだよ。それは、旅行がモモタにとってとても大切なことだって分かっていたからじゃないかな。

  確かに今祐ちゃんは大変な事態に巻き込まれてるかもしれないけど、祐ちゃんは祐ちゃんで頑張ってるんだ。祐ちゃんだけじゃない。僕たちだって頑張ってきたんだよ。モモタの夢を叶えさせてあげようって。その気持ちも大切にしておくれよ。

  モモタが本当に幸せになってくれなきゃ、僕たちは報われない。モモタに再会しても、モモタが幸せじゃなかったら、祐ちゃんも報われないよ」

 キキも、モモタは残るべきだという考えを持っていました。

 「どんなにつらくても、今は進むべきだと思う。僕たちは知っているじゃないか。七色の少女も、虹の雫のお話も、イルカとジュゴンの物語も、ジュエリー・マーメイドも、全部悲しい結末の物語だったけれど、でもその悲しみの先には幸せが待っているんだって。それを信じられたじゃないか。

  もしかしたら、君と祐ちゃんは永延に別れてしまうことになるかもしれないけど、その先にある幸せを手に入れられるかどうかが、真実の愛情なんじゃないかな。

  僕たちが聞いてきたお話は、長い長い歴史の中で起こったことでしょ? 何百年、何千年って時の彼方で起こった出来事だよ。でも彼らの愛情は色あせていない。途切れず今まで語り継がれてきた。ニーラのように愛情の結晶が今も王子と姫の愛の巣を守っているように、どこかの西の海で、アルトゥールから生まれたサンゴ礁も誰かに守られてるんじゃないかな。

  生と死は愛を別つものではない。それは、どのお話にも共通することだよ。当然、モモタと祐ちゃんの愛情も別れることはないだろうね。そして永遠に残るんだ。そこにママとの愛情も加えるんだよ。真心はもっと光り輝いて、大きくなるんじゃないかな。

  僕たちとの友情も加えるんだ。いつかこういう話が出たことがあったじゃない。愛情は無限だけど僕たちは永遠じゃないから、無限の愛情を有限の形に収めなければならないって。僕たちの大冒険の物語も完結させなければならない。そうすることで、僕たちが理解できる永遠性を持たせなければならないと思うんだ」

 モモタは、静かにみんなの意見を聞いていました。そして、迷いもせずに言いました。

 「ありがとう、みんな。みんなの友情は何にも代えがたい大切なものだよ。いつかは、この物語も完結させないといけないと思う。だけれけども、僕の考えてるエンディングは違うんだ。もう少し長いお話になると思うけれど、一緒に見て、聞いてほしい。

  確かに僕は、ママに会いたくて冒険の旅に出ることを決意したけど、目的だけが大切なことじゃないと思う。その目的に向かうまでの道のりにも同じくらい大切なものがあるんだと思う。

  それに、僕はママに会いたいと思ってるけど、その気持ちよりも祐ちゃんの命のほうが大切だもん。もちろんママへの気持ちも、祐ちゃんへの気持ちやみんなへの気持ちと同じくらい大切だけど、会いたいって気持ちは二の次。だから、ママには会いたいけれど、でも代わりに祐ちゃんを失うなんて嫌だよ」

 チュウ太が、「そこを堪えて前に突き進むのが男だぞ」と発破をかけました。

 「なら、男になれなくてもいいよ。僕、祐ちゃんを助けたい。もし虹の雫がなくなったのなら、虹に頼らずに、自分でママを探し出すよ。だって生きていれば、いつか必ず見つけられるもん。

  でも、祐ちゃんが死んじゃったら、もう二度と会えないでしょ。そんなのやだよ」

 それを聞いて、みんなは静まり返ります。その沈黙を破って、チュウ太は笑いました。

 「そうだな…それでこそ男だ。自分の望みを諦めてでも、親友を守ろうとする友情の心は、何にも代えがたいんだ」

 アゲハちゃんが、話しに割って入ります。

 「モモちゃんは諦めていないわ」

 「そうだ、そうだね」チュウ太が言います。「モモタは男の中の男だ。よーし、祐ちゃん助けに向かって特攻だー」

 盛り上がるチュウ太に、キキが言いました。

 「でもどうやって帰るんだ? だいたいの方向しか分からないのに」

 満を持してカンタンが口を開きます。

 「そこは僕の出番だよ。さあさ、お口に入った入った」

 「えー? またー?」とチュウ太がぼやきます。

 モモタもちょっとためらいました。

 「妙案があるんだよ」と、カンタンが急かします。

 顔を見合わせるモモタたちに、カンタンが続けて言いました。

 「友情のために特攻じゃないの?」

 「わたしは小さいから、背中に乗るわ」アゲハちゃんは、一抜けたー、といったふうにカンタンの背中にヒラヒラと飛んでいきます。

 それを見てチュウ太が言いました。

 「アゲハちゃんずるい。僕も背中」

 「え~? 僕一匹?」モモタが「にゃー」と鳴きました。

 キキがチュウ太に言います。

 「チュウ太、一緒に口に入ってやれよ。モモタの第一の親友なんだろ?」

 「そうだ、僕はそうだった。もちろん、お口の特等席に座るさ」

 「ありがとー」とモモタがチュウ太にお礼を言います。

 みんなの準備が万端整って、カンタンが言いました。

 「お腹ペコペコだけど、頑張るよ」

 チュウ太はびっくりです。

 「もし嘘ついて僕たちを食べたら、この鋭い前歯で、お腹の中を噛みちぎって、穴をあけてやるぞ」

 「外から僕もついばんでやる」と、キキも言いました。

 アゲハちゃんが無邪気に笑います。

 「外と中が繋がれば、お外には出られるけれど、その前に落ちちゃうわね」

 モモタが怯えて言いました。

 「穴開ける時は、地面の上でにしてね」

 チュウ太も心配そうに言います。

 「僕外見れないよ」

 キキが言いました。

 「安心して。僕がカンタンを鷹掴みにして、土の上に押さえつけて食べてやるから」

 カンタンが悲鳴をあげました。

 「だから、食べないって」とっても困り顔です。

 モモタとチュウ太は、笑いながらカンタンのお口に入りました。

 何度か翼を羽ばたかせてウォーミングアップしたカンタンが元気に声を張り上げます。

 「出発進行ー」

 事は急を要します。一刻の猶予もありません。モモタは、眉が焦げる思いで急いでお家へと向かいました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...