ホラー短編集

緒方宗谷

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鬼胎

正義の味方

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 アメリカ合衆国政府が、驚くべき発表を行った。
 それは、宇宙の平和を悪い怪獣たちから守る正義の味方『ウルトラン』が、太陽系方面に飛来する、という内容だった。
 そして付け加えて、世界各国の展望台を使って、地球に向かってくる宇宙怪獣がいないか及び、地球に小型の怪獣が潜んでいないか徹底的に調査しよう、と呼びかけた。
 日本をはじめとする世界各国は、それをこぞって報道した。世界中の子供たちは、宇宙のはるか彼方から飛んでくるウルトランに思いをはせ、子供の頃にウルトランをテレビで見ていた大人たちもこぞって歓迎のセレモニーをしようと、SNSの拡散に努めだした。
 その歓迎ムードの熱は、月日を追うごとに高まっていく。歓迎ムードにさらに拍車をかけたのは、太陽系に宇宙怪獣の存在は確認できなかったこと並びに、地球上においても怪獣の存在は認められなかったことだっだ。
 海底調査も行われたが、麻薬の大量廃棄で生まれたかもしれないコモラも、コモラのライバルで、マイクロプラスチックが胃だか腸内だかに堆積して巨大化したキングヒドラもいない。肉骨粉を食べたせいで千鳥足になり、ダンディなアメリカ男をさらって摩天楼の頂上まで登るクイーンカウもいない。地球は平和そのものだった。
 数年がたって、天体望遠鏡でウルトランの姿を鮮明にとらえることのできた世界各国は、一斉にその映像を公表した。子供たちは歓喜した。身長百数十メートル。赤いスーツに身を包んで、金色に輝く瞳。まさにテレビで見ていたウルトランそのものだった。
 世界各国は、我先にと地球防衛隊を組織した。ウルトランの出現を楽しんでいるのか、自国に取り込んで地球の覇権を握ろうとしているのかは定かではない。もしかしたら、歓迎ムードにかこつけた、ただの軍拡だったのかもしれない。
 ウルトランが太陽系方面へ向かって飛行しているのは、地球に危機が迫っているからではないと、軍事評論家や、ウルトラン愛好家たちはマスコミで語った。要は、遠い宇宙のどこかに宇宙怪獣が出現して出動したウルトランの飛行経路上に、たまたま太陽系が存在していただけ、との見解らしい。
 更に数年がたったある日、今度は中国政府がウルトランについての発表をした。ウルトランの経路は地球のそばを通る、と。更には、ウルトランが地球に最も接近した時には、夜の地域では市販の望遠鏡でもその姿が捉えられるかもしれない、と。
 世界は興奮の渦に包まれた。世界中はウルトラン歓迎で一つに繋がった。みんなは、ウルトランを地球に迎えて、歓迎会をもよおそう、と計画した。そしてありとあらゆる方法を使って、ウルトランにその意思を伝えようとした。電波、手旗信号、光信号、モールス信号。色々である。
 そして、ついにウルトランが太陽系にやって来た。地球のそばを通過するのは深夜遅く。それを知った夜の地域の人々は全ての電気を消して、町の光の一部を使って『Welcame Ultran』と地球いっぱいに書くことを思いついた。そして、それを実行した。地球に立ち寄ってくれるかもしれない、と期待に胸を躍らせながら。
 奇跡が起こった。ウルトランは深夜のヨーロッパ、中東、の直上を通過して、中国の上空を飛行、そして昼間の日本の空に飛来した。しかも、東京におり立ったのだ。
 世界中が歓喜した。ネット上では、『さすが日本。ウルトランを最初に発見して特撮にしただけある』とか『日本人はウルトランの末裔?』『消防隊のオレンジは、実は地球防衛隊だった』などと騒がれ、賞賛された。
 日本人はウルトランを見上げて、固唾を飲んで見守る。路上から、公園から、会社から、学校から、家から。そしてテレビで。世界の人々は、国際ニュースや国際ライブ中継、ネット上のライブ配信で。みんながウルトランの第一声を待っていた。平和の使者である彼は、いったい何を我々に語ってくれるのだろう、と。
 この時誰も考えなかった。ウルトランが着地した場所にだって道路があり、公園があり、会社があり、学校があり、家があることを。その足の下には、幾人もの人がいたことを。そして足の裏の下敷きになった彼らは、潰されて即死したであろうことを。
 そして誰も知らなかった。ウルトランは、大宇宙の中で、数が少なくとても貴重な自然豊かで豊富な水を湛える地球を踏み荒らして汚染し、無辜の動植物を大量絶滅に追いやったばかりか、地球そのものも破壊しかねないほど増殖した、『人間』という害獣を駆除するために派遣された正義の使者である、ということを。
 
 そう……人類そのものが宇宙怪獣だったのだ。

おわり
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