DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第四話 疾風強盗パーク・ヨードン

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 二人は、警備の目を掻い潜って塀を乗り越えた。夜陰に紛れて茂みに身をひそめて辺りを見渡す。内側には幾つかの丸太小屋が建っていて、中央が広場になっている。一番奥にある横長の建物が一番大きい。たぶん盗賊頭の住処なのだろう。
 ローゼが速攻でかしらを縛り上げて通商手形を奪還するのが手っ取り早い、と提案する――間もなく、エミリアが「でわサッソク」と言って一番そばにあった平屋のドアに手をかける。
 「だー! 待って‼」
 とローゼが駆け寄った時にはもう遅い。開かれた扉の奥から、何やら男の声がして、二人は戸口から中を覗いた。部屋の中央には、スキンヘッドの男が女性物の下着を身に纏って、背中に両手をまわして悪戦苦闘している。もじ痒そうな表情が気持ち悪い。
 「ホッ ホックがとまらない……はっ! 何者⁉」
 もちろん二人は絶句。でもそれお構いなしに、ギラッと殺気を放った男がキメた。
 「よくここまで来られたな。褒美に俺が相手――」
 バタンッ‼
 やるせなさを隠せないエミリアがドアを閉める。話は最後まで聞かないと、なんてローゼも言わない。
 「あっ、まだ――」
 ドアが閉まるギリギリ寸前にそう聞こえた。
 エミリアは「えーん」と泣きながら、「なんて恐ろしい」とローゼに言った。
 「どこがじゃ!」ローゼがそうつっこんだ矢先にドアが開いて、スキンヘッドが手招きする。そして言った。
 「剣士と武道家か、ちょうど今あるパンティーにも飽きていたところだ。相手してやろう」
 ローゼある意味パニック状態。
 「いや! 読点の前後繋がってなくない? 疑問も持たずに構えないでよエミリア!」
 でもパークと名乗ったやつ結構強い。待ったなしで襲ってくる蹴りは、目にも止まらない連続技の繰り返し。
 そう言えば、パークの描写ちゃんとしてなかった気がする。でもいいや、スキンヘッドで薄桃色の下着をつけたやつだから。
 ローゼは指のない茶色い皮手袋をポシェットから取り出す。こぶしに鋲が仕込まれていて、左手の手のひらには鉄板の札が縫い付けられている。致し方なく、といった感じでレイピアを抜いたが防戦一方。だってパンティーからなんかはみ出してるんだもの。蹴りを繰り出すたびに大股開くから、シワシワしたのが見えてるんだもの。
 「なんか穿きなさいよ! 汚いのが見えてるわよ‼」ローゼが叫んだ。
 「何だ? 恥ずかしいのか? これが俺の真骨頂だ‼」
 そう言ってパークは、ムチのようにしなる蹴りを撃ち放つ。レイピアで弾いてはいるものの、じわじわと押されるローゼ。この蹴りが真骨頂じゃないの? はみ出た袋が真骨頂? と心で叫ぶローゼは頑張ったが、四方八方から襲いくる蹴りを捌き切れず、打ちしばかれる。
 おでこ、頬、腕、腹、足に無数の赤い斑点が浮かぶ。――ん? それだけ? 痛いには痛いが、骨が砕かれるような鈍痛も、皮膚表面に響く痛みもない。
 よくよくスローで見てみよう。ローゼの顔面めがけて撃ち放たれた蹴りは、まさしく渾身の蹴りだ。首がもげてもおかしくない威力。――あれ? 顔面にあたる瞬間、親指と人差し指が開いたぞ? そして摘まんだ。頬をねじって引っ張り弾く。
 パーク自慢げ。
 「俺はこうして、下着を盗んで十年やってきたんだ」パークが自信を持ってニヤリと笑む。
 「何やってんのよ」ローゼの吐き出す言葉、重くて落ちた。
 パンツ摘まむだけのために修練したのか? どんなやる気? そのスイッチどこあるの?
 「なるほどね」とローゼ。「わたしたちから下着剥ぎ取る気なんでしょ? 返り討ちにしてあげるわ」
 そう言って構えるローゼに、パークが鼻で笑う。
 「そこらの三品と一緒にしてもらっちゃ困るな」
 そう言った後、真顔になって覇気を発し、
 「脱ぎ棄てられたパンティー以外に興味はない‼‼‼」
 ドドーンと画面が前後して目が回りそうな勢いで叫んだ。自信たっぷり。そして、二人にシラケさせる隙も与えず、蹴り――じゃなくて摘まんでくる。二人掛かりでも攻撃に転じられないローゼたち。パーク・ヨードン、本気で戦えば相当な実力者であることが窺える。
 「ふっふっふ、お前らには新しい下着に着替えさせてやろう。そして気がつかぬ間に、脱いだ方を盗ませてもらう」
 パークが恐ろしげに言う。
 何だよそれ、怖いんだか怖くないんだか。でもある意味怖いか。きしょ怖い。
 「ローゼさん、どうしましょう!」エミリアがたじろいだ。
 そう言えば、この子十四歳だ。なんとしてもエミリアを守らなければと思うローゼに、エミリアが続ける。
 「わたし、換えの下着持って来ていませんよ。パークさんが持ってるのって洗ってあるのかなぁ?」
 そこ? 心配事そこ?
 パークが笑みを浮かべて言った。
 「ああ、心配しなくても洗ってあるさ」
 お前も真面目に答えるなよ。
 「気に入るのがあれば良いんですけど」エミリアが不安げにそうに答える。
 あってもダメだろ。そもそもそんな事態になったらR指定ついちゃうじゃんか。これ一応健全(?)な変態小説なんだから。ていうか、変態小説に十四歳出すなよ、危なっかしい。
 隣の部屋に逃げ込むところで足をつままれて倒れ込んだローゼは、ある物を発見した。
 「動かないで!」
 自信たっぷりに叫んだローゼを見やったパークは、突然ワナワナ震え出して挙動不審。
 悠々とした口調でローゼが迫る。
 「良いのかしら? これがどうなっても」
 「どうする気だ! 返せ‼」
 「何ですか? それ」と寄ってくるエミリアに、ローゼは見つけた物を見せてやった。
 念写紙(羊皮紙)だった。だが、ただの念写紙ではない。色とりどりの下着を身にまとうパークが、恥ずかしいポーズを惜しげもなく披露した念写紙。ウインクしたのまである。
 「なんか子供の頭映ってるよ」とローゼが指摘。
 「ぽっちゃり王子だ」答えるパーク。
 しらねーよ。確かにぽっちゃりしているけれども。
 ていうか誰が念写してくれたんだ? これ。
 「これを公表されたくなかったら、盗んだ通商手形を出しなさい!」とローゼが脅す。
 「公表?」
 慌てふためいていたパークは、一瞬きょとんとローゼを見やって、なぜか平静を取り戻した。
 「それが世に出るのか?」
 急にドキドキしだした様子のパークは、スポスポ鼻息を噴射させる。明らかに興奮気味だ。
 「公表するなら、お前らのもコレクションに加えてからにしてやる」
 「わ~! 待って待って! 前言撤回! 破るよ? 襲ってきたら破るよ?」
 「くっ」
 お、今度は動揺している。じりじりと歩み寄ってはくるものの、先ほどのような怒涛の攻撃を浴びせてこない。妙な緊張状態が続く。迫るパーク、しりぞくローゼ。そのそばで家探しをするエミリア。

 夜は長いぞ、頑張れローゼ!



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