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第三話 悪魔牙団のアジト
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結局あの伝説の剣士ジョヴァンニついてきちゃったよ。なんか怖くて後ろ見らんない。ヒソヒソとローゼがエミリアに話しかけて返ってきた言葉。
「しょうがないですよ。何かを秘めている勇者の目ですもん」
「本気で言ってるの?」
ローゼは信じられない。勇気を出してマジマジ後ろを見やる。マイナスのネジの頭のようなまぶたの奥は……腐りかけて白く濁った死んだ魚の目のようですが?
しかしいつまで歩くのだろう。テクテクテクテク。この分だと着くのは日暮れごろだろうか。まあしょうがない。盗賊団のアジトがそんな近くにあるはずないんだから。そのうち道を外れて、けもの道もない樹海の奥に行って、丸太の塀で囲まれたアジトに行きつくはず。
ローゼは自らの剣技に自身がある。幼少時代から近所の下級騎士から手ほどきを受けていたし、小学校(都市学校)から大学(軍学校)までレイピアを習っていて、ミッドエル王国の全国大会でも高校(軍学校)と大学(在学中)で五年連続優勝という偉業を成し遂げていた。でもどうして自信があるのだろう? 実戦経験ゼロなのに。
「そう言えば――」とローゼ「エミリアってこの国出身じゃないのに、どうしてこの辺詳しいの?」
彼女はロッツォレーチェ王国北西部に隣接するウェールネス公国出身で、数年前に行方不明になった父親を探しているらしい。ウェールネス公国がちょっとした戦争をした時に行方不明になった、と言う。
東の亜大陸には小さな国がたくさんある。一代で国を築いた覇者が群雄割拠しているから、殆ど無法地帯だ。敵の捕虜になっていたとしたら、と考えると、ローゼはゾッとした。たぶん拷問されて生きてはいないだろう。
だが、ローゼの見せた表情からその考えを読み取ったエミリアは、否定して言った。
「いえ、生きているとは思うんです。風の噂ですが、自治都市トラントで見たと聞いたんです。それで色々調べて――」
なるほど、それで探しに行くところなのか。
しばらくすると会話も尽きた。テクテクテクテク――って、もう深夜なんですけど? さすがのローゼも限界だ。後ろのやつはまだネギ食ってるから元気だけど。って昼ごはんのネギいつまで食ってんだ。あのネギって、首に巻いて味噌つけて突っ込まれて逆流して口から出てきたやつだよね。出すとこから入って口から出てきたやつだよね? アイツ絶対呪われてるよ。
そう言えば、呪われた武器って一度装備すると一生はずせないってよく言うじゃん? その類? アイツその類? 一生付きまとわれたらどうしよう、とローゼ、マジ怯える。
その横で、エミリアがケロッとして言う。
「戦いでは遠征することだってあるんですから、携帯食は大事ですよ。あんな個性的な携帯食、素敵じゃないですか?」
後ろに気配を感じてローゼがチラ見する。
あいつなんかジェスチャーしてるよ。ナニナニ? ネギ味噌……ペースト…………分けてやる? すかさず飛び上がって二回転したエミリアは、三回転目で回し蹴り。ジョヴァンニの首が……――首だけが一回転した。それからあとを追うように体が一回転してぼろ雑巾。
「わたし何も言っていないのに」と恐々ローゼ。「一瞥もしなかったよ、この子……」
エミリアは蹴りをかませてニコニコしている。ローゼは思った。変なつっこみをいれたら最後、殺されるのはわたしかもしれない、と。
その恐怖を払うように首を横に振る。そして気を取り直して言った。
「エミリア、まだつかないの?」
「はい、あそこです」
「あっ」と手を叩いてからそう言ったエミリアが指さす方を見ると、二股になった道に右向きの矢印看板があって、そこに“アジト”と書いてある。どういう神経してんのよ?
ローゼが訝しげに“アジト”という文字を見ながら矢印看板の前まで来ると、エミリアが更に言った。
「――で、あの岩山の上が盗賊のアジトです。百キロくらいかなぁ?」
おいおいマジかよ。茫洋たる道のりにローゼはドン引きしたが、エミリアは楽しそうだ。「ね?」と言ってから、「百キロ先なのに、あんなに大きく見えるなんて、高い山ですね」なんて言いながら笑っている。
丸一日にぶっ通しで歩いて来て、もう一度日付が変わろうかという時分。ようやく階段が見えてきた。岩山を見上げると、階段は一直線に頂上まで続いているようだ。長老からもらったこの辺りの地図を見ると、千メートル級の岩山だ。
どんな嫌がらせだよ。ここに来るまでに変な邪霊獣に襲われまくって野宿もできなかったのに、更にここから千メートル階段上るんですか? え? どんな邪霊獣に襲われたかって? それはほにゃららほにゃららで、それは途轍もないすんげーバトルでしたよ。後ろでジョヴァンニが“端折り過ぎだよコノヤロー!”とジェスチャーしているのが感じて分かる。
まあ、説明すると――(byジョバンニ)
月明かりしかない闇夜の中、魔王ディアボロを打倒すべく旅立った勇者たちが悪魔城へと向かっていた。
行く手を阻む悪魔の大群を前に、剣士ローゼリッタと空手家エミリアは苦戦を強いられる。しかし勇者ジョヴァンニの適切な指示によって悪魔軍団を退けた――
――て、改ざんすんなよ! ディアボロなんて、わたしたちで勝てるわけないじゃんよ。
実際はこうでした。
小ぶりのトロルがたくさん出てきたと思ったらニヤニヤしながら自主規制でかき消されて何か分からないモノを使う気満々で走って来てわたしとエミリアばかりを襲うものだから「ジョヴァンニを襲いなさいよ」ってわたしが叫んでジェヴァンニ投げつけたらもう凄惨な残虐事件が起きて出てきた人狼が骨くわえて森の中――。
もちろん全部倒しましたよ、ローゼとエミリアが。(ジョヴァンニ……、よく生きていたね。帰ってこないことを期待してたのに)。「ゲッゲッゲッ」と笑うジョヴァンニを、げんなり、としつつも無表情で見下ろすローゼはそう思った。
少し休憩して階段をのぼり始める。何時間かかるんだ? 半分くらい来たところで、突然、後ろの方から「あああ~‼」と言う叫び声が聞こえた。鼻を摘まんだような声で。ジョヴァンニが階段から数百メートル下に真っ逆さまとなったのだろう。ローゼたちは振り向きもしない。ようやく呪の装備が剥落してせいせいだ。
「ねー、まだつかないの?」とだらけ気味のローゼの後ろでフラッとしたエミリアが、更にフラフラっと死にかけている。あいつはともかく、コイツは戦力だから死なれちゃ困る。
エミリアのために何度か休憩して、ようやく頂上についた。真っ平らな地面の向こうに背の低い丸太の塀で囲まれたアジトが見える。その後方、大分離れたところに大きな森があった。あと数歩で登頂というところで行き倒れたエミリアをちょいちょいとつついて、ローゼが言った。
「まだ生きてますか?」
「そこに山があるから登って来たの。登れなかったなんて言わせない! だって肩から上は頂上ですもん」
わけ分かんないよ。ローゼたちは辺りの様子を窺いながら、闇夜に紛れてアジトに近づいていった。
「しょうがないですよ。何かを秘めている勇者の目ですもん」
「本気で言ってるの?」
ローゼは信じられない。勇気を出してマジマジ後ろを見やる。マイナスのネジの頭のようなまぶたの奥は……腐りかけて白く濁った死んだ魚の目のようですが?
しかしいつまで歩くのだろう。テクテクテクテク。この分だと着くのは日暮れごろだろうか。まあしょうがない。盗賊団のアジトがそんな近くにあるはずないんだから。そのうち道を外れて、けもの道もない樹海の奥に行って、丸太の塀で囲まれたアジトに行きつくはず。
ローゼは自らの剣技に自身がある。幼少時代から近所の下級騎士から手ほどきを受けていたし、小学校(都市学校)から大学(軍学校)までレイピアを習っていて、ミッドエル王国の全国大会でも高校(軍学校)と大学(在学中)で五年連続優勝という偉業を成し遂げていた。でもどうして自信があるのだろう? 実戦経験ゼロなのに。
「そう言えば――」とローゼ「エミリアってこの国出身じゃないのに、どうしてこの辺詳しいの?」
彼女はロッツォレーチェ王国北西部に隣接するウェールネス公国出身で、数年前に行方不明になった父親を探しているらしい。ウェールネス公国がちょっとした戦争をした時に行方不明になった、と言う。
東の亜大陸には小さな国がたくさんある。一代で国を築いた覇者が群雄割拠しているから、殆ど無法地帯だ。敵の捕虜になっていたとしたら、と考えると、ローゼはゾッとした。たぶん拷問されて生きてはいないだろう。
だが、ローゼの見せた表情からその考えを読み取ったエミリアは、否定して言った。
「いえ、生きているとは思うんです。風の噂ですが、自治都市トラントで見たと聞いたんです。それで色々調べて――」
なるほど、それで探しに行くところなのか。
しばらくすると会話も尽きた。テクテクテクテク――って、もう深夜なんですけど? さすがのローゼも限界だ。後ろのやつはまだネギ食ってるから元気だけど。って昼ごはんのネギいつまで食ってんだ。あのネギって、首に巻いて味噌つけて突っ込まれて逆流して口から出てきたやつだよね。出すとこから入って口から出てきたやつだよね? アイツ絶対呪われてるよ。
そう言えば、呪われた武器って一度装備すると一生はずせないってよく言うじゃん? その類? アイツその類? 一生付きまとわれたらどうしよう、とローゼ、マジ怯える。
その横で、エミリアがケロッとして言う。
「戦いでは遠征することだってあるんですから、携帯食は大事ですよ。あんな個性的な携帯食、素敵じゃないですか?」
後ろに気配を感じてローゼがチラ見する。
あいつなんかジェスチャーしてるよ。ナニナニ? ネギ味噌……ペースト…………分けてやる? すかさず飛び上がって二回転したエミリアは、三回転目で回し蹴り。ジョヴァンニの首が……――首だけが一回転した。それからあとを追うように体が一回転してぼろ雑巾。
「わたし何も言っていないのに」と恐々ローゼ。「一瞥もしなかったよ、この子……」
エミリアは蹴りをかませてニコニコしている。ローゼは思った。変なつっこみをいれたら最後、殺されるのはわたしかもしれない、と。
その恐怖を払うように首を横に振る。そして気を取り直して言った。
「エミリア、まだつかないの?」
「はい、あそこです」
「あっ」と手を叩いてからそう言ったエミリアが指さす方を見ると、二股になった道に右向きの矢印看板があって、そこに“アジト”と書いてある。どういう神経してんのよ?
ローゼが訝しげに“アジト”という文字を見ながら矢印看板の前まで来ると、エミリアが更に言った。
「――で、あの岩山の上が盗賊のアジトです。百キロくらいかなぁ?」
おいおいマジかよ。茫洋たる道のりにローゼはドン引きしたが、エミリアは楽しそうだ。「ね?」と言ってから、「百キロ先なのに、あんなに大きく見えるなんて、高い山ですね」なんて言いながら笑っている。
丸一日にぶっ通しで歩いて来て、もう一度日付が変わろうかという時分。ようやく階段が見えてきた。岩山を見上げると、階段は一直線に頂上まで続いているようだ。長老からもらったこの辺りの地図を見ると、千メートル級の岩山だ。
どんな嫌がらせだよ。ここに来るまでに変な邪霊獣に襲われまくって野宿もできなかったのに、更にここから千メートル階段上るんですか? え? どんな邪霊獣に襲われたかって? それはほにゃららほにゃららで、それは途轍もないすんげーバトルでしたよ。後ろでジョヴァンニが“端折り過ぎだよコノヤロー!”とジェスチャーしているのが感じて分かる。
まあ、説明すると――(byジョバンニ)
月明かりしかない闇夜の中、魔王ディアボロを打倒すべく旅立った勇者たちが悪魔城へと向かっていた。
行く手を阻む悪魔の大群を前に、剣士ローゼリッタと空手家エミリアは苦戦を強いられる。しかし勇者ジョヴァンニの適切な指示によって悪魔軍団を退けた――
――て、改ざんすんなよ! ディアボロなんて、わたしたちで勝てるわけないじゃんよ。
実際はこうでした。
小ぶりのトロルがたくさん出てきたと思ったらニヤニヤしながら自主規制でかき消されて何か分からないモノを使う気満々で走って来てわたしとエミリアばかりを襲うものだから「ジョヴァンニを襲いなさいよ」ってわたしが叫んでジェヴァンニ投げつけたらもう凄惨な残虐事件が起きて出てきた人狼が骨くわえて森の中――。
もちろん全部倒しましたよ、ローゼとエミリアが。(ジョヴァンニ……、よく生きていたね。帰ってこないことを期待してたのに)。「ゲッゲッゲッ」と笑うジョヴァンニを、げんなり、としつつも無表情で見下ろすローゼはそう思った。
少し休憩して階段をのぼり始める。何時間かかるんだ? 半分くらい来たところで、突然、後ろの方から「あああ~‼」と言う叫び声が聞こえた。鼻を摘まんだような声で。ジョヴァンニが階段から数百メートル下に真っ逆さまとなったのだろう。ローゼたちは振り向きもしない。ようやく呪の装備が剥落してせいせいだ。
「ねー、まだつかないの?」とだらけ気味のローゼの後ろでフラッとしたエミリアが、更にフラフラっと死にかけている。あいつはともかく、コイツは戦力だから死なれちゃ困る。
エミリアのために何度か休憩して、ようやく頂上についた。真っ平らな地面の向こうに背の低い丸太の塀で囲まれたアジトが見える。その後方、大分離れたところに大きな森があった。あと数歩で登頂というところで行き倒れたエミリアをちょいちょいとつついて、ローゼが言った。
「まだ生きてますか?」
「そこに山があるから登って来たの。登れなかったなんて言わせない! だって肩から上は頂上ですもん」
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