DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第十三話 憧れ焦がれて盲目の君

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 「アンドレイ・イワノフさん!」
 突然エミリアが叫ぶ。ビシッ、とアンドレイを指さしてポーズを決めたエミリアが続けた。
 「わたし、エミリア・ワトソンが相手です。あなたのような臭い人は、同じ武道家として許せません。成敗してあげます」
 「ワトソン? エミリア・ワトソン?」アンドレイはエミリアに向き直った。「そんなに死に急がなくてもいいだろう。この軟弱者を殺さなきゃ俺の気がすまねぇんだ」
 「軟弱者はいくら殺しても構いません」
 二人の会話を聞いていて、思わずローゼが割って入る。
 「ちょっと、わたしのどこが軟弱者だって言うのよ」
 「武器持ってる時点で軟弱者です」エミリア、冷ややかな視線で言い放つ。
 あんた、どっちの味方だよ。
 「やぁぁぁぁっ!」とエミリアが駆けだした。
 振り下ろされる大振り気味のアンドレイの右パンチを避ける。その勢いを乗せて繰り出した上段左回し蹴りが顎に炸裂。その足でそのままアンドレイの踏み出した左足のももにかかと落とし。そして、ももを踏み台にして飛び上がると、右足で鼻めがけて膝蹴りをかます。
 すっごい肉弾戦闘が繰り広げられているが、変態小説にあるまじき行為なので、月は雲に隠れて誰にも見えません。 ビシッ! ドカッ! バキッ! ドカッ! 音だけをご堪能ください。
 ようやく終わり? 雲が晴れてきた。
 見るとエミリアは、アンドレイの右ストレートを十字ガードで受けたとこ。その衝撃が全身に響く。跳ね飛ばされて何回転も地面を転げて起き上がった時には、辺り一面ガス殺されて死屍累々。
 全くなんにも見ていないローゼが、
 「こんなちんけな盗賊団に、こんなに時間がとられるなんて」と呆れ気味に呟く。
 その発言を見逃せなかったパークが言った。
 「おい、お前、字が間違っているぞ?」
 どう間違ってるの? “ちんけ”の字? ひらがなだから関係ないじゃん。
 「ちんけの“け”は“毛”って書くんだ」
 それじゃあ濁点ついちゃうだろ。
 「ああ、ちん毛(げ)って読むんだ」
 違うよばかァ。
 「ちんちんの“ちん”だろ?」
 しつけーよ。
 「ていうか、俺の念写紙返せ」
 忘れてた。もういいよ、これ。幻滅だよ。わたしのデビュー戦がこんなだなんて誰にも言えない。
 「ちんちんだけにメインイベント、ゴールデン」(パーク勝ち誇ったように)
 放送出来ねーよ。お前一生お蔵入り。
 「わははははははっ」とオントワーンが腹を抱えて大笑い。
 お前のツボどこにあんだよ。
 傍観していたパークは、「いつかボスのようにオーラを身に纏いたい」と恭しく羨望の眼差しを向けながら、ボスをまねた技を披露する。ブッ ブぅぅぅ。
 何だよ屁かよ、ありきたりだな。“オーラ”と“おなら”間違えてないか? 
 ぶっ――ブリッ。×?△?※?□?◇?‼ 
 おい、今の音って? 洩らしたろ? 今“実”が出たろ?
 「俺じゃないっすよ」右斜め下にそっぽ向いて俯いて、パークがぼそり。
 絶対お前だー‼
 後退りするパークは闇夜に消える。しばらくすると、水を流す音が聞こえた。みんなで行ってみるとトイレ水浸し。しかも茶色い水で。
 声を押し殺して震えるパークの肩に手を置いて、アンドレイが言う。
 「泣くなパーク。こうやってお前は強くなっていくんだ」
 なってかねーよ。弱体化だよ。もうフェードアウトしてくれよ。
 「分かっています」とパーク・ヨードン。「でも、ヘレンちゃんのパンティが……」
 パークは、便器に詰まったパンティを掴みとって、何事もなかったように自然に穿いた。
 「今は笑わせておけ」と、そよ風のように優しく声をかけるアンドレイ。
 笑えねーよ、臭すぎて。
 アンドレイが、とても落ち着いた声で、淡々と話し出した。
 「東の島国には、こうやって天下をとったサムライがいたって話だ」
 一緒にしたら東の島国に失礼だろ。確かにおもらししたけど、状況が違う。
 涙を拭いたパークが、懸命に元気を振り絞って言った。
 「俺、ボスみたくオーラを出したかったんスよ」
 「おお、分かってるぜ、パーク。分かっているから、泣くんじゃねぇ」
 それを見て、なんかエミリアが感動している。
 「青春ですね、男同士の友情って素敵です」
  それを横目で見るローゼ、眉間にしわを寄せて口をイーとして、信じられない、といった様子で言う。
 「何キラキラしてんのよ。糞便漏らした青年ボーズと、体臭オヤジじゃない」
 さぶいぼが立った。腰から下は地獄だよ。超絶くっさい体激臭と公衆便所のゲリぴーみたいな悪臭が混ざって耐えられない。ローゼは、臭い霧の外に出てエミリアたちに叫んだ。
 「お前ら三人じわじわと毒されてるぞー、いつか死ぬぞー」パークは自分の悪臭に守られているから大丈夫かもしれないけどね。
 言い終わってローゼが気づいた。
 「そう言えば、あんた手下いないのね」とアンドレイに向かって言う。
 「ああ、いない。俺は超絶なスパルタだからな。みんな死んだ」
 「あんたの体臭で?」
 「違う。拷問並みの訓練でだ。みんなラリッたように死んでいった。腑抜けたやつらだ」
 ようにじゃねーヨ、ガスでラリッて死んだんだヨ。
 「いつか俺もオーラで絶命させてみたいもんだ」とパークが心酔した様子でアンドレイを仰ぐ。
 パーク、お前いつまで下半身絶命させたままなんだ⁉
 「思春期ってやつさ」
 「ちげーよ、おっさん、要介護だよ、それ終末期だよ」
 あははははははー、とみんなが笑う。
 「笑わないでよ。わたし軽妙なシャレ言ってないからね」
 そんなこんなで戦いはお開きとなりました。そして〆ようキャンプファイヤー。急に何かを持って来て燃やし始める仲間たち。薪じゃないよね? 一体何燃やしてんだ? 炎に照らされた燃料の山を見ると、糞まみれのパンティだ。
 「こっこいつ、どんだけ漏らしてんのよ……」ローゼひきつる。
 「おーい、もっと薪くべろよ」とアンドレイがパークに指示を飛ばした。
 「はーい」とパーク、パンティをくべる。
 「証拠隠滅、あの日から/今日までずっと/証拠隠滅」アンドレイ。
 「バレてんじゃん/お前の人生/廃人ですか」とローゼが詠うと、
 「廃人と/俳人がかかって/いるんだな」とオントワーンが笑う。
 「じゃあ上手く/オトせたって/いうことで――」とパークが木製コップを手にとった。
 「ちんちーん」(パークの音頭で)
 一同「ちんちーん」(ローゼ、エミリア除く)
 最後にパークが言った。
 「“乾杯”って意味じゃないよ、ちんちんって意味だよ」




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