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第二十九話 おむつの価値は?
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おむつジジイは、寄りそうグレタの膝を撫でまわしている。完全な色ボケジジイだ。
「まあ、どうであれ、良く来なさったな」おむつジジイがそう言った。
「そんなことより、頭長いっすね」とローゼがヒソヒソ。「ほんと、なっがい頭」とエミリエがかかとを掻きながら鼻で笑う。
「そこカンケーないじゃろ」とムッとするおむつジジイ。
でも、スリ師おつむってあだ名、頭から名付けられたの一目瞭然。なんか不健康そうな灰色の肌。頭は顔と同じくらいの長さがあって、ところどころに白髪が散見できる。何層にもなった横じわが不気味だ。
「それ、口に出して言うことじゃないじゃろ?」おむつジジイがつっこんだ。
「あ」とローゼ。「思わず言っちゃった」
「まあ、人探しなんて歩き回って疲れたじゃろ。ほれ、甘いの飲みな」
甘いもの好きのエミリアは「やったぁ」と喜んで一気飲み。ゴクゴクゴク。「砂糖水おいしー」
なんだよ砂糖水かよ。
ローゼも喉が渇いていたので、おむつジジイが畳の上に差し出したコップを手に取ってお礼を「あ、ありがと――」と言いかけて、
「――入れ歯入ってんですけど……」
「なんじゃ、そこにあったのか、すまんすまん」
とコップに手を伸ばして中の入れ歯をとると、それを口に填めて言った。
「さあさ、お飲み」
「飲めるかよ! 気色悪い!」
突き返した砂糖水を見ると、あっという間にブクブクし出した。エミリアは何ともない。彼女が飲んだ中身はセーフだったようだ。
おむつジジイは泡立つコップを見て、大真面目に言う。
「これもう飲めんな」
付添いのグレタが、「お客さんに出すのはこっちですよ」と言ってローゼに出そうとした途端、エミリアがそれをとって一気飲み。
「あ~! エミリアそれわたしの」とローゼが止める間もなく、
「ぷっはー、ローゼさんビール好きだから、あれの方がいいでしょう? 泡立ってるもん」
「良いわけないでしょ」
そのやり取りを聞いて、おむつジジイが口を挟む。
「なんじゃあ、お前さん麦酒好きか? ならこれイケるじゃろ?」
おむつジジイはニタニタしながら、グレタに引き上げさせたブクブク砂糖水をもう一度ローゼに差し出す。
「大丈夫じゃ、たまにあるんじゃが、突然砂糖水が発酵して酒になるんじゃよ」
「たまにじゃないでしょ? いつも入れ歯落としてお酒にしちゃうでしょ?」と横で長い頭を撫でながら、グレタが笑う。
お前それ飲みかけわたしに出したんか?(完全にボケてるんだな)と思いながら、ローゼは、「グレタさんも分かっていたなら止めてくださいよ」と言った。
「うふふ、普通の人が飲んだらどうなるのか見てみたかったの」
人体実験。マッドなやつだな。
ローゼが「ジジイの呼気くせーな」と小声で一言言うと、「失礼だな」と帰ってきた。耳はいいようだ。
「ごほごほごほっ」
突然咳き込むおむつジジイ。「大丈夫ですか?」とローゼとエミリアが身を乗り出す。
「ああ、心配してくださらんでも大丈夫じゃ、もう年での」
そう言ってワナワナ震えながら、差し出したローゼの手を握る。骨ばった手のひら。ローゼは少し可哀想に思った。
プルプル震える手にか弱い力を込めたおむつジジイは、泣き出しそうな声で言った。
「お嬢ちゃん、良いかんばせ(顔つき)をしておるのぉ」
「は?」
「チチもいいチチしとる。どれ、老い先短い老人を、その胸の中で死なせておくれ」
バリンッ グサッ
ローゼは、エミリアが飲んだ砂糖水のコップを割って、とりあえずおむつジジイの頭に突き刺す。
「なにするんじゃい、老体にこんな酷いこと出来るなんて信じられん」
ぴゅぃー、と血が吹きだす頭を押さえながら、おむつジジイがゲシゲシ、とローゼを蹴りしばく。
「ただいまー」
誰か帰ってきた。見るとアリアス? 何でここに? そう言えばアリアスは、悪魔牙団にさらわれたお姉さんを探しているのだから、ここを突きとめてやって来てもおかしくないか。
「何じゃぁ、知り合いか?」と言うおむつジジイに、ローゼたちは彼との経緯を話そうと正面を向く。
話しの最中、ローゼの後ろで買い物袋を畳の上に置いたアリアスは、徐に服を脱ぎだして背伸びをすると、女の子座りするローゼの膝を枕にして「ばぶばぶ、おねーたーん」
「何さらすんじゃい! ワレッ!」と激怒したローゼは、アリアスの首根っこ抑えて殴打殴打殴打。首だけで素早く全部避けたアリアスが言う。
「勘違いです、ローゼさん、僕は、孤独な独居老人に親身になってあげたくて、その気持ちを推し量ろうとしたんです」
嘘つけ! 赤ちゃんプレイしたいだけだろ?
「これを見て信じてください。――バブバブ、ローゼお姉ちゃん、おむつ汚れていないか、手を突っ込んで確認してよう」
そう言われたローゼ、鞘を持ってポメルで顔面殴打のモルトシュラーク。頬骨陥没間違いなし。
本題に入ろう。こんなところに長居は無用だと悟ったローゼは、おむつジジイに言った。
「実は、わたしたち返してほしい物があるんです」
どっからどう話そうか。悪魔牙団の話。通商手形。一瞬間を置いたローゼを睨みつけて、おむつジジイが呟く。
「取り返す?」
「ある人からある物を取り戻してくれって依頼を受けて、それで追って来たの」
「追って来た? 何じゃ、借金取りか?」
「え? 何?――」
ローゼが言い始めるや否や、突然おむつジジイが窓から飛び出した。
逃げた。あいつ持ってるんだ。
「待てー」とローゼたちも窓から飛び出した。
おむつジジイが大声でローゼに叫ぶ。
「なんじゃーん、そんなに取り立てたいならーん、役所からもたったおむつ持っていってくれーい」
「いらないわよそんなもん! 役所からもらったオムツで払おうとするなんて、どんな神経してんのよ」
「家に置いてあったの、どれでも好きなの持っていっていいからーよー」
使い道ありません。ローゼ「いるか! こんにゃろー」と言い返す。
ローゼに断られて気を悪くしたおむつジジイは、あからさまに憎たらしい顔をした。
「老い先短い老人から金ふんだくろうとするとは!」
どこが老い先短いんだよ。若者三人に追われて捕まらない運動神経、あと百年は生きていけそう。こっちが先に死んじゃいそう。
「まあ、どうであれ、良く来なさったな」おむつジジイがそう言った。
「そんなことより、頭長いっすね」とローゼがヒソヒソ。「ほんと、なっがい頭」とエミリエがかかとを掻きながら鼻で笑う。
「そこカンケーないじゃろ」とムッとするおむつジジイ。
でも、スリ師おつむってあだ名、頭から名付けられたの一目瞭然。なんか不健康そうな灰色の肌。頭は顔と同じくらいの長さがあって、ところどころに白髪が散見できる。何層にもなった横じわが不気味だ。
「それ、口に出して言うことじゃないじゃろ?」おむつジジイがつっこんだ。
「あ」とローゼ。「思わず言っちゃった」
「まあ、人探しなんて歩き回って疲れたじゃろ。ほれ、甘いの飲みな」
甘いもの好きのエミリアは「やったぁ」と喜んで一気飲み。ゴクゴクゴク。「砂糖水おいしー」
なんだよ砂糖水かよ。
ローゼも喉が渇いていたので、おむつジジイが畳の上に差し出したコップを手に取ってお礼を「あ、ありがと――」と言いかけて、
「――入れ歯入ってんですけど……」
「なんじゃ、そこにあったのか、すまんすまん」
とコップに手を伸ばして中の入れ歯をとると、それを口に填めて言った。
「さあさ、お飲み」
「飲めるかよ! 気色悪い!」
突き返した砂糖水を見ると、あっという間にブクブクし出した。エミリアは何ともない。彼女が飲んだ中身はセーフだったようだ。
おむつジジイは泡立つコップを見て、大真面目に言う。
「これもう飲めんな」
付添いのグレタが、「お客さんに出すのはこっちですよ」と言ってローゼに出そうとした途端、エミリアがそれをとって一気飲み。
「あ~! エミリアそれわたしの」とローゼが止める間もなく、
「ぷっはー、ローゼさんビール好きだから、あれの方がいいでしょう? 泡立ってるもん」
「良いわけないでしょ」
そのやり取りを聞いて、おむつジジイが口を挟む。
「なんじゃあ、お前さん麦酒好きか? ならこれイケるじゃろ?」
おむつジジイはニタニタしながら、グレタに引き上げさせたブクブク砂糖水をもう一度ローゼに差し出す。
「大丈夫じゃ、たまにあるんじゃが、突然砂糖水が発酵して酒になるんじゃよ」
「たまにじゃないでしょ? いつも入れ歯落としてお酒にしちゃうでしょ?」と横で長い頭を撫でながら、グレタが笑う。
お前それ飲みかけわたしに出したんか?(完全にボケてるんだな)と思いながら、ローゼは、「グレタさんも分かっていたなら止めてくださいよ」と言った。
「うふふ、普通の人が飲んだらどうなるのか見てみたかったの」
人体実験。マッドなやつだな。
ローゼが「ジジイの呼気くせーな」と小声で一言言うと、「失礼だな」と帰ってきた。耳はいいようだ。
「ごほごほごほっ」
突然咳き込むおむつジジイ。「大丈夫ですか?」とローゼとエミリアが身を乗り出す。
「ああ、心配してくださらんでも大丈夫じゃ、もう年での」
そう言ってワナワナ震えながら、差し出したローゼの手を握る。骨ばった手のひら。ローゼは少し可哀想に思った。
プルプル震える手にか弱い力を込めたおむつジジイは、泣き出しそうな声で言った。
「お嬢ちゃん、良いかんばせ(顔つき)をしておるのぉ」
「は?」
「チチもいいチチしとる。どれ、老い先短い老人を、その胸の中で死なせておくれ」
バリンッ グサッ
ローゼは、エミリアが飲んだ砂糖水のコップを割って、とりあえずおむつジジイの頭に突き刺す。
「なにするんじゃい、老体にこんな酷いこと出来るなんて信じられん」
ぴゅぃー、と血が吹きだす頭を押さえながら、おむつジジイがゲシゲシ、とローゼを蹴りしばく。
「ただいまー」
誰か帰ってきた。見るとアリアス? 何でここに? そう言えばアリアスは、悪魔牙団にさらわれたお姉さんを探しているのだから、ここを突きとめてやって来てもおかしくないか。
「何じゃぁ、知り合いか?」と言うおむつジジイに、ローゼたちは彼との経緯を話そうと正面を向く。
話しの最中、ローゼの後ろで買い物袋を畳の上に置いたアリアスは、徐に服を脱ぎだして背伸びをすると、女の子座りするローゼの膝を枕にして「ばぶばぶ、おねーたーん」
「何さらすんじゃい! ワレッ!」と激怒したローゼは、アリアスの首根っこ抑えて殴打殴打殴打。首だけで素早く全部避けたアリアスが言う。
「勘違いです、ローゼさん、僕は、孤独な独居老人に親身になってあげたくて、その気持ちを推し量ろうとしたんです」
嘘つけ! 赤ちゃんプレイしたいだけだろ?
「これを見て信じてください。――バブバブ、ローゼお姉ちゃん、おむつ汚れていないか、手を突っ込んで確認してよう」
そう言われたローゼ、鞘を持ってポメルで顔面殴打のモルトシュラーク。頬骨陥没間違いなし。
本題に入ろう。こんなところに長居は無用だと悟ったローゼは、おむつジジイに言った。
「実は、わたしたち返してほしい物があるんです」
どっからどう話そうか。悪魔牙団の話。通商手形。一瞬間を置いたローゼを睨みつけて、おむつジジイが呟く。
「取り返す?」
「ある人からある物を取り戻してくれって依頼を受けて、それで追って来たの」
「追って来た? 何じゃ、借金取りか?」
「え? 何?――」
ローゼが言い始めるや否や、突然おむつジジイが窓から飛び出した。
逃げた。あいつ持ってるんだ。
「待てー」とローゼたちも窓から飛び出した。
おむつジジイが大声でローゼに叫ぶ。
「なんじゃーん、そんなに取り立てたいならーん、役所からもたったおむつ持っていってくれーい」
「いらないわよそんなもん! 役所からもらったオムツで払おうとするなんて、どんな神経してんのよ」
「家に置いてあったの、どれでも好きなの持っていっていいからーよー」
使い道ありません。ローゼ「いるか! こんにゃろー」と言い返す。
ローゼに断られて気を悪くしたおむつジジイは、あからさまに憎たらしい顔をした。
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