DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第四十三話 お色気露天風呂

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 ローゼたちは今、標高千メートルの田舎町にいる。保養地フィリッツォ。隣の山が火山であるためか、そこら中から温泉がわき出る温泉都市。
 数日前、クラゲの干物をハムハム食べていたローゼの提案で、目的地カルデに行く前に寄り道をすることにした。小都市クリオから沿岸の街道を行けば、カルデまで一本道で進んで行けるのだが、クラゲ退治で懐が重いくらいだったローゼは、内陸への街道を行って温泉旅行することにしたのだ。
 フィリッツォからカルデまでも街道で繋がっているから、従来の目的のコースに戻るのも容易い。不意の観光にエミリアも喜んで同意した。
 フィリッツォに湧く温泉は、傷や打撲に効く、と言われている。大昔の皇帝の別荘を建てるために開発されたのが町の始まりだ。皇帝の他、王族などの高級貴族の別荘の跡地が遺跡として残っている。紀元前の話だから当時の繁栄は見る影もないが、今でも観光地としては繁栄していて、とても賑わっていた。
 町の歴史が古いだけあって、石造りの建物は歴史を感じさせる。大小の戦争が絶えない東の亜大陸にあって、紀元前の歴史的建造物が残っているのはとても珍しい。
 ローゼたちは、かつては皇帝が使っていただろう立派な露天風呂があるホテルに泊まることにした。敷地内の建物の大半は、独立円柱と帯状のエンタブラチュアの一部が残るのみの遺跡と化していたが、皇帝が寝泊まりした屋敷は健在で、ホテルとして運営されている。当時のものとはだいぶ趣が異なるのだろうが、庭園も再現されていた。皇帝の別荘というだけあって、ホテルは正に宮殿そのものだ。しかも、一泊一人金貨三枚程度なのだから、泊まらないわけにはいかない。
 部屋に案内されてすぐにローゼがポールドロンを外すと、エミリアがそれを持って言った。
 「あれ? この肩当て軽いですね? わたし、鉄製か銀製かと思っていたんですけど」
 「ああ、それ、革製なのよ。薄く鞣した革の板に、法術で銀を塗りつけているの。物理的な攻撃にはあまり防御力を発揮しないけれど、法術系には高い防御力を発するのよ。マントもそういう素材」
 上下のマントを外しながら、ローゼが続ける。
 「ほら、わたし霊力扱えないでしょ? 魔導士なんかと対峙したら不利じゃない。装備で法術に対する耐性高めて、接近戦に持ち込むのよ」
 「そういえば、エルザさんのムチが直撃したのに、全然傷がないですよ」
 「あれも実は直撃してないの。あたる直前にエルザの霊力をポールドロンが弾き飛ばして、実際当ったのは威力の弱まったムチだけだから」
 ポロシャツとデニムのホットパンツ姿になったローゼは、ホテルが用意したおふろセットをエミリアに渡されて、屋外にある大浴場へと向かった。
 温泉に入るのは初めてだとはしゃぐエミリアは、庭園を歩くローゼを待ちきれない様子で駆けて行って、脱衣所を駆けぬけて浴場の扉を開けた。
 「うわぁ! 見て見てローゼさん、すごいですよ!」
 「そんなに急がなくても、温泉は逃げないわ――」
 と言ったローゼ、最後の「よ」に疑問符がついた。エミリアのおパンツに両目釘づけ。何穿いてんだ? そもそも形が可笑しい。子供みたいなかぼちゃパンツ。ハロウィンのかぼちゃオバケの絵がたくさん描いてある。ていうか、目玉が飛び出てる。めっちゃ血走ってるじゃん。よく見るとみんなグロテスクなかぼちゃの絵。口の部分や叩き割れたかぼちゃから脳みそみたいに中の種のわた(腸)が溢れている。腐ったりカビが生えているのもあった。
 「エミリア、何そのかぼちゃパンツ……」疑念の眼差しでローゼが訊く。
 「ちょっとグロくて、可愛いでしょ? グロカワでっす」
 ちょっとどころじゃないよ。妙にリアルだよ、中身の溢れ方。ローゼ引き気味。
 「この子、男をゲロぴっちゃんにして興奮してんのかと思っていたけれど、グロ好きで興奮してたのか? それって女のわたしでもフルぼっこにして――〈想像中〉――ゲロぴっちゃんに……。恐ろしい……」
 本館から少し行ったところにある露天風呂は、彫刻が施された石の壁に囲まれている。必要以上に広々としていて、裸でいるのは少し落ち着かないくらいだ。石畳が敷き詰められていて、浴槽は巨大な一枚岩をくり抜いたものが幾つもあった。説明書きの石板を見ると、お湯の温度が違うのと何種類かのハーブ湯があるとのこと。アカスリやマッサージを施術する台もあって、人を呼べば施してくれるようだ。
 可愛いシニョンの二人。まず体を洗いっこして、それから長旅の疲れを癒すためにお湯に肩まで浸かる。
 「エミリア、お風呂では泳がないの!」
 バシャバシャとバタ足して遊ぶエミリアに、後ろに他の入浴客の気配を感じたローゼが言う。「はーい」と残念そうにつぶやくエミリアとしばらくおしゃべりした後、静かになった。すると、ややあって後ろにいた入浴客が話しかけてきた。月は雲に隠れていたし、明かりは何本か設置されたかがり火だけだったから顔は見えない。
 「良いお湯ですね、どちらからいらしたんですか?」女がローゼに話しかけた。
 「わたし? わたしはミッドエルから」
 「そんな遠いところから? わたしはエルラダから――」
 言い終わる前に雲が晴れて、お互いビックリ。
 「お前! ローゼ⁉」
 「え? エッ? エルザ⁉」
 バッシャ―! と水しぶきをあげてお湯の中から飛び上がったエルザは、大きな岩の上に着地して、ローゼを指さして叫ぶ。
 「ここであったが百年目! この間の恨み晴らしてやる!」
 入浴の時までマスクつけているのね、この恥ずかしがり屋さん。でもよく見ると、前と違う。前のは鷲が翼を広げたようなものだったけれど、今回は揚羽蝶のような形をしている。宝石がちりばめられていて、めっちゃ豪華。
 「あれ返しなさいよ‼」と怒鳴るエルザに、ローゼは「?」。そう言えば、あの鷲のマスクはどこにやった? 
 「あれ、町に帰る途中で放っちゃった」
 「サイテー! あれ高かったのよ! キ~! 弁償させてやる! 覚悟しなさい‼」
 そう叫んだエルザは、タオルをムチ代わりにして飛びかかってきた。
 「わっわっ、裸ではしたない!」と逃げるローゼの後ろに、大きな水柱が起こる。ただのタオルですっごい威力。あんなの生身で喰らったら死んでしまう。轍の中のつぶれたカエルみたいになっちゃうよ。恐れ慄くローゼが浴槽から上がると、脱衣所までの逃げ道に立ち塞がったエルザが、ローゼめがけてタオルをしならせる。
 ローゼは慌てて未使用のアカスリを取って、胸と腰に巻いた。「エミリアも早く」と叫ぶローゼを見やることなく、エミリアは「スカッと爽快、世代交代、女王の地位は頂きまーす!」とエルザに全裸で飛びかかる。
 飛び蹴りをかわしたエルザが振り下ろしたタオルを身をよじって避けたエミリアは、かかとで回し蹴り。それをタオルで弾いたエルザが飛び上がる。それを追って行ったエミリアと激しい攻防。二人を見上げるばかりで、ローゼ成す術ない。
 「あわわわわ、絵がないからって裸でそんなはしたない姿勢なんかしなくても」
 二人とも殺気ムンムンで全く色気が出ていないので、全然えっちくないんだけれど、なんか心配。エミリアはもともと色気無いとしてもRに引っ掛かる年齢だから、ローゼは居ても立ってもいられない。
 何か戦う術はないものか、と辺りを見渡すが、武器になりそうなものは何も無い。せめてデッキブラシでもあれば、ショートスタッフ代わりに棒術で戦えるのだけれど、と探すがそれもない。レイピアは部屋に置いてきてしまったし、剣士のローゼはお手上げだ。
 「きゃわわわわ~」というエミリアの叫び声にローゼが空を見上げると、片足をタオルで絡め取られて振り回されている。そのままエミリアはがに股で塀の外へ放り投げられて、捨てられてしまった。
 「まっぱのエミリアになんてことを!」とローゼがエルザを非難した。「それでも女か! 外に誰かいたらどうすんの⁉」
 「大丈夫よ、誰もいないわ、森だから。でも邪霊獣はいるから食べられちゃうかも」
 それはそれでヒドイ。ローゼはエミリアの敵を討とう、と意を決してタオルを構えた。上手くやればダガーかショートソードみたいに使えるのでは? と思ったけれどやっぱり駄目。ナヨッとしてしまって、てんで使えない。ローゼちょっと自嘲気味。
 ほくそ笑むエルザは、容赦なくタオルを叩きつけてくる。巻いていたタオルがほどけたローゼは、上と下を手で抑えて大ピンチ。この続きは如何に⁉



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