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第五十話 ついに結婚? 誕生ローゼリッタ・マーキン?
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楽しく遊ぶエミリアとカトワーズに嫉妬の色を隠せないローゼは、瞳を閉じて「うん、うん」と頷く。
(大丈夫よ、わたし。わたしはいつかナイトになって、上流とは言わないまでも資産もまあまああってイケメンの貴族の方と両想いになってやるんだから)と心で自分に言い聞かせて、そっと金具をまわして窓を開ける。
「うげっ、そんなぁっ」とローゼがっかり。窓は開くには開いたが、下の窓が上がると同時に上の窓が下がってきたので、人が通れるほどの隙間が開かない。縦一メートル横六、七十センチくらいある窓なのに、残念無念。居並ぶ窓を全て見やるが、形状一緒。気がつくと、暴風が止んでいる。
「かわいそうなローゼさん」とエミリア。
「うん、そろそろ諦めて最上流の尊き妃になれば良いのに」とカトワーズ。
「真後ろで真顔で気持ち悪い、ちょっとは寛恕込めて言わんかい」ローゼがつっこむ。
「よーし、そう来なくっちゃ」とカトワーズが後ろに飛んで霊力をサイコエネルギーに変換する。入り口の外からそれを見つめる使用人たち。
「カトワーズ様があんなにはしゃいでおられるところを見るなんて初めてです」とセバスチャンが言うと、みんなが涙を流して頷く。
「ローゼ様は、かならずプロポーズを受けてくださるはずだわ」
「頑張れお坊ちゃま」
メイドたちがそう応援すると、使用人たちの頑張れコールが巻き起こった。まじかよ。でもわたし負けないよ。こんな同調圧力。
ローゼは、クラゲ野郎を被せて捕縛を試みる。もがくカトワーズ。やった。超能力使ってこない。それも束の間、繰り返し単発で超能力を放出して抵抗する。
弾かれてしまったローゼであったが、もしかしたら、と触手をレイピアに見立てて刺突する。「おおっ」難なく当たる。「やったー」と触手をムチ代わりにしてビシビシ叩く。でも、ただの触手、全然ダメージ与えられない。
カトワーズの繰り出す技が、いくら自分の目前で弱められるとはいっても、超能力そのものは問題なく健在、クラゲ野郎の向きを誤るたびに、ローゼ天上まで押しやられて磔状態。エミリアが助けに入ろうとするが、クラゲはちまきでは役立たず。頭以外が吹き飛ばされて、ひっくり返って駒状態。一瞬金縛りを解かれたローゼが床に落ちる前に、もう一度金縛り。
次のエミリアのアタックを期待するが、一向にエミリアはしかけない。また遊んでいるのかと思ってローゼが見やると、エミリアは石炭暖炉の蓋に頭をぶつけて、石炭を燃やす窪みの中に頭つっこんだままのびていた。
もうエミリアは頼れない。何とかクラゲバックラーを持っている左手を動かし盾にして、カトワーズの超能力を遮断する。
床に落ちたローゼ。カトワーズの超能力が、前に掲げるクラゲバックラーにぶち当たって二つに割れた。本気のカトワーズ、すんげー威力。部屋の中の調度品を巻き上げながらうねっている。
「うおっ」とローゼが身を縮ませる。
結構すごいぞカトワーズ。正規兵ならサイコソルジャー並の霊力をもっているなんて知る由もない。
「ぬぐぐぐ~」と超能力を押しやって、無理やり接近。「エミリアー!」と叫ぶ。
既に目覚めていたエミリアであったが、確保しようにもヒドラのように暴れる超能力の光波がすごすぎて突っ込めない。カトワーズも、自分とエミリアの間に上手く光波が横たわるように立ち回る。見た目によらず武道家並みの好フットワーク。よくよく考えたら、超能力で少し自分を浮かせばいいんだから、体重体型関係なし。
左右をローゼとエミリアに挟まれて、カトワーズも攻撃に転じることも小部屋から出ることも出来ないでいる。
隙を突いたローゼがクラゲバックラーを離して、咄嗟に前転してカトワーズの左懐に侵入成功。迎撃する暇も与えず。サササッと触手で手を縛り上げた。その瞬間、超能力が止まって、荒れ狂う光波も消えて狂乱颶風は収まった。飛び交っていた調度品もボタボタッと地面に落ちる。
「なんか、高価そうな壺が割れましたよ?」とエミリアが言うと、「あれは、金の延べ棒(金貨百枚分)三本分の価値ですな」とセバスチャンが言った。
すかさず「わたし払いませんよ」とローゼ。「やったのこの人ですから!」とカトワーズを指さした。
「うーん、まあ仕方ないですねー。結婚してしまえば、壊した物だってローゼリッタ様の物とも言えるんですから」
それを聞いた使用人たちは妙に納得。「わたし結婚しませんから」と言うローゼを無視して、部屋のかたづけを始めた。
ローゼは、カトワーズの腰をクラゲの触手で結んで、さらにその触手を何本か繋げて、クラゲ船(胴体)に結いつけてみんなに言う。
「追わないでください。追ってきたら、命の保証できませんから」
「追うだなんて、そんな野暮なこといたしませんよ」メイドの一人。
すると初お目見えの老人が言う。
「富める時も悩める時も、誓われた愛に揺るぎはありません」
「何で司祭がいるのよ。結婚式じゃあるまいし」
なんか披露宴の様相を呈している。「こんなところに長居できません」と言いながら、のんびり飲み食いしたローゼたちは、「誓いのキスを」と言う司祭とタコ口でまぶたを閉じるカトワーズを無視して、旅の支度をし直した。
「――ローゼさん、通商手形は良いんですか?」エミリアが訊く。
「そうか、忘れてた」
すると、カトワーズが言った。
「そんなもの盗まないよ。金で何とでもなるからね」
確かにそうだ。聞いたことも無いような小都市国家の通商手形くらい、キートン家の財力の前では落ちた枯葉同然だろう。
「ねぇ、カトワーズ」十五歳年上を呼び捨てローゼ。「おサイフどこなの?」
「部屋にあるよ」と答えたので、すぐに案内させる。
通された部屋めっちゃでかい。一部屋でローゼんちくらいある。白真珠色でキルティングデザインの豪華な花装飾のサイフの中を覗くと紙幣ばかり。こんなの使えん、と放り出して、たくさんあったおもちゃ箱(宝箱)に詰まっていた金貨をポシェットに詰めていく。
「結納金ですか?」とエミリアが訊くと、「うん」カトワーズが答えた。
ちげーよ。迷惑料だよ。どんだけわたしたち迷惑受けたと思っているんだ? 拉致監禁拘束暴行結婚強要、罪を問いただしたら幾つもあるぞ。
「ああ、人質として誘拐して、身代金をふんだくるってぇ手はずですね」
人聞き悪いよエミリア。あくまで慰謝料とか和解金って類い。悪く言えば口止め料。
「“あくまで”と“悪く”どっちもアクがつきますね」とエミリアがつっこむ。確かにそうだ。いや、字ー違うよ。そこでローゼは考えた。
「もし人質にしなければ、お金に物を言わせてたくさんの私兵で追いかけてくるわ。資金が豊富だから、そこそこの強者が集まるはずだし、身の安全のためにカトワーズを手元に置いておく必要があるのよ。その間の世話賃ね」とエミリアに説明し、「じゃあ」とローゼはセバスチャンに向き直った。「折を見てカトワーズは解放しますから」
「はい」
「それまでの路銀なくなりそうだったらお手紙しますので、為替でお願いしますね」
「かしこまりした、奥様。それで、サイコラークへの里帰りはいつごろで?」
「結婚しねーよ」ローゼつっこむ。
犬のようにリードを引いてローゼたちはお屋敷を出た。いい金づるが手に入った、とローゼ大喜び。「そっち本音ですか?」とエミリア。カトワーズは「上流貴族のなせる業」と自分自身を褒めて高笑い。
「カトワーズ様ー、お幸せにー」とセバスチャンが叫ぶと、メイドたちが「新婚旅行のお土産買ってきてくださいねー」と手を振る。他の使用人たちはみんなで万歳を繰り返す。
「いや、人質だってばよ」と呆れて呟くローゼだったが、無視して旅路を急ぐことにした。なんか洗脳されそうで怖いから。でも東の城壁門から出た三人は、北の城門から入り直して、隠れて一泊することにした。散々追い回されて、足棒状態。もう歩けません。
ちなみにカトワーズが一緒にいたので顔パススルー。旅券を見せなくても再入場。ホテルも支配人からスイートを勧められて、ほぼ強要レベルで話が進む。値段を見てローゼたち恐縮しまくり。絶対いやだと言い張ったが、結局一番高い部屋に泊まることに。一人一泊金貨五十枚。散財しなければ一年くらいの食費が賄える。
夢のような一夜だったが、慣れない二人は寿命が縮む思いがした。
(大丈夫よ、わたし。わたしはいつかナイトになって、上流とは言わないまでも資産もまあまああってイケメンの貴族の方と両想いになってやるんだから)と心で自分に言い聞かせて、そっと金具をまわして窓を開ける。
「うげっ、そんなぁっ」とローゼがっかり。窓は開くには開いたが、下の窓が上がると同時に上の窓が下がってきたので、人が通れるほどの隙間が開かない。縦一メートル横六、七十センチくらいある窓なのに、残念無念。居並ぶ窓を全て見やるが、形状一緒。気がつくと、暴風が止んでいる。
「かわいそうなローゼさん」とエミリア。
「うん、そろそろ諦めて最上流の尊き妃になれば良いのに」とカトワーズ。
「真後ろで真顔で気持ち悪い、ちょっとは寛恕込めて言わんかい」ローゼがつっこむ。
「よーし、そう来なくっちゃ」とカトワーズが後ろに飛んで霊力をサイコエネルギーに変換する。入り口の外からそれを見つめる使用人たち。
「カトワーズ様があんなにはしゃいでおられるところを見るなんて初めてです」とセバスチャンが言うと、みんなが涙を流して頷く。
「ローゼ様は、かならずプロポーズを受けてくださるはずだわ」
「頑張れお坊ちゃま」
メイドたちがそう応援すると、使用人たちの頑張れコールが巻き起こった。まじかよ。でもわたし負けないよ。こんな同調圧力。
ローゼは、クラゲ野郎を被せて捕縛を試みる。もがくカトワーズ。やった。超能力使ってこない。それも束の間、繰り返し単発で超能力を放出して抵抗する。
弾かれてしまったローゼであったが、もしかしたら、と触手をレイピアに見立てて刺突する。「おおっ」難なく当たる。「やったー」と触手をムチ代わりにしてビシビシ叩く。でも、ただの触手、全然ダメージ与えられない。
カトワーズの繰り出す技が、いくら自分の目前で弱められるとはいっても、超能力そのものは問題なく健在、クラゲ野郎の向きを誤るたびに、ローゼ天上まで押しやられて磔状態。エミリアが助けに入ろうとするが、クラゲはちまきでは役立たず。頭以外が吹き飛ばされて、ひっくり返って駒状態。一瞬金縛りを解かれたローゼが床に落ちる前に、もう一度金縛り。
次のエミリアのアタックを期待するが、一向にエミリアはしかけない。また遊んでいるのかと思ってローゼが見やると、エミリアは石炭暖炉の蓋に頭をぶつけて、石炭を燃やす窪みの中に頭つっこんだままのびていた。
もうエミリアは頼れない。何とかクラゲバックラーを持っている左手を動かし盾にして、カトワーズの超能力を遮断する。
床に落ちたローゼ。カトワーズの超能力が、前に掲げるクラゲバックラーにぶち当たって二つに割れた。本気のカトワーズ、すんげー威力。部屋の中の調度品を巻き上げながらうねっている。
「うおっ」とローゼが身を縮ませる。
結構すごいぞカトワーズ。正規兵ならサイコソルジャー並の霊力をもっているなんて知る由もない。
「ぬぐぐぐ~」と超能力を押しやって、無理やり接近。「エミリアー!」と叫ぶ。
既に目覚めていたエミリアであったが、確保しようにもヒドラのように暴れる超能力の光波がすごすぎて突っ込めない。カトワーズも、自分とエミリアの間に上手く光波が横たわるように立ち回る。見た目によらず武道家並みの好フットワーク。よくよく考えたら、超能力で少し自分を浮かせばいいんだから、体重体型関係なし。
左右をローゼとエミリアに挟まれて、カトワーズも攻撃に転じることも小部屋から出ることも出来ないでいる。
隙を突いたローゼがクラゲバックラーを離して、咄嗟に前転してカトワーズの左懐に侵入成功。迎撃する暇も与えず。サササッと触手で手を縛り上げた。その瞬間、超能力が止まって、荒れ狂う光波も消えて狂乱颶風は収まった。飛び交っていた調度品もボタボタッと地面に落ちる。
「なんか、高価そうな壺が割れましたよ?」とエミリアが言うと、「あれは、金の延べ棒(金貨百枚分)三本分の価値ですな」とセバスチャンが言った。
すかさず「わたし払いませんよ」とローゼ。「やったのこの人ですから!」とカトワーズを指さした。
「うーん、まあ仕方ないですねー。結婚してしまえば、壊した物だってローゼリッタ様の物とも言えるんですから」
それを聞いた使用人たちは妙に納得。「わたし結婚しませんから」と言うローゼを無視して、部屋のかたづけを始めた。
ローゼは、カトワーズの腰をクラゲの触手で結んで、さらにその触手を何本か繋げて、クラゲ船(胴体)に結いつけてみんなに言う。
「追わないでください。追ってきたら、命の保証できませんから」
「追うだなんて、そんな野暮なこといたしませんよ」メイドの一人。
すると初お目見えの老人が言う。
「富める時も悩める時も、誓われた愛に揺るぎはありません」
「何で司祭がいるのよ。結婚式じゃあるまいし」
なんか披露宴の様相を呈している。「こんなところに長居できません」と言いながら、のんびり飲み食いしたローゼたちは、「誓いのキスを」と言う司祭とタコ口でまぶたを閉じるカトワーズを無視して、旅の支度をし直した。
「――ローゼさん、通商手形は良いんですか?」エミリアが訊く。
「そうか、忘れてた」
すると、カトワーズが言った。
「そんなもの盗まないよ。金で何とでもなるからね」
確かにそうだ。聞いたことも無いような小都市国家の通商手形くらい、キートン家の財力の前では落ちた枯葉同然だろう。
「ねぇ、カトワーズ」十五歳年上を呼び捨てローゼ。「おサイフどこなの?」
「部屋にあるよ」と答えたので、すぐに案内させる。
通された部屋めっちゃでかい。一部屋でローゼんちくらいある。白真珠色でキルティングデザインの豪華な花装飾のサイフの中を覗くと紙幣ばかり。こんなの使えん、と放り出して、たくさんあったおもちゃ箱(宝箱)に詰まっていた金貨をポシェットに詰めていく。
「結納金ですか?」とエミリアが訊くと、「うん」カトワーズが答えた。
ちげーよ。迷惑料だよ。どんだけわたしたち迷惑受けたと思っているんだ? 拉致監禁拘束暴行結婚強要、罪を問いただしたら幾つもあるぞ。
「ああ、人質として誘拐して、身代金をふんだくるってぇ手はずですね」
人聞き悪いよエミリア。あくまで慰謝料とか和解金って類い。悪く言えば口止め料。
「“あくまで”と“悪く”どっちもアクがつきますね」とエミリアがつっこむ。確かにそうだ。いや、字ー違うよ。そこでローゼは考えた。
「もし人質にしなければ、お金に物を言わせてたくさんの私兵で追いかけてくるわ。資金が豊富だから、そこそこの強者が集まるはずだし、身の安全のためにカトワーズを手元に置いておく必要があるのよ。その間の世話賃ね」とエミリアに説明し、「じゃあ」とローゼはセバスチャンに向き直った。「折を見てカトワーズは解放しますから」
「はい」
「それまでの路銀なくなりそうだったらお手紙しますので、為替でお願いしますね」
「かしこまりした、奥様。それで、サイコラークへの里帰りはいつごろで?」
「結婚しねーよ」ローゼつっこむ。
犬のようにリードを引いてローゼたちはお屋敷を出た。いい金づるが手に入った、とローゼ大喜び。「そっち本音ですか?」とエミリア。カトワーズは「上流貴族のなせる業」と自分自身を褒めて高笑い。
「カトワーズ様ー、お幸せにー」とセバスチャンが叫ぶと、メイドたちが「新婚旅行のお土産買ってきてくださいねー」と手を振る。他の使用人たちはみんなで万歳を繰り返す。
「いや、人質だってばよ」と呆れて呟くローゼだったが、無視して旅路を急ぐことにした。なんか洗脳されそうで怖いから。でも東の城壁門から出た三人は、北の城門から入り直して、隠れて一泊することにした。散々追い回されて、足棒状態。もう歩けません。
ちなみにカトワーズが一緒にいたので顔パススルー。旅券を見せなくても再入場。ホテルも支配人からスイートを勧められて、ほぼ強要レベルで話が進む。値段を見てローゼたち恐縮しまくり。絶対いやだと言い張ったが、結局一番高い部屋に泊まることに。一人一泊金貨五十枚。散財しなければ一年くらいの食費が賄える。
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