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第五十一話 ウェールネスの小悪党
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カッポカッポとそれぞれ馬に乗るローゼとエミリア。今朝方まで小雨が降っていて少し曇り空だったが、お天気占い師の話では日の入りまでもう雨は降らない、とのことだったので、超豪華な朝ご飯を食べて、これまでに得た情報をもとに次の“牙”探しに旅立った。
森の小道を行く三人。ローゼの馬に引かれるクラゲ船。中でゴロリとして悪魔牙団の名簿を見ていたカトワーズに、横にいたエミリアが言った。
「この人だけ出身地が書いてないんですよ」
佐藤美穂。容姿や能力は不明だが、名前から考えるとジパング人かもしれない。ローゼが会話に加わって言う。
「カトワーズは東の亜大陸にいて助かったけれど、もしかしたらこの人は帰っちゃたかもね」
すると、カトワーズが「美穂はカルデ出身だぞ」と言った。
それを聞いて、エミリアの表情がぱあっ、と明るくなる。
「本当ですか? やりましたね、ローゼさん。一つの都市で二人ゲットですよ」
ローゼも喜んで馬を停めた。
「お弁当(ホテルの人がサービスしてくれた)の超豪華パニーノがあるから、ピクニックがてら食べてから帰ることにしましょう?」
「さんせーい」(エミリア&カトワーズ)
梢が日傘となった涼しい場所は無いか、と小道をそれた三人の耳に、何やら不穏な声が聞こえる。多くの人の気配も感じ取れた。木々の向こうの方に、ガラの悪いやつらがいる。関わらないほうが良さそうだと踵を返して去ろうとするが、既に取り囲まれているようだ。近寄ってきた数人にサイフォスの剣を突きつけられて、奥に進むように促される。
「少佐、不審な奴らを見つけましたぜ」ローゼたちをつきだした男が言った。
百八十センチを超える長身の男がこちらを向いた。ダブルカフスで金縁のある茶色い二列ボタンの詰襟軍服を着ている。「ウェールネスの軍服?」とエミリアが呟いた。燭緒や肩章から少佐なのは間違いない。巻き毛気味の金髪で、横から後ろにかけて刈り上げた髪型。なんかめっちゃまつ毛長い。そこそこ良い男だ。
見渡すと、何頭かの荷車を引いた馬がいる。何かの取引の現場らしい。荷台を見るとワインの樽などなどだ。軍服が十人ばかしと胸元を皮ひもで止めた貫頭衣を着た男が二十人くらい。多分マフィアだ。軍事物資の横流しの現場だろう。
「カトワぁーズ、なぜ超能力で気付かない?」
ローゼはうな垂れて言った。
「縛られていて力を発揮できないよ。そろそろ外してくんない?」
「だめ」
それにしても、あの軍人おかしな格好だ。なぜ夏なのに冬服? どういうつもりなのだろう。ローゼは計りかねていた。
すると、それを察したのか、長身の男が言う。
「昨日鍾乳洞に落ちてしまってね。凍死しかけて未だに寒いんだ」
運わるっ。
「くそ、こう毎回毎回、人目につくとは」と長身の男が歯噛みして呟くのを聞いて、ローゼが「真昼間っから何やってんの? 普通夜でしょ?」と鼻で笑った。
「初めは夜やっていたさ。だが、何度やっても見つかってしまう。時間を変えてやってみたが、それでも見つかる。地下でやったり、山でやったり、海でやったり、色々したが、必ず見つかるんだ」
なんだよその遭遇確率ありえないだろ。どんだけ賑わってんだよ。
「ゼロ泊六日でここまで来たのに、結局見つかってしまった」とため息をついた長身の男は「まあいい、コイツらを始末してしまえばいいんだ」と前に一歩踏み出した。
その六日の間に取引すれば良かったのでは?
「ここは私が」と大尉らしき部下が言う。
「いや、僕自ら葬ってやろう」
脱いだ上着を大尉に渡して、柄を含めたら百三十センチを超えそうな長いサーベルを抜いた。それに呼応するようにして、ローゼもレイピアを抜く。そして息を飲んだ。
(長めだな、なんか自信満々だし、あれを振り回すなんて相当な使い手か?)
長身の男は、傲然とした上から目線で言った。
「喜べ女。このルイス・スチュアートを相手にできるなんて、なんて光栄なのか、とな」
言っちゃったよ。自分で名前言っちゃったよ。横流しのまっただ中で。赤裸々すぎない?自らバラしてどうすんのよ、己の素性。
「くっ、計ったな」と、ルイス悔しさを滲ませる。
いいえ、全く一切微塵も何も。
スタスタと無防備に歩いて来たルイスは、おもむろに大きく踏み込みローゼの喉元目掛けてサーベルを振り下ろす。それを避けたローゼ、カウンターで鼻っ柱を切り裂いてやろう、と横一線にレイピアを振るうも「あれ?」と言葉を発っした。ルイスを見失い「はやい!」と言葉を吐いてツーリック〈後ろ〉パスステップ。攻撃に備える――が攻撃来ない。
見ると、なんとルイスのヤツ、バナナの皮で滑ってすっ転んでやんの。
「何でこんなところにバナナの皮が?」ルイスが喚く。
「いや――」と声がして、ローゼとルイスが声のする方を見やると、
「――少佐がさっき食べて捨てたんですが……」と一人のチンピラが歩み寄って来て言った。
立ち上がったルイスは、「言い訳しない!」とホットドックを食べていたチンピラの首を掻っ切って殺す。
「ぎゃー!」
「なんてひどいことを!」とローゼが叫び、エミリアが「きゃっ」と悲鳴を上げた。
「お前らやってしまえ!」と叫ぶルイス。突撃の合図にサーベルを振るう。
何だよ結局部下任せかよ。
兵士とマフィア合わせて三十人ちょいといったところだ。マフィアはみんなサイフォスの剣を装備している。ペトラキオアス王国発祥の今時珍しい古いタイプの剣。隣国のマフィアか? 安価で扱いやすいので、むこうのチンピラが良く持っているらしい。こんなのを装備しているなんて、マフィアの規模の小ささが窺える。
ルイスの兵も似たようなもの。抜いた剣を見たローゼが鼻で笑う。
「肉切り包丁なんかで、わたしに勝てるとでも?」と自信満々。
包丁呼ばわりするのも仕方がない。刃先に向かって幅広になるコンヤーズ・ファルシオンが散見される。よくても少し反った感じのソープ・ファルシオンだが、大半はグロスメッサー崩れの大ナイフ。
でも慢心するなかれ。骨すら切断できる斬撃力。ローゼ実力違いでも手抜きはしない。烏合脱兎であっても獅子の如く全力優雅に舞う戦闘。混戦状態の中、苗字の意味を彷彿とさせるように踊るワルツ。ローゼの実力伊達じゃない。
ひびく金属音と雄たけびの中、カトワーズが叫ぶ。
「ローゼちゅわん、クラゲほどいてくれー」
なんだよ、調子に乗っていたのに、気分壊すなぁ。
「逃げるからダメっ!」とローゼ「こんな奴ら、それで十分でしょ!」。
今のカトワーズ、いっちゃん弱い『ソニッククラベル』しか使えない。しかも、連射技なのに連射できず。クラゲ船の上でサイコエネルギーの礫を撃ちまくりながら逃げ回る。速度は遅いし高度も高くないから右往左往。あの圧倒的強さはどこへやら。干しクラゲ恐るべし。
何人かは強いやつもいるようだ。エミリアと互角の兵士がいる。それでもなおエミリアとカトワーズが敵を圧倒していた。ローゼの右をエミリア、左をカトワーズが立ちはだかって包囲網を押し返す。その中央にいるローゼとルイスは、正にリングに立っているようだ。
突っ込んでくるルイス。ローゼは位置を勝ち取ろう、とサーベルをいなしながらスッテプを踏んで彼の攻撃線から身を外す。
ルイスのヤツ、剣捌きは下手なのにパワーがあって、押されるローゼ。片手剣とはいえ、大鉈みたいに剣身の太いサーベル相手にまともにやりあったりしたら、レイピアが折れちゃう。もし、ローゼが霊力を扱えれば、ルイス如きものともしないはずだけど。
レイピアは、もともと霊力を乗せて戦う武器。剣技も得意な魔導士が接近戦を行うための霊剣として開発された。今では、いわゆる魔法剣士も使う。サムライブレード、レディソードと並ぶ世界三大細身剣の一角。
他の2つ同様、制作には高度な霊能力と鍛冶としての技術を要する。霊剣とはいえ、霊力を乗せなくとも甲冑や鎖帷子を貫く刺突力がある優れた武器。そのため、誰でも扱えるように霊力を使用しない簡易版としてスモールソードが開発されて普及したほどだ。
「あっ!」とローゼが思わず叫んだ。
愕然としながら、突撃してくるルイスを指さしていった。
「社会の窓空いてるよ?」
ルイス、自分の股間を見やって「あっ」と叫ぶ。「見たな! 変態女め! そんなに俺が欲しいのか!」歯噛みして睨みつけてきた。すっげー逆恨み。
見てねーよ。見せたんだろ、お前がよ。“見えた”のと“見た”のをいっしょくたにすんなよ。
悪魔牙団の一員じゃないから、本格正統派ファンタジーを期待したけど、今回こういうやつなのね。全身全霊を込めてため息を吐いてなお、全身にため息がみなぎるローゼであった。
森の小道を行く三人。ローゼの馬に引かれるクラゲ船。中でゴロリとして悪魔牙団の名簿を見ていたカトワーズに、横にいたエミリアが言った。
「この人だけ出身地が書いてないんですよ」
佐藤美穂。容姿や能力は不明だが、名前から考えるとジパング人かもしれない。ローゼが会話に加わって言う。
「カトワーズは東の亜大陸にいて助かったけれど、もしかしたらこの人は帰っちゃたかもね」
すると、カトワーズが「美穂はカルデ出身だぞ」と言った。
それを聞いて、エミリアの表情がぱあっ、と明るくなる。
「本当ですか? やりましたね、ローゼさん。一つの都市で二人ゲットですよ」
ローゼも喜んで馬を停めた。
「お弁当(ホテルの人がサービスしてくれた)の超豪華パニーノがあるから、ピクニックがてら食べてから帰ることにしましょう?」
「さんせーい」(エミリア&カトワーズ)
梢が日傘となった涼しい場所は無いか、と小道をそれた三人の耳に、何やら不穏な声が聞こえる。多くの人の気配も感じ取れた。木々の向こうの方に、ガラの悪いやつらがいる。関わらないほうが良さそうだと踵を返して去ろうとするが、既に取り囲まれているようだ。近寄ってきた数人にサイフォスの剣を突きつけられて、奥に進むように促される。
「少佐、不審な奴らを見つけましたぜ」ローゼたちをつきだした男が言った。
百八十センチを超える長身の男がこちらを向いた。ダブルカフスで金縁のある茶色い二列ボタンの詰襟軍服を着ている。「ウェールネスの軍服?」とエミリアが呟いた。燭緒や肩章から少佐なのは間違いない。巻き毛気味の金髪で、横から後ろにかけて刈り上げた髪型。なんかめっちゃまつ毛長い。そこそこ良い男だ。
見渡すと、何頭かの荷車を引いた馬がいる。何かの取引の現場らしい。荷台を見るとワインの樽などなどだ。軍服が十人ばかしと胸元を皮ひもで止めた貫頭衣を着た男が二十人くらい。多分マフィアだ。軍事物資の横流しの現場だろう。
「カトワぁーズ、なぜ超能力で気付かない?」
ローゼはうな垂れて言った。
「縛られていて力を発揮できないよ。そろそろ外してくんない?」
「だめ」
それにしても、あの軍人おかしな格好だ。なぜ夏なのに冬服? どういうつもりなのだろう。ローゼは計りかねていた。
すると、それを察したのか、長身の男が言う。
「昨日鍾乳洞に落ちてしまってね。凍死しかけて未だに寒いんだ」
運わるっ。
「くそ、こう毎回毎回、人目につくとは」と長身の男が歯噛みして呟くのを聞いて、ローゼが「真昼間っから何やってんの? 普通夜でしょ?」と鼻で笑った。
「初めは夜やっていたさ。だが、何度やっても見つかってしまう。時間を変えてやってみたが、それでも見つかる。地下でやったり、山でやったり、海でやったり、色々したが、必ず見つかるんだ」
なんだよその遭遇確率ありえないだろ。どんだけ賑わってんだよ。
「ゼロ泊六日でここまで来たのに、結局見つかってしまった」とため息をついた長身の男は「まあいい、コイツらを始末してしまえばいいんだ」と前に一歩踏み出した。
その六日の間に取引すれば良かったのでは?
「ここは私が」と大尉らしき部下が言う。
「いや、僕自ら葬ってやろう」
脱いだ上着を大尉に渡して、柄を含めたら百三十センチを超えそうな長いサーベルを抜いた。それに呼応するようにして、ローゼもレイピアを抜く。そして息を飲んだ。
(長めだな、なんか自信満々だし、あれを振り回すなんて相当な使い手か?)
長身の男は、傲然とした上から目線で言った。
「喜べ女。このルイス・スチュアートを相手にできるなんて、なんて光栄なのか、とな」
言っちゃったよ。自分で名前言っちゃったよ。横流しのまっただ中で。赤裸々すぎない?自らバラしてどうすんのよ、己の素性。
「くっ、計ったな」と、ルイス悔しさを滲ませる。
いいえ、全く一切微塵も何も。
スタスタと無防備に歩いて来たルイスは、おもむろに大きく踏み込みローゼの喉元目掛けてサーベルを振り下ろす。それを避けたローゼ、カウンターで鼻っ柱を切り裂いてやろう、と横一線にレイピアを振るうも「あれ?」と言葉を発っした。ルイスを見失い「はやい!」と言葉を吐いてツーリック〈後ろ〉パスステップ。攻撃に備える――が攻撃来ない。
見ると、なんとルイスのヤツ、バナナの皮で滑ってすっ転んでやんの。
「何でこんなところにバナナの皮が?」ルイスが喚く。
「いや――」と声がして、ローゼとルイスが声のする方を見やると、
「――少佐がさっき食べて捨てたんですが……」と一人のチンピラが歩み寄って来て言った。
立ち上がったルイスは、「言い訳しない!」とホットドックを食べていたチンピラの首を掻っ切って殺す。
「ぎゃー!」
「なんてひどいことを!」とローゼが叫び、エミリアが「きゃっ」と悲鳴を上げた。
「お前らやってしまえ!」と叫ぶルイス。突撃の合図にサーベルを振るう。
何だよ結局部下任せかよ。
兵士とマフィア合わせて三十人ちょいといったところだ。マフィアはみんなサイフォスの剣を装備している。ペトラキオアス王国発祥の今時珍しい古いタイプの剣。隣国のマフィアか? 安価で扱いやすいので、むこうのチンピラが良く持っているらしい。こんなのを装備しているなんて、マフィアの規模の小ささが窺える。
ルイスの兵も似たようなもの。抜いた剣を見たローゼが鼻で笑う。
「肉切り包丁なんかで、わたしに勝てるとでも?」と自信満々。
包丁呼ばわりするのも仕方がない。刃先に向かって幅広になるコンヤーズ・ファルシオンが散見される。よくても少し反った感じのソープ・ファルシオンだが、大半はグロスメッサー崩れの大ナイフ。
でも慢心するなかれ。骨すら切断できる斬撃力。ローゼ実力違いでも手抜きはしない。烏合脱兎であっても獅子の如く全力優雅に舞う戦闘。混戦状態の中、苗字の意味を彷彿とさせるように踊るワルツ。ローゼの実力伊達じゃない。
ひびく金属音と雄たけびの中、カトワーズが叫ぶ。
「ローゼちゅわん、クラゲほどいてくれー」
なんだよ、調子に乗っていたのに、気分壊すなぁ。
「逃げるからダメっ!」とローゼ「こんな奴ら、それで十分でしょ!」。
今のカトワーズ、いっちゃん弱い『ソニッククラベル』しか使えない。しかも、連射技なのに連射できず。クラゲ船の上でサイコエネルギーの礫を撃ちまくりながら逃げ回る。速度は遅いし高度も高くないから右往左往。あの圧倒的強さはどこへやら。干しクラゲ恐るべし。
何人かは強いやつもいるようだ。エミリアと互角の兵士がいる。それでもなおエミリアとカトワーズが敵を圧倒していた。ローゼの右をエミリア、左をカトワーズが立ちはだかって包囲網を押し返す。その中央にいるローゼとルイスは、正にリングに立っているようだ。
突っ込んでくるルイス。ローゼは位置を勝ち取ろう、とサーベルをいなしながらスッテプを踏んで彼の攻撃線から身を外す。
ルイスのヤツ、剣捌きは下手なのにパワーがあって、押されるローゼ。片手剣とはいえ、大鉈みたいに剣身の太いサーベル相手にまともにやりあったりしたら、レイピアが折れちゃう。もし、ローゼが霊力を扱えれば、ルイス如きものともしないはずだけど。
レイピアは、もともと霊力を乗せて戦う武器。剣技も得意な魔導士が接近戦を行うための霊剣として開発された。今では、いわゆる魔法剣士も使う。サムライブレード、レディソードと並ぶ世界三大細身剣の一角。
他の2つ同様、制作には高度な霊能力と鍛冶としての技術を要する。霊剣とはいえ、霊力を乗せなくとも甲冑や鎖帷子を貫く刺突力がある優れた武器。そのため、誰でも扱えるように霊力を使用しない簡易版としてスモールソードが開発されて普及したほどだ。
「あっ!」とローゼが思わず叫んだ。
愕然としながら、突撃してくるルイスを指さしていった。
「社会の窓空いてるよ?」
ルイス、自分の股間を見やって「あっ」と叫ぶ。「見たな! 変態女め! そんなに俺が欲しいのか!」歯噛みして睨みつけてきた。すっげー逆恨み。
見てねーよ。見せたんだろ、お前がよ。“見えた”のと“見た”のをいっしょくたにすんなよ。
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