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第五十八話 行く末心配? カルデの美穂ちゃん
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翌朝、スイートルームに備え付けられたバルコニーに用意された朝食を食べながら、ローゼたちはカトワーズから佐藤美穂の情報を事前に仕込む。
佐藤美穂、十歳、女。身長はカトワーズより十数センチくらい高いというから、百四十センチちょい。黒髪で肩くらいのショートで肌の色はベージュ。子供じゃんか。
ローゼが「人さらいまでやっていたのか、最低ね」と言うが、カトワーズは笑って否定して言った。
「まさか。むこうから突然来たんだよ。なんか『趣味で遊ぶのをやめなさい』って言われて、それで家出してきたんだって。
ボスは家に帰そうとしたんだけれど、元気いっぱい過ぎて捕まえられなかったの。それで、そのまま居座っちゃったんだ」
「アンドレイさんたちが捕まえられないなんて、とてもすばしっこいですね」とエミリアがローゼを見て言った。
「小学生ってそういうものよ」
なはは、と笑うローゼにも記憶がある。
「幼い頃から騎士に憧れていて、ナイフを片手にナイトごっこして遊んだっけ」
よくお父さんとお母さんに怒られていた、と続けた。
でもさすがに、直線距離でも百キロ以上離れた岩山まで家出って、ありうるだろうか。しかもドラゴンの生息する樹海を抜けて。
カトワーズの話をにわかには信じられないまま朝ご飯を食べたローゼとエミリアは、もう一度オレンジジュースを飲んでから美穂のもとに行く支度を始める。
それを見ているカトワーズに、ローゼが言った。
「本当にカトワーズはいかないの?」
「! あー……ああ、僕は良いよ。バカンスがてら、のんびり部屋で過ごすから」
二人は、さっそく親御さんと面会。短い無造作ヘアで眉太めの父しげおと、長い髪を綺麗に整えたお団子頭の母美奈子。二人とも黒真珠のような瞳に深く吸い込まれるような黒髪。見た目三十代前半といったところだ。
エミリアひそひそ「ジパング系の人たちみたいですけど、頭長くないですね」
おむつジジイのこと言ってんのか? お前、ジパング人なんだと思ってんだよ。
「あれが特殊なのよ」とローゼが教えてやる。
エミリアは「えー? なんだぁ、つまんないのー」と残念がって、「頭長いのを期待していたのに」とため息をついた。「あの中どうなってたんでしょうね。かち割ってみればよかった」
コエーこと言うなよ、エミリア。
「冗談ですよ♡」
目が座ってる。冗談に見えないよ。
しげおが「美穂ー、出ておいでー」と言うと、「はーい」という元気なお返事が帰ってきて、カトワーズが言った通りの小さな女の子が出てきた。
ぱっちり二重で、彫がない顔立ち。陽射しが似合いそうなたまご肌。とても可愛らしい笑顔だ。
またエミリアがヒソヒソと言う。
「三人とも色が灰色じゃない。ほんとにジパング人?」
どっち疑ってんだよ。おむつジジイを疑えよ。
親御さんたちは、娘の家出先が悪魔牙団であったことは知っているようだ。初めさらわれた、と勘違いした二人は、傭兵を雇って救出に向かわせたが、全滅したらしい。その時美穂の自宅の所在を知ったアンドレイが手紙を書いて送ってきてくれて、家出であることが分かった、と言う。盗賊団のボスのくせして、なんとも律儀な奴だ。
しげおは通商手形は持っていない、と言うが、念のため部屋を探させてもらえないか、とローゼが頼むと、夫婦がいる前でなら良い、と承諾してくれた。そして代わりに、美穂を預かって教育してくれないか、と交換条件を提示してきた。
そういうの親御さんの仕事では?
「いや~、うちの娘は元気いっぱいで手におえないんですよ」としげおが言う。「ちゃんと報酬もご用意します」
そう聞いて、ローゼの右眉の端がピクリと動く。
「報酬は金貨を十枚ご用意しますから」と切に頼まれて、渋々(ふうを装って)ローゼは承諾した。
「実は、娘は登校拒否しているんです」とつらそうに言う美奈子。「今が夏休みとはいえ、多感な時だから一人で過ごさせるなんてできません。どうか、一緒にいてあげてください」
確かにそうだ。ローゼは、美穂の前にしゃがんで微笑みかけた。
「手におえないなんて失礼なパパよねー。元気いっぱいなだけなのに」
「うん、お姉ちゃん優しー」
美穂がそう言った瞬間、ローゼの横にいたエミリアがギョッとする。何があったの? めっちゃドン引き。辺りを見渡し、何が起こったのだろうか、と疑問悶々解決しない。
本当エミリアには理解できなかった。突然、ローゼの頭頂部の髪が噴水が湧いたように結ばれた。顔を見ると紫色のアイシャドーが塗られてあって、パンダ風のラメがキラキラ。口紅がたらこ唇になるまでに赤く塗られてある。
本人は気がついていない様子。エミリアはそっぽを向いて、「ふーふー」とならない口笛を吹いて誤魔化す。チラッと噴水頭を見て、(このまま放って置いてみよう)と考えた。
「?」とローゼの言葉がとまる。美穂の足を見ると、南国チックな濃くて深い黄色の半ズボン。パイナップルやりんご、バナナやサクランボの絵が描いてある。
「……これ、トランクスでは?」
「そうなんです」としげお。「この子、僕のトランクスを穿くのにハマっているんです」と言うと、美奈子が「トロピカルがトレンドみたいです」と付け加えた。
ローゼ「なはは」と笑いながら、「お外で穿くものじゃないよぅ」と諭す。
「嫌! わたしこれが好きなの」
そう言って美穂のトランクス談義が始まった。
「想像してみて」とキラキラした瞳で語り出す。「どこのお店にこんなクリーミーな黄色(濃過ぎで逆にクリームイエロー)のズボンがあるの? こんなに大きなくだもののやつ」
確かにないな。だってダサいもの。
「薄くて風通しがよくって、ズボンだなんて信じられない」
パンツだもんね。
「ううん、もうズボンで良いの」
良くないよ。
「ならぱんつで良いの」
良くないって。
「わがままね」
どっちがだよ。
「見て。ここ見て。ここに妖精さんが『こんにちは』ってする窓がついているの」
そこおしっこする小窓だよ。顔出すの違う子だよ。
「夢がないわね」
そこに妖精住まわせるほうが夢ないよ。ビチャビチャじゃんか。
「あはは、お姉ちゃん面白いこと言うのね」
この後けっこう長いこと美穂の話は続きました。
佐藤美穂、十歳、女。身長はカトワーズより十数センチくらい高いというから、百四十センチちょい。黒髪で肩くらいのショートで肌の色はベージュ。子供じゃんか。
ローゼが「人さらいまでやっていたのか、最低ね」と言うが、カトワーズは笑って否定して言った。
「まさか。むこうから突然来たんだよ。なんか『趣味で遊ぶのをやめなさい』って言われて、それで家出してきたんだって。
ボスは家に帰そうとしたんだけれど、元気いっぱい過ぎて捕まえられなかったの。それで、そのまま居座っちゃったんだ」
「アンドレイさんたちが捕まえられないなんて、とてもすばしっこいですね」とエミリアがローゼを見て言った。
「小学生ってそういうものよ」
なはは、と笑うローゼにも記憶がある。
「幼い頃から騎士に憧れていて、ナイフを片手にナイトごっこして遊んだっけ」
よくお父さんとお母さんに怒られていた、と続けた。
でもさすがに、直線距離でも百キロ以上離れた岩山まで家出って、ありうるだろうか。しかもドラゴンの生息する樹海を抜けて。
カトワーズの話をにわかには信じられないまま朝ご飯を食べたローゼとエミリアは、もう一度オレンジジュースを飲んでから美穂のもとに行く支度を始める。
それを見ているカトワーズに、ローゼが言った。
「本当にカトワーズはいかないの?」
「! あー……ああ、僕は良いよ。バカンスがてら、のんびり部屋で過ごすから」
二人は、さっそく親御さんと面会。短い無造作ヘアで眉太めの父しげおと、長い髪を綺麗に整えたお団子頭の母美奈子。二人とも黒真珠のような瞳に深く吸い込まれるような黒髪。見た目三十代前半といったところだ。
エミリアひそひそ「ジパング系の人たちみたいですけど、頭長くないですね」
おむつジジイのこと言ってんのか? お前、ジパング人なんだと思ってんだよ。
「あれが特殊なのよ」とローゼが教えてやる。
エミリアは「えー? なんだぁ、つまんないのー」と残念がって、「頭長いのを期待していたのに」とため息をついた。「あの中どうなってたんでしょうね。かち割ってみればよかった」
コエーこと言うなよ、エミリア。
「冗談ですよ♡」
目が座ってる。冗談に見えないよ。
しげおが「美穂ー、出ておいでー」と言うと、「はーい」という元気なお返事が帰ってきて、カトワーズが言った通りの小さな女の子が出てきた。
ぱっちり二重で、彫がない顔立ち。陽射しが似合いそうなたまご肌。とても可愛らしい笑顔だ。
またエミリアがヒソヒソと言う。
「三人とも色が灰色じゃない。ほんとにジパング人?」
どっち疑ってんだよ。おむつジジイを疑えよ。
親御さんたちは、娘の家出先が悪魔牙団であったことは知っているようだ。初めさらわれた、と勘違いした二人は、傭兵を雇って救出に向かわせたが、全滅したらしい。その時美穂の自宅の所在を知ったアンドレイが手紙を書いて送ってきてくれて、家出であることが分かった、と言う。盗賊団のボスのくせして、なんとも律儀な奴だ。
しげおは通商手形は持っていない、と言うが、念のため部屋を探させてもらえないか、とローゼが頼むと、夫婦がいる前でなら良い、と承諾してくれた。そして代わりに、美穂を預かって教育してくれないか、と交換条件を提示してきた。
そういうの親御さんの仕事では?
「いや~、うちの娘は元気いっぱいで手におえないんですよ」としげおが言う。「ちゃんと報酬もご用意します」
そう聞いて、ローゼの右眉の端がピクリと動く。
「報酬は金貨を十枚ご用意しますから」と切に頼まれて、渋々(ふうを装って)ローゼは承諾した。
「実は、娘は登校拒否しているんです」とつらそうに言う美奈子。「今が夏休みとはいえ、多感な時だから一人で過ごさせるなんてできません。どうか、一緒にいてあげてください」
確かにそうだ。ローゼは、美穂の前にしゃがんで微笑みかけた。
「手におえないなんて失礼なパパよねー。元気いっぱいなだけなのに」
「うん、お姉ちゃん優しー」
美穂がそう言った瞬間、ローゼの横にいたエミリアがギョッとする。何があったの? めっちゃドン引き。辺りを見渡し、何が起こったのだろうか、と疑問悶々解決しない。
本当エミリアには理解できなかった。突然、ローゼの頭頂部の髪が噴水が湧いたように結ばれた。顔を見ると紫色のアイシャドーが塗られてあって、パンダ風のラメがキラキラ。口紅がたらこ唇になるまでに赤く塗られてある。
本人は気がついていない様子。エミリアはそっぽを向いて、「ふーふー」とならない口笛を吹いて誤魔化す。チラッと噴水頭を見て、(このまま放って置いてみよう)と考えた。
「?」とローゼの言葉がとまる。美穂の足を見ると、南国チックな濃くて深い黄色の半ズボン。パイナップルやりんご、バナナやサクランボの絵が描いてある。
「……これ、トランクスでは?」
「そうなんです」としげお。「この子、僕のトランクスを穿くのにハマっているんです」と言うと、美奈子が「トロピカルがトレンドみたいです」と付け加えた。
ローゼ「なはは」と笑いながら、「お外で穿くものじゃないよぅ」と諭す。
「嫌! わたしこれが好きなの」
そう言って美穂のトランクス談義が始まった。
「想像してみて」とキラキラした瞳で語り出す。「どこのお店にこんなクリーミーな黄色(濃過ぎで逆にクリームイエロー)のズボンがあるの? こんなに大きなくだもののやつ」
確かにないな。だってダサいもの。
「薄くて風通しがよくって、ズボンだなんて信じられない」
パンツだもんね。
「ううん、もうズボンで良いの」
良くないよ。
「ならぱんつで良いの」
良くないって。
「わがままね」
どっちがだよ。
「見て。ここ見て。ここに妖精さんが『こんにちは』ってする窓がついているの」
そこおしっこする小窓だよ。顔出すの違う子だよ。
「夢がないわね」
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