DEVIL FANGS

緒方宗谷

文字の大きさ
67 / 113

第六十七話 ミス・カルデは誰の手に?

しおりを挟む
 ローゼは、左斜め上から振り下ろされたムチを掻い潜って、そのまま更に大きく踏み込んだ。勢いをつけてサイドステップカウンター。カトワーズを撃ち付ける。
 アイマスクにカトワーズのおでこがぶつかって、撥ね飛ばされて転げるエルザ。数回転バウンドして着地。そのまま力を溜めるように腰を落とした姿勢で構えなおす。そして「やー」と掛け声と共に渾身の力でムチを振るった。右足爪先一本で立って、左足は地面と平行よりだいぶ上にぴんと伸ばす姿勢。左手は翼を高々と広げた孔雀の様に天を突く。まるで体操選手のリボンの技。
 両手を掲げたカトワーズも、「いやぁー!」と叫んで腕を振りおろし、渾身のサイコエネルギーを放出する。
 二つの巨大な霊域(スピリチュアル・パワー・フィールド)が出現し、周りに落ちたがれきや巻き込まれた兵士、セシュターズを巻き上げていく。突如として粉砕音を立てて地面が崩れてクレーターと化した。稲妻のような二人の霊域に飲まれた道沿いの建物がえぐられて倒壊。こいつらだけで一騎当千? 一個中隊? 一大隊? もしかしたら旅団くらいの戦力なのでは?
 ローゼは思った。
 (エルザのヤツ、もし変態じゃなかったら、ロッツォレーチェの軍隊って、今以上に強いのでは?)
 パークだってロッツォリーチェの陸軍兵だったっていうし……。本当に変態で良かった。この時ばかりは本当にそう思った。ていうか初めて思った。変態で良かったって言うのも変だけれども。
 カトワーズはサイコラーク人だけれど、東の亜大陸で新興国を打ち立てる気だ。反乱を企てているだけある実力。さすがに無謀かもしれないけれど、群雄割拠の小国が乱立する南の方なら出来てもおかしくないぞ。あそこら辺は栄枯盛衰を繰り返して、毎年地図が書き換わるから。
 ローゼは、「力が拮抗している――――」と呟いた。「今決められるのはわたしだけだ」でも恐ろしくて踏ん切りがつかない。
 躊躇している間にクラゲのハンデがあるカトワーズがにわかに押され始めていることに気がついたローゼは、密かに腰のダガーの握る。腹を括るしかないだろう。
 ローゼは「今だ!」と叫んで、エルザめがけて勢いよくダガーを放った。「くっ」と言って刃を握って受け止めるエルザ。ローゼが「エミリアっ」と叫ぶ。呼応したエミリアがエルザの霊域に飛び込んで、大量の霊気を込めた正拳突きを撃ち放つ。
 カトワーズとの一進一退を維持したまま、エルザはエミリア渾身の一撃をムチで受け止めた。
 そこにローゼが果敢に突撃をかける。エミリアが放った霊気が飛散する前にそれをレイピアで突いた。そして、エミリアの霊気をサーフボード代わりにしてエルザの放つ霊気の上を波乗りするかのように飛びぬけて、反対側に着地。すぐさま乗ってきた霊撃に、フォア&パスステップで突撃シュテッヒェン(刺突)をかます。すかさずエミリアはまた正拳突き。三対一の包囲網が形成された。
 エルザ、一本のムチでトライアングル包囲をよく持ち堪える。だが、それもいつまでもは続かない。ついにエルザの力が尽きて、三方向からの攻撃が同時に直撃。
 「きゃ~~」と叫んだエルザは、高々と撥ね飛ばされて地面に落ちた。受け身も取れなかった上に頭からだ。全く動かない。伏したままだ。
 三人掛かりでようやくエルザを追い詰めた。ローゼが捕まえようとしたところ、ヨロヨロと立ちあがる。
 「エルザ……」とカトワーズが呟く。「没落貴族とはいえ、貴族は貴族。没落しても貴族という生まれは消せないんだな」そう言ってほほ笑む。
 分かんないけど、なんか感慨に浸ってるよ。
でもよく見ると、カトワーズはカトワーズで疲労困憊しきった様子。
 駆けつけてきたセバスチャンが「お坊ちゃま」と声をかける。「一度ホテルに退きましょう。籠城です。お屋敷からの援軍を待って反撃しましょう」
 「分かった。何とかこのクラゲも解いてくれ」
 「わー」とみんなに担がれてホテルに去っていくカトワーズとその軍勢。セバスチャンが辺りの傭兵にカネをばらまいて、防衛完成立て籠もる。ホテル全部屋貸切状態。泊まっていたお客さんまで追い出されてきた。
 どんだけ権力買ってあるんだ? あの金満野郎。
 もちろん、立ち退き料はたんまり払われたし、別のホテルに同等以上の部屋を用意されているから、宿泊客に文句はない。お土産付きで、逆に得したくらいだ。
 残された三人が構えてにらみ合っていると、遠くから砂煙を巻き上げて突進してくる何者かがいる。みんなで見やると、こっちに突っ込んでくる美穂。輿に担がれている? いや輿じゃない。人間騎馬だ。て、なんでブリーフ? まさか美穂女王様? アゲハのアイマスクをつけて、どこで拾ったのか、監獄の塀の上についていそうな有刺鉄線を振り回している。襯衣は胸の下で結んでいて、南国の美女風の装い。半袖もまくり上げて肩露出。トロピカル・トランクスもさまになってる。
 三つ巴? 何とか調略して美穂をこちらに引き入れなければ――。思わずローゼが口を開いた。
 「美穂ちゃん、わたしたちお友だちでしょ? こっちに味方してくれるわよね?」
 「うーん……」
 美穂はローゼとエルザを何度も交互に見やる。
 「ちょっと待って」と言った美穂は、人間騎馬を下りて、おもむろにローゼに近づいていって、胸をモミモミ。「うーん」悩む。今度はエルザのところに行って、胸をモミモミ。「うーん」と悩んで、人間騎馬に戻っていった。そして「覚悟! 似非巨乳」と、力強くローゼを指でさした。
 「何でぇ⁉ わたしの方が若くてはりがあるでしょ⁉ ピチピチよー」
 「熟してない。 青いりんごは甘くないもん」
 それを聞いて、エルザ大笑い。「大人の魅力は無いみたいね」
 するとエミリアが付け加えた。「そうなんです。ホロヴィッツさんにも言われてました」
 忘れていたのに。
 有刺鉄線を使ってエルザをまねたムチ攻撃。まだまだ未熟。ここに至るまで何人もの男の服を引き裂いてきたらしいが、ローゼの前では軽くいなされてしまった。
 勝てないと察した美穂は、人間騎馬の右後ろの小太り男(ちょっと若め)をムチ打って、逃走開始。
 「待てー」とローゼたちが追いかける。でもしんどい。エルザの攻撃をかわして追いかけるのは至難の業だ。
 カトワーズのおかげでエルザの戦闘力は大幅減退している。今なら勝てるかもしれないが、美穂の格好が前より悪化している。しかも+α変な趣味。だからこのまま放っておくわけにもいかない。
 追撃戦と同時に撤退戦状態。もう勝ってんだか負けてんだか、ローゼには分からなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...