DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第八十八話 伝説って畢竟そんなものだよね

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 第五幕 天下を目前にした武将を突き殺したと伝わる竹やり

 「このレンジは避けられぬぞ」と佐間之介。「馬上の武者すら串刺しに出来るという一撃必殺の竹やり!」
 竹やりって言ってる時点で、伝説ないよね。
 「この竹やりは、さる武将を刺し抜いたと伝わる竹やりなのじゃ。
  普通、伝説の武具と言えば、強い力を授けてくれるとか、願いが叶うとかいうだろう? だがこれ違う。相手を破滅に追いやる呪の竹やりなのである」
 「これが?」ローゼ全く信じない。続けて「あんたの探している物干し竿ってこれじゃないの?」。
 「無礼なっ」と佐間之介。「あっちはサムライブレード! お主とて剣士の端くれなら、ソードとスピアの違いくらい分かるであろう」
 あんたの、武器と違うってことくらいは分かるけどね。
 エミリアなんか、もうほんとどうでも良さそうに、
 「でもローゼさん、竹とはいえ槍で刺されれば十分死にますよ」と言った。
 「まあ、ある意味破滅よね」ローゼが答える。
 さも自分が体験したことを語ろうかというように、瞳を閉じる佐間之介。
 「昔のジパングは戦国の乱世まっただ中だった――」
 想像の世界に超スローイン。
 「長い戦乱の中生まれた武将たちが群雄割拠する世界だった。その真っ只中、ある領地に、並み居る武将をうち滅ぼして天下統一を推し進めていた大王がいたのだが、日ごろからいじめていたやつに仕返しされて、寝ている間に家を放火されてしまったのだ」
 放火って……いじめていた方も方だけれど、放火も放火だよな。武士の魂どこ行っちゃったんだよ。
 ナレーション(?)してるローゼを睨みつけて、話を続ける佐間之介。
 「やられたのはヘッドだったもんだから大混乱。――でやったのは幹部の一人なわけだから、後釜に座ると思うだろ?」
 うん、確かに。
 「だがどうだ。見ても聞いても信じられないような大返しで最前線から戻ってきた他の武将に討たれてしまったのだ」
 ん? それ竹やり関係なくない?
 「落ち延びた敗戦の将は山中で落ち武者狩りに遭って、この竹やりで刺されて死んでしまった、と言う話なのだ。立ち並ぶものなど殆どいないほどの名武将であったのに、ただの農民の竹やりに刺されて死ぬなど無念すぎてな。その血肉は怨念を発して、竹に吸われた――と拙者は思っている」
 誰が思ってるって?
 「拙者じゃ」
 個人的意見かよ。
 「ええい、うるさい! うるさい!」
 瞬ギレした佐間之介、いきなり構えて竹やりで突く。
 しかし、ローゼ相手に素人では歯が立たない。吊の上げ下げマッハの速度。竹やりの先からすごい勢いでみじん切り。あっという間に手元までなくなった。
 「ぎゃぁァァぁっ‼」
 おでこをレイピアで突かれて叫ぶ佐間之介。
「痛いではないか! 本気で突くやつがあるか!」
 いや、今戦ってんですけど……。
 ぴゅぴゅっ、と血が出ている佐間之介は、涙をちょちょぎらせながらおでこに絆創膏をばってんに張った。
 その間、宙を見ながら考えていたエミリアが、ぶっきらぼうに口を開く。
 「今の話だと、その武将が負けたのって、呪われた竹やりのせいじゃありませんよね」
 ローゼと佐間之介、はたと考える。エミリアが続けた。
 「だって、その武将が竹やりにやられたから呪の竹やりができたんですよね」
 確かに――、と思って、ローゼが佐間之介をちら見した。
 バツが悪そうな佐間之介、何か考え込んでいる様子だったので、ローゼは黙って見守ってみる。
 「それはだな――パラドックスと言うやつだな」
 無理やりだな。
 「その武将は、自らの怨念に飲み込まれたのだ。天下統一を目前にした大王を恨み殺めるほどの怨念が竹やりを呼んだのじゃ」
 もっとましな武器呼べよ。
 「自らの闇が呼び寄せた槍先によって、自らを敢えて滅ぼしたのだ。暴走する欲望を滅するために。そう…彼は自ら死を選ぶしかなかったのであろう」
 佐間之介は、無常を込めてしみじみと言った。
 「ふーん、じゃあ次」とローゼ。
 「次ってなんだ! 次って!」怒鳴る佐間(之介)。
 「いや、もういいかなって」
 「いくなーい」と叫んだ佐間之介は、ゴザまで走っていってもう一本持ってきた。
 「何でもう一本あるのよ」
 「二本セットでお得だったのだ」
 そう言った佐間之介は、腰を落として槍を構えて勢い良く刺突した。
 反射的に第四に構えるローゼめがけて、佐間之介が突いた槍先が襲い掛かる。上下切っ先を振るうローゼ、あっという間に竹やりみじん切り。
 「ああっ! なんということを‼」
 絶望に打ちひしがれて四つん這る佐間之介。
 “なんということを‼”じゃないよ。二度も人に刺突かましておいて何言ってんだよ。
 「あなたさぁ…」とローゼがかかとを踏み鳴らしながら言った。「まさか素人?」
 「免許皆伝の拙者に向かって、なんと無礼な」
 「そんな腕、どこでどう習ったって言うのよ」
 「家でだ」
 「家出?」とエミリアが訊く。「武者修行か何かですか?」
 「いや、“家で”、だ。通信教育で六か月間みっちりとな」
 それ免許皆伝って言わねーよ。
 佐間之介は、「ちゃんと六級を取れたんだからな」と満面の笑みで丸まった紙を開いた。
 証明証書持ち歩くなよ。てか、送られてくるテキスト(なぜか無駄に巻物)通りに竹刀振るって取れる級ってどんな級だよ。
 エミリア、何が可笑しいのか笑いながら、「六級ってすごいんですか?」また質問。
 嬉しそうに佐間之介が答える。
 「うむ。上から六番目だからな。拙者なればこそのごぼう抜きだ(実際は一番下)」
 詐欺られてない? 一人でやってる通信教育で、防具一式買わせるって意味あんの?
 「当り前だ」と胸を反らす佐間之介。「野武士とはいえ、帝国の危機に際して立ち上がらずして何とする」
 まあ、心意気はよしかな?

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