DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第九十一話 理想と現実に打ちひしがれて 夏

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 眉間にしわを寄せて、ローゼとエミリアが二人でマジマジ見ながら話していると、人面剣が急に動いた。
 「どうせすぐ垂れんだから、胸筋体操したって仕方ねーぞ」とこもった声。
 「なっ⁉」
 ローゼの眉間にひびが入る。
 「あはは」と笑い出したエミリア、止まらなくなってお腹を抱える。
 エミリアに向かって「お前――」と続ける人面剣。
 「いつか大きくなるって思っているみたいだけどな、夢見てんじゃねーよ。もうこれ以上大きくなんねーから」
 「なんですか⁉」と絶叫するエミリア「出合い頭で酷過ぎです‼‼」
 今度はローゼが「あはは」と笑い出す。「良い気味ー」
 「黙れ垂れパイめ!」とエミリアが嚙みつく。
 「垂れる胸もないくせに言わないの」一応言っておくけど垂れてないよ。
 「~~~っっ!」
 「笑い事じゃねーぜ、ローゼリッタ」と人面剣。
 「なっ、何よ」
 「お前軍人になってどうする気? 霊力使えなくて使い物にならないじゃん。
  お隣のフィーリアンと戦争にでもなってみな。みんなソードウェーブ撃ってくんだぜ。お前なんて一瞬で木端微塵」
 「むぐっ」とローゼ言い返せない。
 この世界はとても混沌としている。人間界と天界・魔界の三つの世界が存在していて、三者とも大昔から敵対してきた。幾度となく降臨する天軍や降魔する魔軍と大規模な戦争を繰り広げてきた。
 神や天使、悪魔には実体がないため、こぶしや剣では全くダメージを負わせることが出来ない。そこで魂の力を使って戦う術を磨き続けてきた結果、生まれたのが霊撃だ。エミリアの“飛翔拳”や星屑の剣を持っていたときのローゼが放ったソードウェーブがそれである。
 霊力を使った攻撃は物質に対しても有効なので、当然対人戦闘(戦争)にも使われてきた。使用者の力量次第で、数百数千からなる軍隊を一撃のもとに吹き飛ばすことすらできる。だから、ローゼがいくら強かろうが、一発霊撃を喰らえば即死して肉片も残らないかもしれないのだ。
 「ざまーみろです。軟弱者はデビュー前に引退しなさい」
 エミリアが笑っていると、「デビュー前はお前だよ」と人面剣が面と向かって言い放つ。
 「お前、わりかし可愛いって思っているだろーけど全然普通。『冗談冗談』って言いながら本気でヒロイン狙える可愛さだって思ってんだろ?
  みんなそうなんだよ。ヒロイン狙うやつが集まったら、お前底辺の底だから」
 「そんなこと――」とエミリアが叫びかける声に被せて、人面剣が続けて言った。
 「『ないわよ』って言うんだろ? あと数年して胸さえ育てば、って思ってんだろ? ムリだって。だってそれより大きくなんねーもん」
 ついにエミリアがキレた。「ムキーッッ!」と叫んで深く踏み込む。霊力を足から放出して高速ホバー。三メートル以上ある距離を一気に詰め、人面剣の左ほほ目掛けて正拳突きをぶっ放す。
 それをいとも容易くニョイッと避けた人面剣、エミリアの腕に巻き付いて、互いの顔面を数センチにまで近づけて目を凝視する。刹那。更に追い打ちをかけるように被せかける。
 「毎日お風呂でおっきくなる体操してんだろ? 期待するだけ無駄たから」
 ピキピキピキーン、と何かがひび割れる音が響いた。
 ローゼが駆け寄って覗き込んでみると、額に影線が入った顔面蒼白のエミリアが、正方形のまなこで黒目を点にして、縦長四角形の口で固まっている。背景は稲妻がほとばしるようだ。見る見るうちに、顔面に入ったひび割れが広がっていく。
 「う、う、うう~」
 小さく唸りながらわなわな震えるエミリアが、人面剣に背を向ける。
 「あーあ、泣かせたー」とローゼが非難するも、人面剣はどこ吹く風。まあ、感情のない疑似生命体だろうから当然か。(もしかしたら霊や魔物かもしれないけれど)
 何とか涙をこらえたエミリア、涙目で振り返って人面剣に微笑みかけた。
 「ちょっと、あっちで話しましょうよ」
 「やだね、どうせひどいことする気だろ?」
 「しませんよ」
 そう言って、人面剣の首に手をまわしたエミリアは、無理やり引っ張って森の奥へ消えていく。
 「なんか――結構伸びるのね」とローゼがどこまでも伸びていく刀身を漠然と眺める。
 しばらく沈黙。
 気になったローゼが額に手をあてて木々の向こうを見透かすけれど、どこまで行ったのか姿が見えない。
 それから更にやや間があって、ぐじゃっ! と音が響いて聞こえた。その瞬間、刀の柄がビクビクッ、と痙攣する。
 ぶしゃっ! ぐじゅり…ぐじゅっ、ぐじゅっ――――――メキメキメキ……ぶしゅっー! ドボドボドボ……ぼだりぼだり―――――ぼだっ……ゴロゴロ……
 その間、刀の柄痙攣しっぱなし。音に合わせてビクッとするだけ。なんの反射?
 低木の葉を擦る音を発てて、エミリアが戻って来た。刀の柄はピクピクするばかりで、心なしかうな垂れているように見える。
 「エミリア、どうしたの――」“何があったの?”と訊こうとしてローゼ&佐間之介激しく動揺。ワナワナ絶句。
 両手の肘まで真っ赤に染めて、垂らした指から滴る鮮血。
 「返り血浴びてるー‼‼」(ローゼ&佐間之介)
 口をパクパクさせながら震える手で指をさして固まっているローゼの横で、顔も服も真っ赤に染めてニコニコ歩むエミリアに佐間之介が叫び続けた。
 「お前、拙者の人面剣に何をしたのじゃ!」
 「え? お話ししただけですよ」とシレッと言う。
 「嘘を言うんじゃない」
 「女の子を傷つけちゃ“めっ”ですよ、って――」
 そのやり取りの合間に、息も絶え絶えの人面剣が首を短くして戻して来る。
 「ぎゃ~~~‼‼‼‼‼」(ローゼ&佐間之介)
 茂みの奥から戻ってきた人面剣を見て大絶叫。あったはずの首がない。無理やり引きちぎられたかのようなミンチ状にささぐれた傷口。もはや流れ切ったのだろうか、血は滴る程度。
 「おま、おま、おま――」と吃音気味の佐間之介。「お前、殺したのかぁー⁉ 人面剣を殺したのかぁー⁉」
 「人聞き悪いこと言わないでくださいよ」
 刀身は見る見るうちに力を失って、ゆっくりとうな垂れていく。そして間もなく動かなくなった。
 「あっ、あああ~」と悲鳴を上げる佐間之介。膝をついた後、続けて「じゃあ首はどうした⁉」と思い出したように怒鳴りかける。
 「なんか先帰るって」「帰るって、拙者の腰の鞘だろう?」と間髪入れずに言い返す。
 「人面剣さんって良い人ですね」
 「人じゃないけどねー」とローゼがポツリ。
 「話せば分かる人でした。一生懸命傷ついた気持ちを言って聞かせたら、『残酷なこと言ってごめんなさい』って帰って行きました」
 残酷なの、あんただよ。

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