DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第九十四話 胸は天下の周りもの

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 真野佐間之介を撃破した翌々日。ローゼは、佐間之介退治の依頼主である村長から、お礼の金銀銅チップの入った袋を宿屋で受け取った。もらえる額は金貨にして十枚程度なのだが結構重い。もともともらう約束はなかったのだが、村人たちの好意で少しずつ出しあってくれたらしい。
 超嬉しー。鬱積した一晩かけてびしょ濡れで帰ってきた時の悲惨な気持ちも吹き飛ぶというものだ。もちろんエミリアには渡さずに、全てローゼのポシェットに入った。
 そしてローゼたちは、そのまま次の目的地である自由都市トラントへ旅立つことにした。
 「ローゼさん?」
 村から出ようとしたちょうどその時、自分だちを呼ぶ懐かしい声がした。
 「アリアス?」とローゼが振り返って笑顔を向けると同時に、顔が引きつる。エミリアは“ほよ~ん”とした顔で見ている。
 「なななっ、アリアス! なんて格好?」ローゼが叫んだ。
 ほぼ裸。股間にとんがりパンツをつけただけの姿で、左手で剣の鞘を握っている。
 「竜殺紳士(りゅうごろしんし)に勝負を挑んで負けたんですけど、見込みがあるって言ってこれをくれたんです」
 何の見込みだよ。
 「素晴らしい装備ですよ」と誇らしげに語るアリアス。股間をつき出す。
 ドン引きながらもローゼは言った。
 「まあ確かに、竜のツノは超硬質で法術にもアストラルサイドからの干渉にも耐性があるから、装備としては最高だけど……。
  それより、竜殺紳士って――アルフレッドさんは?」
 「アルフレッド? そんな人いませんでしたよ。 ツノヘルムをかぶって欠片を纏った竜殺紳士ととんがり兵がいただけですけど」
 なんだよツノヘルムって。全裸なんだから、ツノフォールド(鎧の腰の部分)とかにしてくれよ。破片を纏うっておかしくなーい? もはや押さえていないじゃん?
 「それはありませんよ」とエミリアが否定。「だってそれじゃあ、女性用ツノぱんつと一緒ですもん」
 ああ、確かにね。でも破片スルーなのね。
 結局お姉さんは見つからずじまいだったらしい。アリアスは、城ゴーレムがあったから監禁されているのではないか、と期待していただけに落胆も大きい、と言う。その表情がとても悲しげで、さすがのローゼたちも可哀想になった。
 ――で今、日没森の中。色々すっ飛ばしたけれど、三人は鬱蒼とした森の中で道に迷っている。
 「ローゼさんのせいで」とエミリアがポツリと言った。
 何言ってんだよ。すっ飛ばされたからって勝手なこと。話しカットされているけれど、あんたがあっち行ったりこっち行ったりして遊んでたからでしょ。
 今夜は野宿か? と諦めて、ちょうどいい場所を探していた時、人の気配に気がついたローゼたちは、近づいてくるその者の方を警戒しながら直視した。
 老婆? こんな夜更けにこんなところで?
 「あたしゃ、怪しいもんじゃないよ」
 十分怪しいよ。なんだよ、その格好。玉ねぎみたいな髪型の上にお団子シニョン。そのお団子にホオズキ色の玉がついているかんざしを挿した老婆は、黒いバニーガール姿。うさ耳をつけていて足には赤いハイヒール。お前の名前、バニーばばあに決定だ。
 胸は思いっきり垂れていてトップが腰の位置。全身しわだらけで皮超伸びている。お尻なんて鞣してあるよう。
 「ヤマンバじゃないよ」とバニーばばあ。
 言ってないよ。バニーばばあだよ。怪しいって自覚はあるようだけれど、ヤマンバに失礼な格好だな。でも話を聞いて納得する三人。近くでレストランを経営しているらしい。バニーガールはそのユニフォームなんだと。
 すぐに辿り着いたレストランはすっげー派手。たくさんのランプと万国旗で飾られている。店名――ウサギっ子クラブ? 変な名前の店だな。中にはソファが並んでいて、膝の高さくらいのテーブル。お酒中心の店のようだ。これレストランじゃなくてパブじゃんよ。
 こういうお店には二人とも“客として”入ったことがないから、内心ドキドキ。(アリアスはおむつジジイと経験済み)
 「ちょっと高そうですね」とソワソワ気味で言うエミリアに、ローゼは緊張を隠して「そうね」と一言。
 出てきた料理に度肝を抜かれる。ハーブのフォカッチャ、夏野菜のシチュー、根野菜とキノコのマリネ、ナスのパルミジャーナ、チーズ各種、生ハム、厚切り豚ロースのガーリックステーキ等々。三人いても残しそうだ。
 全部近くの村々の畑で取れた野菜や飼育された豚らしい。訊くと料理はみんな時価だと言う。まあ、人里離れた山の中だから仕方がない。アルフレッドさんのところで、“次期人間の盾たち”から巻き上げたお金をもらったし、佐間之介退治の礼金もあるので、懐はずっしゃり重いくらいだから心配なし。
 たらふく食べてお会計。
 「ゴールドブリオン(延べ棒)一本と、(金の)プレート三枚、(金の)メダル九枚、(金の)チップ九枚と砂金数粒じゃ」
 たかっ! しかも金チップ九枚と砂金数粒ってなんだよ。銀プレート(銀プレート一枚=金チップ一枚)と銀貨か銅貨でいいじゃんよ。
 「黄金以外は金とは認めんのよー」と答えるバニーばばあ。 
 ぼったくりじゃん。ローゼは「払えない」と言って払わずに店を出た。
 「食い逃げはダメじゃよー」
 バニーばばあが追いかけてきた。高齢なのに結構俊敏。ローゼたちの前に回り込んで行く手を塞ぐ。でも、ローゼ踏み倒す気満々。ぼったくりには払わなくていい、と聞いたことがある。一人で切り盛りしているパブのようだし、強行突破だ。
 ローゼがそう思って歩みを再開すると、バニーばばあは両ひざに手を置いて中腰になり、左右に肩を揺らし始めた。なんかだんだん胸が伸びてきて、しばらくするとカウボーイが縄を回すようにちちが回り始める。

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼

 上半身を空に向けて円を描き、がに股でお尻を下げて腰を左右に揺らしている。器用だな。“うっふ~ん”のところで、こちらに向かって必ずウインク。
 「あたしのセクシーダンスを受けてみんさいな」
 いや、全然セクシーじゃないんだけれど。
 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼 を繰り返しながら、時折手のひらを上に向けて小指から絡めていって手招きする。
 すっげー自信満々に色気を出してるつもりらしい。

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼

 ふらふらふら~、とアリアスが歩き出した。どうしたの?

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼

 踊り出したよ! バニーばばあの後に続いて踊り出したよ。

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡
  うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼 (バニーばばあ&アリアス)

 しばらくして、 ふらふらふら~、とエミリアが歩き出した。まさか――嘘でしょ?

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼

 踊り出したよ! アリアスの後に続いて踊り出したよ。
 「冗談でしょ⁉」とたじろぐローゼ。「チャーム? あの踊り、魔術の儀式か何かなのかしら?」 
 ローゼはそう言って、マントで身を覆う。

 🎼うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うふ うふ うふーん♡ うっふ~ん♡🎼 と言ったところで、つ・づ・く💘💕  byバニーばばあ


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