DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第九十三話 武士道とは死ぬことと見つけたり

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 紆余曲折あって、小雨が降ってきた。

 「う、ううう」と唸る佐間之介。もはや言葉が出ない様子。ゴザを見ると武器もない。「光の剣さえ届いていれば……」と悲嘆にくれる。
 「待ちますか?」とエミリアがローゼに訊いた。
 待つわけねーだろ。さっき注文したばっかじゃんか。
 弱々しく膝をついた佐間之介は、しばらくの間両手を地面につけていたが、何を思ったのかおもむろに身をあげる。
 「もはやこれまで」
 そう言って、胸とおなかをはだけさせて、エクルカリバーを左わき腹にあてて、流涕のまなこで続けた。
 「止めてくれるな武士の情けだ」
 「別に止めやしないけどー――」と、ローゼあっさり見捨ててエミリアを見やる。
 「うん、わたしハラキリみたいですもん。ハラキリ見物初めてです」
 何だよハラキリ見物って。
 「河原とかでやるらしいです」
 公開処刑って言わないか? それって。
 「わーん‼‼‼」と佐間之介。
 あ、逃げた。
 「ローゼさん、このロープ」
 急いでゴザに駆け寄って、武器を包むゴザを結んでいたロープを手に取ったエミリアからそれを渡されたローゼは、端っこを持ってブンブン回すと、狙いを定めてムチのように打ち付ける。
 足に巻きつけて足止め程度は出来るか、と思って投げただけなのに、一体どうしたことだろうか。ロープはぐるぐると佐間之介の体に巻きついていく。まるで生きているよう。
 「わっわっ、わわ~っ」
 巻かれる佐間之介は浮いているようだ。そして言った説明台詞。
 「これは、悪の魔導士によってアルドラン城に囚われた姫君を、三年前に救ったと伝わる伝説のロープ‼」
 見る見るうちにす巻きにされた佐間之介は、抵抗することもままならずにがんじがらめにされて、ゆっくりと重力を無視するかのようなバウンドを繰り返しながら、ローゼの元まで引き寄せられてきた。
 「はーん(泣)」
 少しの間、ローゼとエミリアは、その面白い光景を眺めては、少しロープをしならせて佐間之介をバウンドさせて遊んだ。
 「どうなっているのかしら」ローゼが玉の下を覗き込む。「中途半端に浮き上がるのよね」
 エミリア「三年前って言ったら伝説でもなんでもないですね」
 確かにそうだ。でもこれは本物らしい。
 「まさか、このような使い道があったとはっっ‼」と気がつけなかったことを後悔する佐間之介。
 これが一番まともだったな、と呆れながら、ローゼは通商手形のことを問いただす。
 「そんなもの、拙者は持ってはおらぬ」
 だが、今まで会った牙たちの中で、一番持っていそうなやつである。なんせ変な武器を買いあさっているのだから、方々で売っていてもおかしくない。現に旅人から奪った武器は一つもない。
 「奪った武器?」と佐間之介。「拙者は旅人から武器など奪ってはおらぬ」
 「ええ? でもみんな武器盗られたって言ってるわよ」とローゼが訊き返す。
 「そもそも戦っておらぬ。伝説の武器の前では、生半可な武人など戦意喪失だ。今まで拙者と剣を合わせられたものなど、此の地にはおらぬのだ」
 まあ変な呪いの言葉聞かされるもんね。
 話を聞く限りでは、たぶん旅人の中の誰か(若しくは複数人)が拾って持って帰ったのだろう。
 此の地とかって言ってるけど、彼の地にもいないんじゃない? 察するとコイツ今日がデビュー戦。だって、素人なのひた隠しにする佐間之介ちゃんの記憶では、やってる剣道だって通信教育エア剣道。実は部屋の天井の都合で、付属の竹刀は振るえていない。なんちゃって侍かよ。
 ローゼたちは、住処を明かさない佐間之介を連れて、辺りを捜索してみることにした。
 「あ、エミリア、あれ見て」
 そう言ってローゼが向かう先に、エミリアが先に駆けていってしゃがみ込む。そして何かを読むように言った。
 「真野――佐間之介」
 表札だろうか。ローゼが地面に挿し立てられた木の札を見ると、筆字でそう書いてある。その後ろにはテントがあった。テントと言っても、キャンプで使うようなものではない。ましてや軍が野営で使ったり、王侯貴族が野外でパーティをするために使うようなものでもない。ムシロを張っただけのテントである。
 前後に、そこら辺に落ちていそうな、樹皮を剥いだだけの木の棒を立てて横に細木を渡し、ムシロを被せて隅を地面に打ち付けただけのみすぼらしいテント。さっきの股割れ棒と竹槍使った方が良かったんじゃないの? なんか素人が編んだような穴だらけのムシロで小汚い。
 「まさか……、これ…家じゃないわよね??」とローゼが訊く。
 「家で悪いか。拙者は剣に生きる者。住処などにはこだわらぬ」
 「あれじゃないですか? 武器にお金かけすぎて、お家建てられなかったんですよ」
 エミリアにそう言われて、何も答えない佐間之介。こうべを垂らして黙秘をかます。
 図星か?
 佐間之介「ムシロではござらぬ。ゴザでござる」
 どっちでもいいよ。いや、むしろムシロですよ。何の草で編んでんだよ。分かんないよ。
 通商手形を探すまでもない。一間しかない家だし、収納0。
 雨足が強くなってきた。木肌を流れる水も滝の様だ。陽が暮れてきたから、今から村に帰ったのでは、真夜中になってしまうだろう。ローゼたちは、仕方なくゴザ屋敷(?)に一泊することにした。
 夏とはいえ、陽が暮れると外はとても寒い。しかもムシロ(当人曰くゴザ)一枚の天井は当然雨漏りがひどい。
 「はっ…はっ…はっくしょ~ん」(ロ)「はくしょん」(エ)「はっくしょーん」(佐)
 びしょ濡れのローゼたちは、ガタガタ震えながら3人並んで体育座りで一晩を明かすはめになったとさ。う~ひもじい。



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