DEVIL FANGS

緒方宗谷

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第百一話 輝く青春の日々

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 「ま、まあ、せっかくアップルパイ焼いてくれたんだし、冷める前に食べましょうよ」とローゼが言った。
 「は? フランチェスカ何か言った?」とクリスティーナが言う。
 「いいえ、あたしは何も」
 「なんか耳障りな声が聞こえたけれど、マジパンを食べたいわたしに対する意見なのかしら」
 どこにもマジパンないんですけど。
 すると驚いた様子で、信じられない、と言いたげにかぶりを振るバニーばばあが答える。
 「まさか、クリスティーナ様に意見するものなど居りますまい」
 「イテッ」とローゼが叫ぶ。今正にヒールで生太もも踏んづけられてグリグリされてる。
 「誰の声? まさかわたしに何か言いたい気かしら?」とクリスティーナが見渡すと、アリアス以外みんな目を合わせないように下を向いて、なんとかやり過ごそうと必死も必死。
 今声出したらもう立場ないよ、と察して我慢するローゼ涙目。
 「そう言えば、姉さん」
 とアリアスが口を開いた。
 「ソストラトス、オリオンの行方――まだ分からずじまいです」
 聞いていると、アリアスの親友たちが行方知れずのようだった。しかも何年も昔に。
 アリアスは、彼らがどんな友達だったのかをみんなに語り出した。
 「僕には幼馴染みで親友がいました。ソストラトス、オリオン、ボアネジェス、イオエルの四人です。
  みんな姉さんに心を奪われていて、僕と遊ぶのを口実に毎日姉さんに会いに来ていたんですよ。クリス様親衛隊って呼ばれていました」
 でも回想シーンにローゼは疑問。サノス家、とてもじゃないけど上流貴族の服装ではない。貧乏な男爵家にしか見えない。いやそれ以下、騎士家(ナイト)か? だがその疑問すぐに解消。話の内容に一同(ローゼ、エミリア、カトワーズ)は戦慄を覚えた。
 アリアスが語る。
 「楽しい日々でした。でも、ソストラトスが何を思ったのか家のお金を使い込んでしまったのです。それからが悲劇の始まりでした。父君と言い争いになったソストラトスは、思わず父親を刺してしまったのです」
 続けて聞いていると、一人っ子のソストラトスは相続人から外れてしまって、親戚が後を継いだらしい。だが、首都の屋敷にも領地のお城にもめぼしい財産は無かったという。相続税を払わないといけないから、結局得たばかりの領地を売り叩いてしまったというから、金品がなかったのは間違いないだろう。
 「それだけではありません。連鎖反応を起こすように悲劇は続きました。ボアネジェスの両親が謎の失踪をして変死体で見つかりました」
 ボアネジェスは悲しみのあまり自殺。相続人はいなかったが、クリスティーナと婚約していたことが発覚して、王の計らいで彼の財産をクリスティーナが相続した。でも婚約してた素振り、回想シーンには全くない。
 普通国庫(王の懐)に入らないだろうか。どんな干渉があってそうなったのかは恐ろしくて考えたくない。
 「それからも悲劇は続きました。今度はオリオンの父君が隠れてイオエルの母君と不倫していたことが明るみなって、両家とも離婚です。なのになぜか別れた母君とイオエルの父君は相手からの慰謝料の受け取りを拒否したのです。受け取って少しでも賠償してもらえばいいのに――。それどころか、オリオンの母君に至っては失踪してしまったのです。そして、妻や不倫相手とのみだらな密会現場の念写紙が出回って立場を失ったオリオンの父君は、首を吊って果てしまいました」
 オリオン自身も学校に居づらくなって転校を余儀なくされたらしい。だが、転校先でもなぜか既に噂が広まっており、いじめられて、その後失踪。可愛そうなのは、一人残されたオリオンの祖父。もう年だったから一気に弱っていってしまった。
 「でも、そこは優しい姉さん。弟のように可愛がっていたオリオンのお爺様でしたから、姉さんが毎日通ってお世話をしてあげたのです。
  ですが、一度に家族をみんな失った悲しみは癒されることはなく、ほどなくしてお爺様もなくなりました。親戚がいたのですがなぜか連絡が取れず、早々に王が対処内容を発布しました。
  おふれには『トルイ領 公爵アトラス・ステファノプロス 相続人がいないため財産は王により召し上げる ただし、トルイ公爵が最期を迎えた居館とそこにある物は全てクリスティーナ・サノスに相続させる』と書いてありました。
  当然ですよね。晩年を介護して看取ってあげたんですから」
 それにしても死ぬの早すぎない? 普通財産目当ての殺人疑われるのでは?
 「イオエルは自暴自棄になっていたのですが、姉さんの必死の説得で改心して、姉さんと一緒に慈善活動に従事しました。ですが、彼の父君もまた売春婦に溺れていたらしいのです。それが発覚すると、父君は腹を短剣で突き刺して自害なされました。そして間もなくしてイオエルも自殺してしまったのです。置手紙を残して――。
 置手紙にはこう書いてありました。

 『国王陛下
  度重なる我が家の不始末、いくらお詫び申し上げましてもし切れるものではございません。
  母と父の不貞な行動ばかりではなく、安易に自害して陛下の顔に泥を塗るなど言語道断、名門の名に恥じ入るばかりでございます。
  つきましては、爵位と領地をご返上奉ります。
  願わくば、サノス家ご令嬢クリスティーナ姫に動産を贈与させていただきたく、お願い申し上げます。
  クリスティーナ姫は傷ついた我が心を癒し、正道に導いてくれたお方。その恩返しがしたいのです。
  彼女なら、きっと素晴らしい慈善活動に臣の財産を使用してくれることでしょう』」
 ペトラキオアス王は、その手紙を一瞥してすぐに承諾。領地の城にあった財宝は王の元に納められたが、首都にあった動産は全てクリスティーナに与えられた。
 これまでの回想シーンの間に、どんどん豪華になっていくクリスティーナの日常ドレス。もうほとんど、王家の晩さん会に着ていくドレス並。すごいサクセスストーリー。でも苦労した感全然なし。よく見ると、今日のドレスも一級品、輝くばかりのシルクタフタ。
 「それより、みなさん」としんみりした空気を引き裂くように、クリスティーナが明るい声をかけた。
 「なぜ皆さんはおしり拭きで身を包んでいるのですか?」
 どーいうこと?
 「クリスティーナ様、これも立派なお洋服ですじゃ」とバニーばばあが教えてあげた。
 「まあ、シルク以外で洋服ができて?」と素っ頓狂な声をあげる。「全身汚れているのかと思いましたわ」
 やめて、変な奴がワープしてくるから。
 「大丈夫よ」とクリスティーナ。
 「ひょっひょっひょっ」不敵に笑うバニーばばあ「今頃切り結んでいるころですじゃ」
 誰と誰が? 一人は分かるけど、相手は不明。誰も思いつかず、話は終わった。




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