EVER FOURTEEN

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始まりと信号女

プロローグ【2】(という名のキャラクター紹介)

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次に目が覚めると、相良は夜空の下で仰向けに寝ていた。
まだ頭痛から解放されず、起きようという気力はそこまで起きなかったが、ここが何処なのか確認するため、どうにか起き上がって周りを見渡す。
そこは小さな頃、よく遊びに来ていた公園だった。
相良の家からは徒歩5分もかからず来る事ができる。
「古賀東公園」という名前なのだが、公園の真ん中に、大きな可愛らしいサメの遊具がある事から、近所の人たちはこの公園を「サメ公園」という愛称で呼んでいる。
「懐かしいな…」
相良の小麦色の肌と短い黒髪が、涼しい風にさらされ、プルプルッと身震いする。
サメの遊具の辺りを見てみると、同じように仰向けで倒れている人が数名見え、「…嘘だろ」と思わず呟く。
なぜこんな反応なのかといえば、そこにいる殆どは相良の同級生で、全く話したこともない人ばかりだったからだ。
それも、かなりの人数。
数えると8人、自分以外に人がいる事がわかった。
その中に1人だけ、安心を覚える顔があった。
眠っているその顔は、まるで人形のようで、いつもは結ばれたように小さな唇が、今は半開きになって静かに寝息を立てていた。
おでこにかかっている長い髪を、相良は慎重にどかしてやる。
相良の幼馴染みの女子、虹川 美鈴にじがわ みれいだ。
母親同士がとても仲が良く、小さな頃は会わない日がなかった程、一緒に遊んでいた。
中学に上がってから、また一層可愛くなった気がする。
小学生の頃から男子に人気だったが、中学生になってからはまた更に人気が上がり、先輩の何人かも美鈴を狙っているようだった。
クラスで人気者の彼女だが、昔と変わらず、相良と仲良くしてくれている。
美鈴の寝ているところをウロウロしていると、美鈴が小さく「うぅ…」と言って起きた。
まん丸の大きな瞳が、相良をジッと見つめる。
「あれ…相良くん…どうしてここに…?」
相変わらず、可憐で繊細な声だ。
「いや…分からない。信じられないかもしれないけど、気がついたらここに…」
彼女が起きてくれた事で安堵し、相良は落ち着いた様子で返した。
2人の声を聴いてか、他に寝ていた数名も、次々と起き始める。
みんな何故自分がここに居るのか、全く分からないという表情で、互いを見つめていた。
「ねぇ、なんなのこれ。なんで私たちここに居るの」
栗色の長い髪を融かしながら、薄い生地のミルク色のパジャマを着た少女が、クールな眼差しで話しかけてくる。
「みんな、自分がなんでここに居るのか分からないのか…」
「だからそう言ってんじゃん」
「ご、ごめん…」
これだからこういう女子は苦手だ。言葉にトゲがある。
彼女の名前は小鳥遊 麗たかなし うらら
全国でも3番以内に入るほどの学力を持つ秀才で、学校の期末、中間テストでは殆ど満点を取っている。
サバサバした正直な性格からクラスでは人気者だ。
結衣ゆい、あんた大丈夫なの?そんな軽装で外に出て」
「だって部屋にいて次起きたらココにいたんだもん。しょうがないじゃん」
麗が横にいる小柄な少女に話しかける。
『結衣』という名前を聞いて、相良は驚愕した。
先ほど倒れていた8人を見ていて、彼女だけ全く見覚えがなかったからだ。
長い黒髪の中に隠れていたのは、色白な肌で、薄茶色の大きな目が特徴的な、誰もが振り返るような美少女だった。
白T1枚に短パンとシンプルな格好が、何だかとても高貴な物に見える。
こいつが、あの朝比奈 結衣あさひな ゆいだったなんて…
彼女は古賀中一の変わり者と言われている。
いつも大きなメガネをかけ、制服の上にはオーバーサイズのパーカーを着ており、フードを深く被っている。
そんな彼女のあだ名は、風貌から安直につけられた『厨二病』。しかし、まさかこんな素顔をしていたとは。
「この中の誰かがここに連れて来たの?やめてよ気持ち悪い」
麗は結衣を庇うようにして、相良を睨みつける。
『この中の誰か』とか言いながら、犯人を相良だと断定しているようだった。
「それは考えにくいだろ。この中の誰かに、ばかりを連れ去る度胸のある奴は…居ないように見えるぜ。そんな事すれば、学校で社会的に死ぬ事請け合いだからな。」
嫌味ったらしく腕を組んで、結衣より少し背が高いぐらいの華奢な少年が、麗に言った。
黒髪のマッシュヘアで、切れ長の瞳に高い鼻、薄い唇。
万人受けこそしなさそうだが、妖しい魅力を持つ顔だ。
全身黒のスウェットを着ていて、歯磨き中だったのか口元に歯磨き粉が付いている。
彼の名前は弥生 郁実やよい いくみ
大人しそうな見た目に反して、皮肉屋で口が悪いと評判の少年だ。
しかし世渡り上手で器用なため、先生からは好かれている。
これも相良の嫌いなタイプ。必死に頑張ってる奴よりも、楽に上の立場に行ける人間だと思っているからだ。
彼は続けて
「おい、大和やまと、いつまで眠そうにしてやがんだよ!ったくお前は本当に寝起きが悪りィな!」
と、大柄な坊主頭の少年の背中どドンと叩く。
「いってえ!!!ごめんごめん。今日野球部の方に行ってたから、だいぶ疲れたんだよ」
だいぶ鈍い音が鳴ったにも関わらず、少年は平気そうに郁実に平謝りした。
黒目の少ないくりっとした目に、短い眉。口は常に笑っていて、とても大きい。
背が高く筋肉質だが、威圧感を全く感じない、愛嬌のある顔立ち。
学校ジャージを着ていたが、暑かったのか上を脱いで腰に巻いている。
彼の名前は大海原 大和わたのはら やまと
運動神経抜群で、いろんな部活動に助っ人として参加している。
引くほどポジティブで、いわばクラスの頼れるムードメーカー的存在。
「こん中の奴とは考えにくいとしたら、ええっと…つまりはどういう事だ???」
この発言から分かる通り、大和は少し、他の人よりも頭が悪い。
「俺たちのほかに、どっかでこの状況をほくそ笑んで見てる奴がいるって事だろ」
郁実がため息混じりに応える。どうやらこの二人は仲が良いようだ。
「だとするなら、ここに長くいるのは良く無いんじゃないかな。私たち中学生だし、こんな夜中に出歩いて、近所の人に見つかったら大変じゃない?一旦帰って、明日先生方に言うのが一番得策だと思うんだけど」
ショートカットの背の高い少女が、Tシャツについた砂を払いながら言った。
キリッとした力のある瞳に、整った太い眉。
そこらへんの男子と変わらないくらいの身長で、脚も長くかっこいい。
「あそこの先公に言っても、信じてもらえなさそうだけど。まぁ警察に言ったって、悪戯で済まされるだろうし、それが妥当だよね」
麗が親しげに少女に話しかける。
この少女は早乙女 秋翔さおとめ あきと
通称古賀中の王子。そして女子バスケ部のエースだ。
文武両道で紳士的な振る舞いから、女子から絶大な支持を受けている。
「七瀬君とルーカス君、大丈夫?なんかめっちゃ痛そうな顔してるけど」
「いやぁ~…洗濯物取り込んでたら急に眠くなっちゃって…思いっきり尻餅ついちゃってさ」
「私も、書斎で棚にぶつかってしまって、本が頭に…こーいうのを『一石二鳥』というのデスカ?」
洗濯物で尻餅をついたのは金扇 七瀬かなおぎ ななせ
母子家庭の長男で、いつも帰りの会が終わると、一目散に教室から飛び出していく男子だ。
噂ではいろんな店で手伝いをしていて、いつも夜遅くに帰ってきて家事もこなすらしい。
髪はいつもボサボサで、本人の人柄を表すように、垂れ目、タレ眉の優しい顔をしている。
学校のジャージを着ていたのだが、誰かからのお下がりなのか、胸元の名前が刺繍される部分に、白い布が縫われ「かなおぎ」とマジックペンでデカデカと書いてあった。
四字熟語を間違えたのは、ルーカス・ジョルディ。
アイルランド人と日本人のハーフで、日本に来てまだそんなに日が経っていない。
眩しいほどの金髪、痛みで潤んでいる青く綺麗な瞳。彫刻のような容姿で、白いワイシャツに黒いジーパン姿が、とても様になる。
一時期は女子に人気だったようだが、間違った日本語を使いまくってしまったせいで、今ではもうすっかり女子が寄り付かないらしい。
噂では、ぽっちゃり体型が気になる女子から相談を受け、そのままでも可愛いという意味で「豚に真珠」と言ったところ、強烈なビンタを喰らったそうだ。
2人を見て空気に緩みが生じたところで、郁実がまた嫌味っぽく、まるで相良達以外の何者かに語りかけるように言った。
「そろそろ出てきてもいいんじゃねえのかぁ?こんだけ駄弁ってる俺たちをどこからのんびり見てやがる」
確かに、郁実の言うとおりだ。
ここまで呑気に喋っているのに、犯人?らしき人物はいつまで経っても現れない。
「おーーーーーーーい!!!!」
大きく息を吸った音が聴こえたかと思うと、大和がいきなり大声を出す。どうやら犯人に返事をして欲しいようだ。
そこにいる全員がそのうるささに耳を塞ぎ、迷惑そうに大和を見る。
「うるっさいなぁ、通報でもされたらどうするんだよ」
麗が不機嫌そうな顔で大和に詰め寄る。
「だってもしかしたら出てくるかもしれないだろ?」
「それよりうちらが補導される方が早いと思うけどね」
冷たくそう言い放ち、麗はフイッと公園の入り口を見た。
そして、小さく「なにあれ…」と呟いた。
みんなはその言葉のあと、恐る恐る入り口を見る。
そこには、黒いローブを着て、フードを深くかぶった、謎の人物が立っていた。
「(こいつが…犯人…?)」
相楽は背筋に寒気を感じ、いざという時美鈴だけでも守れるようにと、拳に力を入れた。
「そこにいる小娘の言うとおりだ。貴様の出した大声で人が集まっては困る。少し黙っていろ」
ゆったりとした声色で、犯人(?)から発せられたその言葉に、大和は息を呑んだ。
犯人(?)は、ローブの袖から手を出すと、そこに小さな竜巻を発生させた。
銀色に光るその竜巻の中は、泥だらけのガラクタでいっぱいだった。
しかしその小汚いガラクタたちは、竜巻の中で徐々に綺麗に磨かれ、色がついていく。
やがて一つ一つに命が宿ったように、竜巻から飛び出し、犯人(?)の前に並んだ。

余りにも奇怪な光景を見て、そこに居た全員が、今自分は『非日常』の世界に、片足を突っ込んでしまったのだと確信を得た。



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