生贄の巫女は祈りを捧げる~輝国禍乱編~

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忍び寄る影3

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「祈様、急で申し訳ございませんが午後から祈祷をお願いしてもよろしいでしょうか?」

そんなことを言われたのはこの国に来て2か月が経とうとしている時だった。

自分がここに来た時よりも葉の色が青々としたものが多く日差しも強くなってきており、季節は夏を告げていた。

守国では夏だがここでの暦は暁(あかつき)と言うらしい。輝国にも守国と同じように春夏秋冬があるらしいが暦はそれよりも多く存在すると諭按さんが教えてくれた。

そんな暁に入った時、李桜さんに素敵な笑顔で頼まれ事をしてしまったのだ。

「急ですね。別に構いませんが内容はどういったものですか?」

「そんなに難しくありませんよ。国神へのご挨拶も兼ねて供物を捧げようかと思いまして」

「・・・それは結構な大仕事では?」

「いえ、ただの祈祷ですよ?」

李桜さんは”ただの祈祷”と言ったがそんなわけない。

祈祷とはもとより神より加護を受けるために行うもの。挨拶とはいえそれをこんな急に行うなんて・・・。

「何かお考えがあるのですか?」

「・・・近頃官僚達が祈様の力が本物か見極めさせろとうるさいので。ここまでは話をそらし続けてきたのですがそろそろ面倒くさ・・・祈様の素晴らしさを実際に見ていただいて全員黙らせようかと思いまして」

素敵な笑顔の後ろから何か感じるが見なかったことにしよう。

「祈祷の方法に関して要望等はありますか?輝国のやり方があるのでしたら従いますが」

「いえ、輝国には祈祷の作法はありませんので祈様にお任せします。何か用意するものがありましたら鈴麗にお伝えください」

「分かりました。場所はどちらで行うのですか?」

「別棟の祭祀場さいしじょうです。そこに国神が祀られています。広さは普段祈様が練習されている舞踏場と同じくらいですね」

「分かりました」

「では、よろしくお願いいたしますね」

そう言って李桜さんはまたにこやかな笑みを浮かべながら部屋を出て行った。

輝国に来て初めての巫女としての仕事。それも国神に対してだなんて・・・。

少し緊張もするがやはりよそ者だからなのか能力を疑われているようなので、ここは巫女としての力を発揮するいい機会かもしれない。

そうと決まれば!

私は急いで守国より持ってきた道具たちを確認する。

服に鈴に扇、必要なものは一通りそろってる。

あとは・・・。

「鈴麗!」

「はい、ここに」

「申し訳ないけど、準備を手伝ってもらえる?」

「承知いたしました」




午後。

祭祀場には多くの官僚と四席、そして国王が集まっていた。

「祈祷って見るの初めてだからすっごく楽しみ!」

「霞蝶、はしゃぎすぎるとまた諭按さんに怒られるよ」

祭祀場の扉を入って右側に国王と四席は席が設けられている。

真ん中に国王の席を置いて両隣には東席・南席、その横に西席・北席と並んでいる。

今はまだ祈祷の前なので各々自由に過ごしているが、霞蝶は南席、慈影は北席の席に座って談笑していた。

「そう言う慈影は楽しみじゃないの?」

「え~楽しみに決まってるでしょ。巫女の祈祷なんてめったにお目にかかれるものじゃないしね」

「だよね~。祈祷なんて面倒くさいって思ってたけどちょっとだけ官僚達に感謝かな」

「全然、感謝なんかしてないくせに。ほら、見なよ。めちゃくちゃ睨まれてるよ俺達」

慈影に促され自分達の席の反対側にある官僚席の一部の官僚達から鋭い視線を向けられていることに気づいた。

「なにあれ?」

「さぁ?暇なんじゃない」

「言いたいことがあるなら言ってくればいいのに。ちょっとこっちから出向いて・・・」

「やめなさい」

少し話をしようと席を立とうとした時、肩を掴まれもう一度席に座らせる。上を見上げると蒼玉が霞蝶の肩を掴んで押さえているのが分かった。

「え~蒼玉なんで止めるの~?」

「そんなことしたって無駄なんだから。それよりも早く自分の席に座ったら?始まるらしいわよ」

「もうそんな時間?祈ちゃんの準備は終わったんだ」

「ええ。あんた達が無駄話している間にね」

蒼玉はそう言って自分の席に座る。

先程まで蒼玉は祈の準備を手伝っていたためやっと自分の席に来れたようだった。

「俺達にも仕事を振ってくれたら手伝ったのに」

「そーだ!そーだ!」

「何だ?今日も騒がしいな」

2人の騒がしさに気づいたのか祈祷の準備も終わった光焔と李桜も席にやって来た。

「霞蝶、自分の席に座りなさい」

「は~い」

「まったく・・・」

四席が全員着席したところで光焔が手を叩く。

先程まで談笑していた官僚達が一瞬にして静かになったの確認して光焔は話し出す。

「皆の者、よく集まってくれた。急で申し訳ないがこれより巫女殿のお披露目も兼ねて祈祷を行う。諭按、あとは任せた」

「承知いたしました」

光焔から引き継ぐ形で諭按が進行をしていく。

まず、官僚達によって耀王の前に供物が運び込まれる。

耀王と言っても目の前には人よりはるかに大きな耀王を模した銅像が置かれているだけだ。

その前に机が用意してあり、官僚達が持ってきた供物を後ろをついてきた侍女達が丁寧に並べていく。

それらすべてが終わりここからようやく祈祷が始まる。



扉の前で深呼吸をしながらその時を待つ。

「祈様、そろそろです」

近くで控えていた鈴麗は神楽鈴と扇を渡してくる。

「ありがとう」

「これより祈祷に移ります」

諭按さんの声が聞こえたと同時に扉が開く。

中にいる人たちの視線が一瞬にしてこちらに集中する。

もう一度深呼吸をし中に入っていく。

一歩一歩静かに丁寧に歩きながら祭祀場の中央を目指す。

中央に着くとその場で座り、鈴と扇自分の膝の前に置き諭按さんに視線を送る。

すると諭按さんは頷き楽器奏者達に合図を送る。

準備に追われ事前の合わせは一度きり。

音楽の心配をしていたが、何かの時の為にと守国より祈祷用の楽譜を持ってきていたのが功を奏し、演奏者達とのやり取りは円滑に行われた。

笛の音色に合わせ扇を手に取り優しく開いていく。

風のように、波のように自然を現したように扇を手で回していく。

「・・・・・・」

全員が息を呑んで見入っているように見えるが今はそれを気にしている場合ではない。

舞をしている一方で意識は耀王に集中させる。

”初めまして。守国より参りました、神崎祈と申します。”

”先日、夢でお会いした時はご挨拶もできず申し訳ございません。”

”これから輝国の巫女として精一杯務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。”

"チャリン"

その時、どこからか鈴の音が聞こえてきた。

踊りながら一瞬自分の鈴を見るが最初に置いた時のままになっている。

もしかして・・・。

耀王の銅像に目を向けるとどこか暖かな色が見えてくる。

あれは・・・?

扇の舞が終わり、次は鈴に持ち変える。

チャリン。

”チャリン”

こちらが鈴を鳴らすとそれに応えるかのように銅像から鈴の音が聞こえる。

”耀王、あなたの声は聞こえませんがそこにいらっしゃるのですね。”

”お会いできて嬉しいです。”

チャリン。

チャリン。

チャリン。

鈴を鳴らしながら元の場所に座り静かに最初と同じように鈴を置き、床に手をついて耀王にお辞儀する。

静寂に包まれる中どこからか拍手が聞こえてきた。

すると最初の拍手を皮切りにどんどん波のように伝染していき大きな拍手となる。

「巫女殿、見事な舞だった」

拍手の中でも通る声で国王様よりお褒めの言葉をいただく。

「ありがとうございます」

国王様の方に向き直りこちらにも手をついてお辞儀をする。この後も、催しは続くので近くに置いてある扇と鈴を持ち扉に向けて進んでいく。

扉まで近づくと衛兵が開けてくれ鈴麗が安堵の笑みを浮かべながら待ち構えていてくれた。

「祈様、大変素晴らしかったです」

「ありがとう。ちゃんとできてたかな?」

「はい!侍女である私が保証いたします!」

「それなら良かった」

安心したのか少しよろけてしまうがすぐ横の壁に寄りかかりなんとか体制を持ちこたえる。

やっぱり祈祷一つでも神経は削られるし、何より異国の地で踊るなんて初めてだから余計に疲れた。

今更ながら手の震えを感じ少し笑えてくる。

少し休むため祈祷に使った道具を鈴麗に預け一足先に自室に戻る。





「見たか李桜」

「はい」

2人は舞の最中の出来事を思い出す。

「巫女殿が踊っている最中、微かだが耀王の銅像が光っているように見えた」

「私もです。他の者に見えていたかどうかは分かりませんが」

全員が気付いているわけではなさそうだったが確かに耀王の銅像が光るのを確認した。

「少なくとも、前国王の代からいる官僚達には見えているんじゃないか?あの時代は祈祷も頻繁に行われていたようだしな」

「そうでしょうね。あの顔を見れば・・・」

そう言ってある一部の官僚達に目を向ける。

そこには待ち望んでいた獲物を見つけた獣のように眼光が鋭くなっている者達が見えた。

「慈影」

「分かってるよ」

李桜の呼びかけに慈影は席を立ちながら手を振り祭祀場から出ていく。

「これに引っかかってくれればよいのですが」

「かかるさ。今は喉から手が出るほど欲しい人材だろうからな」

「そうですね。では、祈様の警護を増やしますか?」

「いや、このままでいく」

せっかくここまで来たんだ。むこうには罠にかかってもらわないといけないからな。
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