生贄の巫女は祈りを捧げる~輝国禍乱編~

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忍び寄る影4

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「ふぅ、暇ね・・・」

昨日、祈祷をした後自室に戻り着替えを済ませたところまでは覚えているがその後は眠ってしまったのか気が付けば朝になっていた。

服や祈祷道具たちは軽く片付けたと思っていたが少し確認をすると元々あった場所に収められていたので鈴麗が残りの片付けをしてくれたのだろう。

あとで改めてお礼を言っておこう。

まさか、祈祷1つで翌日まで眠ってしまうなんて・・・。幼い頃は祈祷1つ終わるたびに疲れてよく眠ってしまっていたが成長するにつれそんなことはなかったのに・・・やはり異国の地ということもあり緊張していたのだと改めて感じた。

そんな昨日の様子を見かねてかいつも通り勉強をしに行こうと準備をしていると諭按さんが部屋にやって来て、今日は1日休みにすると言ってくれ途端に暇になってしまった。

何をするか考えるのにお茶を飲んでいたが一人で飲んでも暇なことには変わりない。鈴麗でも誘おうかと考えもしたが先程から忙しそうにしているので引き留めるのも申し訳なくなりどうするか悩んでいると突然誰かが部屋の扉を叩いた。

「はい、どなたですか?」

「巫女殿、オレだ。今、時間は大丈夫だろうか」

「はい、大丈夫です!」

声の主が国王様と分かり急いで扉を開ける。

「何かご用でしょうか?」

「いや、まずは礼をと思ってな。昨日は急な申し出にもかかわらず祈祷を引き受けてもらって助かった。ありがとう」

「いえ、巫女としての仕事をしたまでですから」

「以前にも少し見させてもらったがやはり祈祷ともなると舞の迫力が違ったな。素晴らしいものだった」

「お褒めいただき光栄です」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

何か用があるのかと思い国王様の次の言葉を待ってみたがなかなか出てきそうにない。

「あの、何かご用があったのでは?」

「いや、これと言った用はないのだが・・・先程、諭按に今日の勉強はなくなったと聞いてな。それなら前々から巫女殿に守国の事について聞いてみたいと思っていたのだが時間はあるだろうか?」

頭の後ろを掻きながら照れくさそうに言う国王様は昨日の国を率いる人とは打って変わって、楽しみにしていたものに目を輝かせている子供のように見える。

「もちろんです、どうぞお入りください」

「すまない、失礼する」

国王様を招き入れ、客人用の椅子に座るよう促す。その間に先程まで飲んでいたお茶は下げ新しいものを用意する。
どのお茶を出そうか迷ったが国王様の好みもあるだろうと考え、ここは無難に菊花さんに貰ったお茶を出すことにして準備をする。

「どうぞ。お熱いのでお気を付けください」

「ああ、ありがとう」

淹れたばかりの湯呑を国王様の前に置くとゆっくり湯呑を持ち上げお茶を一口飲んだかと思ったら国王様はおもむろに話し出す。

「さて、巫女殿何から話そうか」

「どんなことでも構いませんよ。言える範囲であれば」

「そうだな・・・守国はどのような国なのだ?」

「そうですね・・・」

そこから守国の成り立ちや主な生計の立て方、他国との関わりなどについて話した。

私の知っていることには限りがあるけど・・・。

しかし、どの話をしても国王様は目を輝かせながら聞いてくれるのでこちらも話がいがありついつい多く語りすぎてしまう。

「すみません、次から次に・・・」

「いや、興味深い!文献だけでは分からないことばかりだからな。実際の話が聞けてとても満足だ」

「それはなによりです」

「そうだ。次は巫女殿の話を聞かせてくれないか?」

「私の、ですか?」

先程までと同じように興味津々と言った顔でこちらを見てくる様子に少したじろいでしまう。

「ああ、ここに来て巫女殿と話すことはあっても巫女殿自身については聞いたことがないからな」

「あまり面白くありませんよ?」

「それは聞いてみなければ分からんな」

私の話なんて面白くないと思うけどな。

さあ、聞かせてくれ!と言わんばかりの目でこちらを見つめられては渋るわけにもいかず口を開く。

「私は守国の現国王、神崎衛山の2番目の娘として生まれました。幼い頃から立派な巫女になる為、厳しい修行に耐えてきました」

「嫌になった事はないのか?」

「ありますよ。幼い頃ですが何もかも嫌になった事があります」

山での孤独な修行から滝行、書道や舞の練習・・・巫女たるものある程度の教養と忍耐力が必要でありなおかつ私は国王の娘。修行も他の者達の比でないくらい厳しかった。

「でも、ある日母に言われたんです」

それは私が7つの頃。

修行が嫌で逃げ出し、部屋で隠れて泣いていた時の事。

「母が部屋にやって来てそっと私の隣に座って来たんです。最初は逃げ出したことを聞きつけて連れ戻そうとしているのだと思いました。でも、母は怒る様子もなく私の頭をなでながら微笑んでいました」

”祈、未来の自分の為に頑張りなさい”

”未来の自分のため?”

”そうよ。大きくなって立派な巫女になった時、巫女になって良かったと胸を張れるように努力なさい。そうすれば結果なんて後々ついてくるものよ”

「母のこの言葉は今も私の心の中に強く残っています」

幼い私には未来の事なんて正直分からなかったけど、何か目標を持てってことだと思って前を向くことに決めた。

「母の言葉もあり、それから修行を休んだことは一度もありません。あの頃凄く嫌だった巫女という仕事は今では私の誇りであり、なくてはならないものになりました」

巫女の仕事をしていて初めて”ありがとう”と言われた日の事は今でも覚えている。

私の力で少しでも人の役に立てるなら巫女としてこれからも頑張っていこうと思える。

「母上の言っていたことは間違っていなかったという事だな」

「はい。母は尊敬する師でもありますから」

「巫女殿が羨ましい」

「えっ?」

先程まで目を合わせて話していたと思っていた国王様の視線がどこか遠くを見るように窓の外に向けられている。

「国王様?」

「母上とそのような関係が築けているなんて」

「あの、失礼ですが国王様のお母様・・・それに前国王は今どちらに?」

輝国に来てから一度も前国王様も皇后さまもお見かけしていない。

国王様が光焔様なのだから大体の挨拶ややり取りは国王様とするがそれでも、皇族・・・ましてや前国王夫妻にご挨拶していない状況は同盟国の者として見過ごすわけにはいかない。

「母とはもう何年も会っていない。最後に会ったのは王位継承の時だったか・・・今は、仕事で他国にいてな。数年前、父もオレに王位を譲り母のところに行ってしまった。何度か会いに行こうかと考えもしたが、なにぶん国王としての仕事が忙しくてな!」

はっはっはっ!と笑ってはいるがどこか寂しそうにも見える。

「ん?茶がなくなったか」

「新しいものを入れてまいります」

「ああ、すまない」

流れを変えるためにも新しいお茶を入れようと急いで部屋を出る。

これ以上ご両親の話は聞かない方がよさそうね。あの感じだと、今の私にはきっと多くは語ってくれそうにないな。

少し打ち解けたからと言って深入りしすぎたと反省しながらすぐ隣の給湯室へと向かいお茶の準備にとりかかる。

国王様はどんなお茶が好みかな?

菊花さんから貰ったお茶はさっきので最後だから・・・私の好みで選んでいいよね。

鈴麗が用意してくれている茶葉の入れ物とは別に置いてある守国から持ってきた茶葉の入れ物を取り出す。

気に入ってくださるといいな。

そう思いながら丁寧にお茶を作っていく。

「祈様!お茶でしたら私が作ります!」

お茶を作っていると先程まで忙しそうにしていた鈴麗が走ってやって来た。

「このくらい大丈夫よ。あ、そうだ。何かお茶請けはある?」

「お茶請けでございますか?確かここに・・・」

鈴麗は近くの戸棚から生菓子を出してきた。

「こちらなんていかがでしょう?」

「美味しそう!ありがとう。それじゃあ、鈴麗はお茶請けの準備をしてもらってもいい?」

「承知いたしました」

お茶請けを鈴麗に任せ、こちらは新しい茶器の準備えお始める。

「祈様、こちらに準備いたしました」

「ありがとう」

手早く準備をしてくれた鈴麗にお礼を言い、生菓子と茶器をお盆にのせ部屋に戻る。

ここでも鈴麗が自分が運ぶと申し出てくれたが、ここに来た時に両手いっぱいに布を持っていたのでまだ仕事が残っていると思いやんわり断った。

どこか不服そうだったが本当に忙しかったのだろう、何かあったらお呼びください!と言いながら布たちを持って足早とまた仕事に戻ってしまった。

「お待たせいたしました。お茶請けに生菓子もお持ちしました」

「おお、ちょうど何か欲しいと思っていたんだ。すまんな」

「いえ。ちょうど鈴麗がいたので美味しそうな生菓子を選んでもらいました」

机の中央に生菓子を置き、新しく持ってきた湯呑にお茶を注ぐ。

「侍女とも仲良くしてくれているようで安心した」

「心配してくださっていたのですか?」

「他国からお預かりしているからな。当然だ」

些細な気遣いだろうがそんなことを気にかけてもらえると思っても見てなかったので少し嬉しくなる。

「どうぞ」

「珍しい茶だな・・・」

「はい、守国で採れる茶葉から作ったお茶です」

国王様は注がれたお茶をじっと見つめる。

やっぱり他国には出回ってないから珍しいんだろうな。

しばらく眺めた後、おもむろに湯呑に手を伸ばし鼻に近づける。

「いい香りだな」

「はい。香りを楽しみながら飲むのがこのお茶の一番の美味しい飲み方です」

「そうか。では、いただこう」

もう一度鼻に近づけ香りを楽しみ、国王様はそっと湯呑を口に運ぶ。

それを見て私もお茶を飲もうとしたその時・・・。

「飲むな!!」

「っ!!」

私の持っていた湯呑は国王様の手によって払いのけられ床に落ちる。
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