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第一章
第4話:リゼルの初陣
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付呪師になる。
その目的を見出した僕は、女性の[魔法ペン]を借り、自分の着ているローブ、ブーツ、鞄等など、あらゆるものに付呪をしていった。
もちろん、[魔法ペン]はきちんと彼女に返す。これは貴重な代物だし、盗賊になるつもりも無い。
僕は、まっとうな手段で付呪師になる必要がある。
でないと、胸を張って故郷に帰ることはできない。
とは言え、今はこんな状況だ。
生き残るために[魔法ペン]を勝手に使わせてもらうは許して欲しい。
と未だに意識が戻らないエルフの女性に僕はぺこりと頭を下げる。
だが、いくら翻訳の力で付呪ができるようになったとはいえ、最初は失敗の連続だった。
[羽毛のような軽さ]と[速度の強化]を願った付呪は、[過剰な軽さ]と[過剰な速度]を発揮してしまいひどい目に合った。
草がクッションになってくれたから良かったものの、まだ鼻の頭がズキズキしている。
というか下手したら死んでいた。
ちなみに付呪の練習の間、エルフの女性は草花たちにお願いして作ってもらったツルとツタの網目状寝具に寝てもらっている。
簡易な治療をしたとは言え、本当に酷い怪我だったのだ。
なるべく安静に、そして速やかに大きな施設に預けなければならない。
ようやく全ての装備の付呪と実験を終え、僕は僅かな疲労を感じ息を付く。
「ふー……。ん、よし!」
軽く飛び跳ねてみたり、転がってみたり、叩いてみたり。
よし、問題ない。今度こそ完璧だ。
「何事もほどほどが一番……!」
[程々に軽く少し速度が出やすいブーツ]に、[やや筋力を強化してくれるローブ]等など、僕は全ての装備に[ほどほどの強化]を意識して付呪をした。
そしてそれはようやく成功したようだ。
そもそも、どんなに素早く動けるようになっても僕自身が対応できなければ意味がない。
ならば、付呪の力を本当に生かすためには、僕も強くならなければならないのだ。
「日々鍛錬、か……。でも、これで何とかなりそうだ」
ちなみに武器も用意した。
[魔法学校]の支給品だった小さな杖が二本と、投擲用のナイフがいくつか。
そもそも敵に向けるものなので、こちらはほどほどの付呪では無い。
「試射くらいはしたかったけど……」
と、ぼやくと、付近の草花たちが言った。
『や、やめて……』
『当たったら危ない……』
『やめて……』
『どこ飛んでくかわからんないから……』
『やめてね……』
……便利だが不便だ。
だが僕は恩には恩で返す人間だ。
「大丈夫です、ここで撃ったりなんてしません」
そう言うと、草花たちは安心したのか静かになる。
「本当にありがとうございました。皆さんのおかげで何とかなりそうです」
本当はきちんとお礼をしたい。
だが残念ながら僕は植物が喜びそうな持ち合わせは無いのだ。
まさか、保存食を適当に置いていくわけにもいくまい。
草原の草花が、風にそよぐ。
だが、もうそれだけだった。
これが、草花たち流の挨拶なのかはわからなかったが、僕はぺこりとお辞儀をしてから踵を返す。
これから、人を背負って街を目指さなければならないのだ。
ちなみに一応街の方角は親切な草さんが教えてくれた。
森を背にまっすぐ進めば、やがて人間たちがいる場所に付く、らしい。
今は、頼れる情報がそれしか無い。
「森を背に、か」
僕はエルフの女性を背負い、ロープと留め金で固定する。
「落ちないでくれよ……」
と祈りながら、僕は森を背に地平線の彼方を目指した。
※
どれくらい歩いただろうか。
気がつけば、周囲は霧で覆われていた。
付呪のおかげで、自分の身体能力以上の力を引き出している感覚がある。
人を一人背負っているのにこの軽やかな足取りは、正直心が踊る。
力仕事も、魔法も僕は劣っている。
けど、それを付呪の力が補ってくれている。
そして、付呪は僕の努力の成果だ。
[魔法学校]に通っていた全ての時間の、結晶だ。
それが嬉しくてたまらない。
だが、欠点にも気づいてしまった。
「な、何か、体が……重い……」
最初のうちは、違和感程度のものだった。
もちろん、付呪の効果が早々に切れる可能性も考慮していた。
本来付呪は、[魔法ペン]に加えて特殊なインクを使うものなのだ。
だが、今回はただのインクで代用したため、効果や時間で大きく劣るのは仕方のないことだ。
などと考えていた時だった。
がくん、と僕は膝から突然崩れ落ちた。
「あ、うわっ!? な、なんで……」
付呪の効果が、切れた? 早くない?
と、僕は背負っているエルフの女性の様子をちらと伺ってから、ブーツやローブの付呪を確認していく。
いや、付呪はまだ残っている。
いくら魔法が使えなくたって、魔力の流れくらいはちゃんと読める。
というかそっちの方は優秀だった。
……魔法撃てないから意味なかったけど。
ふと、『逃げてばかりだなぁ! リゼルよぉ!』という嫌な奴の言葉を思い出し、僕はぎゅっと奥歯を噛み締めた。
「レイヴンめ……」
毒づきながら、僕は全ての付呪の具合を確認し終え、重大な見落としに気づいてしまった。
足だけじゃない、腕にもほとんど力が入らない。
「こ、これ、たぶん僕の体の方が……限界ってことだよね」
身体能力を、付呪で底上げしても、僕自身が強くなったわけでは無い。
じわりじわりと、[ほどほどの強化]によって蓄積された疲労が、僕の体を蝕んだのだ。
……ここで、休むべきか?
少しばかり顔を後ろに向けた僕は、静かな寝息を立てているエルフの女性の横顔が目に入る。
綺麗な人だ。
[魔法学校]にも[エルフ種]はいた。
だが彼らを魅力的だとは思わない。
非常に傲慢で、嫌な雰囲気を感じたのだ。
でも彼女からは、そういう嫌な感じはしない。
僕は、彼女の言葉を思い出す。
死を覚悟して述べた言葉が――。
「……不出来な妹で、ごめんなさい、か――」
僕は、ぎゅっと拳を握りしめた。
「必ず、助けます。そしてルグリア・ベリルって人のところに送り届けます」
まだ、行ける。僕はまだ歩ける。
無理やり何とか立ち上がり、僕は歩き出す。
歩いて、歩いて――。
やがて、風が吹きはじめた。
さーっと霧が晴れていく。
すると――。
「な、なんだ……? 草原にいたはずなのに、岩と、土しか見えない」
いつの間にか、周囲は生命の一切を感じさせない荒れた土地と化していた。
振り返ってみても、草原の緑は一切見えず、彼方に切り立った岩山が見えるだけだ。
空は分厚い雲に覆われており星一つ見えない。
――暗闇だ。
ぶる、と悪寒が走る。
「僕は……一体どこに、[転移]させられてたんだ……」
その時だった。
吹き荒れる風が、違和感となる。
ぞわりと首筋に嫌なもの感じた僕は、慌てて飛び退いた。
そのままがくんと膝からバランスを崩し転びそうになりながらも、背中の女性だけは死守すべくすぐに向き直る。
そこにいたのは、巨大な鳥だった。
二階建ての民家ほどはあるだろう巨体が、僕の視界を覆い隠すように翼を広げ、咆哮する。
僕はすぐさま[魔法学校]で学んだ魔獣図鑑の知識を総動員し、結論づける。
「獄炎鳥は、炎を操る大怪鳥……!」
そして、人を襲う魔獣。
僕は[翻訳の魔導書]を発動させ、叫んだ。
「あ、あの! こんばんわ! ぼ、僕の話を――」
が、獄炎鳥は聞く耳を持たず、僕に向けて嘴から灼熱の炎を撒き散らした。
やはり、と僕は[翻訳]の限界を確認する。
あらゆる存在と、言葉を交わすことができる。
だが、バッタは言葉を交わしても逃げてしまった。
レイヴンとだって、言葉を交わしながらも有効的な関係に至ることは無かったのだ。
「聞く気が無いのなら! 僕の付呪の実験相手になってもらう!」
警告はした。
ならばかわいそうだとは思わない。
僕は、ローブの内側に収納していた[付呪を施した小さな杖]を取り出す。
こうして、僕の初陣が始まった。
その目的を見出した僕は、女性の[魔法ペン]を借り、自分の着ているローブ、ブーツ、鞄等など、あらゆるものに付呪をしていった。
もちろん、[魔法ペン]はきちんと彼女に返す。これは貴重な代物だし、盗賊になるつもりも無い。
僕は、まっとうな手段で付呪師になる必要がある。
でないと、胸を張って故郷に帰ることはできない。
とは言え、今はこんな状況だ。
生き残るために[魔法ペン]を勝手に使わせてもらうは許して欲しい。
と未だに意識が戻らないエルフの女性に僕はぺこりと頭を下げる。
だが、いくら翻訳の力で付呪ができるようになったとはいえ、最初は失敗の連続だった。
[羽毛のような軽さ]と[速度の強化]を願った付呪は、[過剰な軽さ]と[過剰な速度]を発揮してしまいひどい目に合った。
草がクッションになってくれたから良かったものの、まだ鼻の頭がズキズキしている。
というか下手したら死んでいた。
ちなみに付呪の練習の間、エルフの女性は草花たちにお願いして作ってもらったツルとツタの網目状寝具に寝てもらっている。
簡易な治療をしたとは言え、本当に酷い怪我だったのだ。
なるべく安静に、そして速やかに大きな施設に預けなければならない。
ようやく全ての装備の付呪と実験を終え、僕は僅かな疲労を感じ息を付く。
「ふー……。ん、よし!」
軽く飛び跳ねてみたり、転がってみたり、叩いてみたり。
よし、問題ない。今度こそ完璧だ。
「何事もほどほどが一番……!」
[程々に軽く少し速度が出やすいブーツ]に、[やや筋力を強化してくれるローブ]等など、僕は全ての装備に[ほどほどの強化]を意識して付呪をした。
そしてそれはようやく成功したようだ。
そもそも、どんなに素早く動けるようになっても僕自身が対応できなければ意味がない。
ならば、付呪の力を本当に生かすためには、僕も強くならなければならないのだ。
「日々鍛錬、か……。でも、これで何とかなりそうだ」
ちなみに武器も用意した。
[魔法学校]の支給品だった小さな杖が二本と、投擲用のナイフがいくつか。
そもそも敵に向けるものなので、こちらはほどほどの付呪では無い。
「試射くらいはしたかったけど……」
と、ぼやくと、付近の草花たちが言った。
『や、やめて……』
『当たったら危ない……』
『やめて……』
『どこ飛んでくかわからんないから……』
『やめてね……』
……便利だが不便だ。
だが僕は恩には恩で返す人間だ。
「大丈夫です、ここで撃ったりなんてしません」
そう言うと、草花たちは安心したのか静かになる。
「本当にありがとうございました。皆さんのおかげで何とかなりそうです」
本当はきちんとお礼をしたい。
だが残念ながら僕は植物が喜びそうな持ち合わせは無いのだ。
まさか、保存食を適当に置いていくわけにもいくまい。
草原の草花が、風にそよぐ。
だが、もうそれだけだった。
これが、草花たち流の挨拶なのかはわからなかったが、僕はぺこりとお辞儀をしてから踵を返す。
これから、人を背負って街を目指さなければならないのだ。
ちなみに一応街の方角は親切な草さんが教えてくれた。
森を背にまっすぐ進めば、やがて人間たちがいる場所に付く、らしい。
今は、頼れる情報がそれしか無い。
「森を背に、か」
僕はエルフの女性を背負い、ロープと留め金で固定する。
「落ちないでくれよ……」
と祈りながら、僕は森を背に地平線の彼方を目指した。
※
どれくらい歩いただろうか。
気がつけば、周囲は霧で覆われていた。
付呪のおかげで、自分の身体能力以上の力を引き出している感覚がある。
人を一人背負っているのにこの軽やかな足取りは、正直心が踊る。
力仕事も、魔法も僕は劣っている。
けど、それを付呪の力が補ってくれている。
そして、付呪は僕の努力の成果だ。
[魔法学校]に通っていた全ての時間の、結晶だ。
それが嬉しくてたまらない。
だが、欠点にも気づいてしまった。
「な、何か、体が……重い……」
最初のうちは、違和感程度のものだった。
もちろん、付呪の効果が早々に切れる可能性も考慮していた。
本来付呪は、[魔法ペン]に加えて特殊なインクを使うものなのだ。
だが、今回はただのインクで代用したため、効果や時間で大きく劣るのは仕方のないことだ。
などと考えていた時だった。
がくん、と僕は膝から突然崩れ落ちた。
「あ、うわっ!? な、なんで……」
付呪の効果が、切れた? 早くない?
と、僕は背負っているエルフの女性の様子をちらと伺ってから、ブーツやローブの付呪を確認していく。
いや、付呪はまだ残っている。
いくら魔法が使えなくたって、魔力の流れくらいはちゃんと読める。
というかそっちの方は優秀だった。
……魔法撃てないから意味なかったけど。
ふと、『逃げてばかりだなぁ! リゼルよぉ!』という嫌な奴の言葉を思い出し、僕はぎゅっと奥歯を噛み締めた。
「レイヴンめ……」
毒づきながら、僕は全ての付呪の具合を確認し終え、重大な見落としに気づいてしまった。
足だけじゃない、腕にもほとんど力が入らない。
「こ、これ、たぶん僕の体の方が……限界ってことだよね」
身体能力を、付呪で底上げしても、僕自身が強くなったわけでは無い。
じわりじわりと、[ほどほどの強化]によって蓄積された疲労が、僕の体を蝕んだのだ。
……ここで、休むべきか?
少しばかり顔を後ろに向けた僕は、静かな寝息を立てているエルフの女性の横顔が目に入る。
綺麗な人だ。
[魔法学校]にも[エルフ種]はいた。
だが彼らを魅力的だとは思わない。
非常に傲慢で、嫌な雰囲気を感じたのだ。
でも彼女からは、そういう嫌な感じはしない。
僕は、彼女の言葉を思い出す。
死を覚悟して述べた言葉が――。
「……不出来な妹で、ごめんなさい、か――」
僕は、ぎゅっと拳を握りしめた。
「必ず、助けます。そしてルグリア・ベリルって人のところに送り届けます」
まだ、行ける。僕はまだ歩ける。
無理やり何とか立ち上がり、僕は歩き出す。
歩いて、歩いて――。
やがて、風が吹きはじめた。
さーっと霧が晴れていく。
すると――。
「な、なんだ……? 草原にいたはずなのに、岩と、土しか見えない」
いつの間にか、周囲は生命の一切を感じさせない荒れた土地と化していた。
振り返ってみても、草原の緑は一切見えず、彼方に切り立った岩山が見えるだけだ。
空は分厚い雲に覆われており星一つ見えない。
――暗闇だ。
ぶる、と悪寒が走る。
「僕は……一体どこに、[転移]させられてたんだ……」
その時だった。
吹き荒れる風が、違和感となる。
ぞわりと首筋に嫌なもの感じた僕は、慌てて飛び退いた。
そのままがくんと膝からバランスを崩し転びそうになりながらも、背中の女性だけは死守すべくすぐに向き直る。
そこにいたのは、巨大な鳥だった。
二階建ての民家ほどはあるだろう巨体が、僕の視界を覆い隠すように翼を広げ、咆哮する。
僕はすぐさま[魔法学校]で学んだ魔獣図鑑の知識を総動員し、結論づける。
「獄炎鳥は、炎を操る大怪鳥……!」
そして、人を襲う魔獣。
僕は[翻訳の魔導書]を発動させ、叫んだ。
「あ、あの! こんばんわ! ぼ、僕の話を――」
が、獄炎鳥は聞く耳を持たず、僕に向けて嘴から灼熱の炎を撒き散らした。
やはり、と僕は[翻訳]の限界を確認する。
あらゆる存在と、言葉を交わすことができる。
だが、バッタは言葉を交わしても逃げてしまった。
レイヴンとだって、言葉を交わしながらも有効的な関係に至ることは無かったのだ。
「聞く気が無いのなら! 僕の付呪の実験相手になってもらう!」
警告はした。
ならばかわいそうだとは思わない。
僕は、ローブの内側に収納していた[付呪を施した小さな杖]を取り出す。
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