小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

文字の大きさ
5 / 44
第一章

第5話:決着

しおりを挟む
 夜空の獄炎鳥が僕に向けて巨大な火球魔法を撃ち放つ。
 すぐさま僕は[稲妻の付呪を施した杖]の魔法をがむしゃらに撃ちまくった。

 杖から放たれた稲妻が灼熱の炎を切り裂き、混ざり合い、爆発する。

 獄炎鳥は爆風に乗り空へと舞い戻ると、旋回し再び僕に狙いを定めた。

「僕は対話の相手ではなく、ただの食料、か――!」

 ならばそれで良い。
 僕にとってお前も、実験体その一だ。

 ふと、気づく。

「遠くに灯りが見える。……人がいるのか?」

 ここからでは薄っすらとしかわからない。
 街、というよりも小さな砦のように見えるが。

「派手に戦えば、気づいてくれるかもしれない……」

 僕は淡い期待を持ちながら、とにかく上空の敵目掛け稲妻の魔法を杖から放ち、駆け出した。
 というか魔法なんてそう簡単に当たるものでは無い。
 本来、魔導師は魔法の力を、敵への誘導も含めて魔力でコントロールする。
 だが僕にはそれができない。
 魔法を撃つとこまでは付呪の力でできるが、そこまでだ。

「だから試射したかったんだけど……!」

 とぼやいても仕方ない。
 恩人(?)が嫌だと言ったのだから。
 上空を旋回する獄炎鳥から、巨大な火球が再び僕目掛け放たれる。

「やっばい――!」

 僕は杖の付呪の力を強め、巨大な稲妻を火球目掛け撃ち放つ。
 稲妻が夜の闇を切り裂き、火球を撃ち貫くとそのまま獄炎鳥の胴を両断した。

「や、やった!」

 勝った。
 初めての、実戦で勝てたのだ。

 と、その時だった。
 杖に込められた付呪の魔力が暴走を初め、赤く膨れ膨れ上がっていく。
 これは、まずい。
 とっさに僕は杖を空に向けて放り投げた。
 杖は赤く変色し、周囲に無属性の魔力を撒き散らしながら爆発する。

「う、くう……! 失敗してたのか!?」

 それとも、付呪の魔力に杖が耐えきれなかったか。
 遅れて、空中で両断された火球が爆発すると、漆黒の空を明るく照らした。
 獄炎鳥が自らを焼き焦がしながら流星のように墜落していく。

 そして僕は遅れて気づく。
 周囲から、いくつもの獰猛な気配がする。
 漆黒の狼のような外見の魔獣。
 黒い闇の狩人の異名を持つ、獅子よりも大きく巨大な体躯と黒い体毛特徴的な、ダークハウンドの一種だ。
 暗闇に適応しているのか、特徴的な四つの目が赤くぎらついている。
 僕はすでに、魔獣たちに取り囲まれていた。

 まずい。
 本当にまずい。
 背中の人を、守りながらこれだけの数と……。

「ま、待ってください! 僕は、戦うつもりはありません! あなた方の縄張りに入ってしまったのでしたら、すぐに出て行きます!」

 言いながらも、周囲の状況を確認する。
 魔獣の数は、八。
 残っている武器は[付呪された杖]が一本と数本の[付呪された投げナイフ]だ。

 迂闊だった。もっと、ローブやブーツに戦闘に特化した付呪を施すべきだった。
 そして一本目の杖もすぐに壊れたとなれば、恐らく最後の一本も同じ失敗をしている。

 いいや、弱気になるな。
 ついさっき、助けると決めたばかりでは無いか。
 それを投げ出してどうする。
 もう逃げるのはたくさんだ。
 後ろ指さされたって、馬鹿にされたって、僕は僕の信じた道を行く。

 僕は、意を決し、ローブの内側の最後の杖に指を触れた。
 ダークハウンドの一匹が、低い声で言った。

『言葉を、話す、肉』

 対話をするつもりは、あるのか……?

「すぐに出ていきます! 僕の、差し出せるもので良ければ……保存食もあります!」

 僕は注意深く様子を見る。
 ダークハウンドたちは、じりじりと周囲をゆっくりと行ったり来たりするだけだ。
 やがて、先程のダークハウンドが言う。

『強い、肉。お前とは戦いたくない』

 だが、周囲の仲間たちは口元からよだれをたらし僕から目を離そうとしない。
 安心は、できない。
 油断するつもりも無い。

「あ、ありがとうございます。……すぐにここを去ります」

 僕はそう言って、背を向けずにゆっくりと移動しようとした。
 もちろん、ローブの中の杖からは手を離さない。
 僕はもう、彼らが何を見てよだれを堪えきれずにいるのかを理解しつつあった。
 恐らく、魔獣たちは――。

 そして思っていた通り、ダークハウンドは言った。

『背中のそれは、置いていけ。肉は、柔らかいものが美味い』

「そうかい――!」

 僕は即座に最後の杖の魔法を解き放つ。
 込めた付呪は、[氷の破裂]。
 とにかく一撃の威力を高めた一本目と違い、足止めを優先させた杖だ。

 まずは先制攻撃、とばかりにリーダー格らしい先程僕と会話をしていたダークハウンドに向け、[氷の破裂]を撃ち放つ。
 小さな杖の先から、同じく小さな氷塊が現れ、扇状に爆発しダークハウンドに襲いかかった。
 これは散弾型、と呼ばれる魔法だ。
 いくつかの砕けた氷のつぶてがダークハウンドに命中する。
 そして着弾し肉にえぐりこまれた氷のつぶてが爆裂すると、ダークハウンドは皮膚の内部から氷の刃によって切り刻まれ絶命した。

 行ける。
 ちゃんと、通用する。

「一つ――」

 僕が小さくつぶやくのと同時に、牙を向き飛びかかってきた三匹のダークハンドに向け、杖の魔法を連射した。
 言葉が通じるのは、僕の力だ。
 こいつらの知能が上がったわけでは無い。

「ならば、所詮は獣――!」

 戦術などありはしない。
 魔獣はただ本能で襲いかかってくるだけだ。

「これで四つ、か――!」

 残り、半分。
 いける、いけるぞ。

 そう確信した瞬間だった。
 闇の中から風の刃が僕に向けて放たれる。
 僕はとっさに反応し、杖を向けた。
 風の刃の魔法を相殺すべく、飛び退きながらも[氷の破裂]を撃つ。
 敵の数が合わない。
 暗闇に、九匹目のダークハウンドが潜んでいたのだ。

 僕は、それに気づけなかった。
 たかが獣と侮り、狩りのベテランだということを完全に失念していた僕のミスだ。
 ふいに、体が軽くなる。

「しまっ――」

 背中の女性を固定していた帯が風の刃で裂かれていた。
 女性がそのままどさりと乾燥した大地に転がる。
 四匹のダークハウンドが女性に飛びかかるのと、隠れていた最後のダークハウンドが僕に飛びかかるのは同時だった。

 ど、どうする。
 自分の身を守るか、彼女を、守るか――。
 間に合わない。

 脳裏に過ぎったのは、亡き両親の微かな記憶と、気高く優しい姉の後ろ姿。
 [魔法学校]での様々な思い出が駆け巡り、最後に女性の『不出来な妹』という言葉を思い出した。

 なんで、それが最後の言葉なんだ。
 なんだか無性に腹が立ってきた。

 僕は、不出来な弟のままで、終わる気は無いぞ……!
 そうして僕は、覚悟を決めた。
 僕に飛びかかるダークハウンドに背を向け、女性に飛びかかる魔獣目掛けて四本の[付呪を施した投げナイフ]を抜き去り、投げつけた。

「――〝当たれ〟!」

 魔力を乗せそう言い放つと、まず[追尾]の付呪が発動した。
 ナイフは弧を描くような軌道でダークハウンドの目や喉元に突き刺さる。
 そして同時に施してあった[爆発]の付呪が発動し、四匹のダークハウンドの体を破裂させた。

「次は――! うっ……」

 背中に、焼けるような激痛が走る。
 だけどまだ、生きている。
 まだ戦える。
 僕は振り返り、杖の[付呪]を発動させるも、既にダークハウンドは僕の腕に食らいつこうとしていた。

 ――間に合わない。

 僕は咄嗟の判断で、ダークハウンドの巨大な口の中に、腕ごと杖を突っ込んだ。
 巨大な牙が僕の右腕を噛み砕いていく。
 腕に、激痛が走る。
 ダークハウンドの牙は僕の腕の筋肉をずたずたにし、もはや魔力の操作は不可能だ。

 だが、既に付呪の発動は完了していた。
 僕の手から離れた杖から、氷塊が炸裂し、ダークハウンドの喉の奥から後頭部にかけてを氷の刃が貫いた。
 そうして最後のダークハウンドが、ゆっくりと崩れ落ちていく。

「や、やった――」

 僕は肩でぜえぜえと息をする。
 右腕が、めちゃくちゃ痛い。
 そして痛いくせに感覚が無い。
 なんだこれは。
 で、でもそうか。腕がぐっちゃぐちゃになるとこんな感じになるのか。
 お、覚えておこう……。

「うっ……くっそぉ……」

 でも、倒せた。
 一応周囲を警戒するが、もう僕以外動いているものは無い。
 女性も、無事だ。

 僕は少しずつ落ち着きを取り戻していく。
 全身の筋肉が悲鳴をあげている。
 背中が汗でびちゃびちゃだ。
 すぐにでもベッドに倒れ込みたい。
 ……でも安心しきるのはまだはやい。
 彼女を、人の元へ連れて行かなければならない。
 怪我を負っているのだ。
 街の灯りは見えている、あと、少し――。
 僕は再び彼女を背負うべく、一歩踏み出そうとする。
 しかし――。

「あ、あれ……?」

 がくんと膝から崩れ落ちる。
 見れば、足にえぐられたような切り傷が見え、足元が真っ赤に染まっていた。
 いったい、いつやられた……?
 頭がうまく回らない。

「さ、最後の、一体は、風の魔法を使った、魔獣――」

 背中が奇妙なほど濡れている。
 汗かと思っていたが、何かがおかしい。
 足元に流れ出ている血の量が、多すぎる。
 足と腕の怪我だけで?
 ようやく僕は、背中に大きな傷を負っているのだと理解した。

「ま、まだ、行けるはずだ。僕は……」

 僕はどさりと倒れ込む。
 意識が遠のいていく。
 ここで、倒れては駄目だ。
 せめて……知らせなければ。
 ここに、いると……。
 でも、どうやって――。

 ふと、遠くから駆け寄ってくる人影が見える。
 数はわからない。
 周囲を照らす〝灯火〟の魔法を使っているように見える。
 男の声が聞こえる。

「ほ、本当にいた……! いたぞー! こっちだ! いたぞー!」

 人影の一団が近づいてくる。
 助かった、のか?
 ああ、でももう意識が――。
 男が慌てて言う。

「――ルグリア、待て!」

 ……ルグリア?
 どこかで、聞いたような――。
 確か、女性、の、姉の……。
 一団から、一人の女性が駆け出した。
 やや短い髪から、エルフ特有の長い耳が覗き見える。
 ルグリアと呼ばれたエルフの女性が倒れてる女性に駆け寄りながら、叫んだ。

「――エメリア!!」

 目の前が暗くなる。
 ルグリア・ベリル――。
 妹の名は……。

「……エメリア・ベリル――」

 僕は小さくそう呻き、意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...