小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第38話:ガラリアの夢 後編

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 ややあってギルド長が大事そうに持ってきた杖は、僕の身の丈ほどある大きなものだった。

「お、大きいですね……」

 思わず言うと、ギルド長は僕の肩をぐわしとつかみ、真剣な顔で言う。

「非常に、非常に貴重な代物です……」

「は、はい……」

「くれぐれも! 雑に、扱わないように……!」

「リゼル氏はよ付呪してくれ。サクっとやろう」

「くうっ……」

 ギルド長はがっくりと項垂れる。

 僕は、身の丈ほどもある大きな[世界樹の杖]への付呪を開始した。

 今回の付呪は、反動も考慮している。

【拝啓、雷の精霊様。いつも大変お世話になっております。リゼル・ブラウンでございます】

 から続き、ここから僕は新しい記述法に移る。

【火の精霊様と光の精霊様、氷の精霊様は元気にしておりますでしょうか?】

 今の付呪は、複数の付呪を別々に書いていたのだ。
 それを今日は一つにまとめようと思う。

 そうして僕は魔力の爆発と反動の件を書き出し、その上で頼り切るのではなく自ら解決案を提示してみる。

【わたくしの方からご提案なのですが、光の精霊様のお力で、何とか反動の軽減を――】

 などなど書き連ねていく。

 ようし、順調だ。
 そして大きな杖なので書くスペースもたくさんある。

 ルーン文字はどんどん杖に書かれていく。

 後ろからガラリアが覗き込む。

「お、おおー……ちょっとすごすぎてボクどん引きしとるぞ」

「せ、先生よりも凄いのですか?」

【魔力が集中しすぎて熱を持つ件についてのご相談なのですが――】

「うーむ、知らない単語が多すぎる。これは凄いぞ」

「し、知らない単語ですか……。やっぱりガラリア先生がやったほうが良いのでは」

【こちらとしましては、氷の精霊様に一度お伺いをたててみようかなと――】

「いいや、これでどうなるのか見てみたい」

「……最悪[商人ギルド]が傾きますぞ」

 僕はちらと振り返り言った。

「うるさいんですけど」

「お、おおリゼル氏すまない。ちょっと楽しくなってしまったのだ」

「リゼル殿、大変貴重な代物ですので、何卒……」

 かくして、僕は杖をルーンで埋め尽くし、新しい[稲妻と灼熱の付呪を施した世界樹の杖]が完成した。

 今回のは特に凄いぞ。
 自信作だ。
 威力もさることながら、その後のケアを十二分に書くことができたのだ。

 ギルド長が難しい顔になる。

「ですが、試射ができる場所がありません。ベヒーモスの群れや流星群を一撃ともなれば……」

「ここでやれば良いでは無いか」

「いや死にますぞ我々」

 ギルド長のおっしゃるとおりだが、ガラリアには考えがあるらしい。
 彼女はとたとたと駆け出し、海を一望できるテラスへと出る。

「見たまえ、遥か彼方の空に雨雲が見える」

 どす黒い雲が、山のようにそびえ立っている。
 ギルド長がガラリアの隣で空を眺める。

「ははぁ、こりゃ明日か明後日からしばらく雨ですなぁ。先生の[雨避け]の付呪は大変盛況でしてな」

「うむ何よりだ。さ、リゼル氏、あれに向けて撃ってみるのだ」

 ギルド長が訝しげな顔になった。

「ガラリア先生、遠すぎますぞ」

「届かなければそれで良い。杖の様子は確認できる」

「まあ、それは確かに……。リゼル殿、よろしいですかな?」

「わかりました」

 と僕は彼方の雨雲に杖を向ける。

 以前のベヒーモスと比較にならないほど距離がある。
 だが、今の僕は以前の僕よりも強くなった。
 伊達に百を超える獣車に付呪をし続けたわけでは無いのだ。
 コツだってかなり掴んだ、はずだ。

 そして[光魔法]による魔法障壁と、[氷魔法]による杖の冷却。
 完璧だ……。

 僕は、杖に魔力を集中させる。

 バチン、とどす黒い輝きが溢れていく。

 ガラリアが驚嘆する。

「お、おおおリゼル氏凄いぞ! 途方もない魔力だ!」

「た、確かに……! これならば! これならばですぞ先生!」

 やがて、魔力が集中しすぎた結果起こる、[精霊の悲鳴]と呼ばれる現象が起こる。
 り、り、り、り、という耳をつんざくような鈴の音がそうだ。

「むむー、でもこれだと撃つ位置がばればれになるな? リゼル氏ちょっと減点だ」

「ほほー! ガラリア先生はいつにもまして厳しいですな!」

 そして、ついに以前の[世界樹の杖]には無かった現象が起こり始める。
 周囲の景色から、色が失われ始めたのだ。

「んふふー、何せ彼はボクの弟子ではない、対等な同士なのだ」

「なんと!? では、ガラリア先生はいよいよやるのですな!?」

 やがて全ての色彩が失われ、周囲は灰色の世界となる。

「おうとも。ボクの夢、理想、その全てを実現する時が来た」

「お供しますぞ先生。父も、そのまた父も、ガラリア先生を敬愛しておりました」

 ついに僕は怒鳴った。

「うるさいって言いましたよね!?」

 さっきから後ろでごちゃごちゃごちゃごちゃと……。
 というか年上に怒鳴ったのこの二人が始めてだ。

「お、おおリゼル氏すまない。ちょっと興奮したのだ」

「リゼル殿! ささ我らなど気にせずに試射を」

 楽しそうだなこの人たちは……。
 だが、ようやく杖の魔力が安定してきた。

「……撃っても良いんですよね?」

「おお、いけるのか? ようし、撃つのだリゼル氏。空の雨雲に向けていざゆかん」

「頼みますぞ……」

 僕は万が一のことも考え、杖を両手でしっかりと持つ。

 と、ガラリアからバチンと魔力が爆ぜる。

「ちょっとボクも入ろう。ちょっとだけ」

 ガラリアはどうやら[身体強化]の付呪を発動させたらしい。
 彼女は僕の腰を両手でぎゅっと抑える体制に入る。

「ようし、リゼル氏いつでも行くのだ」

 彼方の雨雲に向け、静かに呼吸し、集中する。

 そして、僕は魔力を杖に走らせた。

「――撃ちます」

 瞬間、赤黒い稲妻が雨雲に向けてほとばしる。
 同時に光の魔法障壁が発生すると、衝撃波が巻き起こり、僕の周囲以外の家具やガラスを粉々に砕いた。

「うわっはー! 凄いぞー! リゼル氏ー!」

「ああ! 大白金貨相当の壺や絵画が!!」

 ガラリアが素っ頓狂な悲鳴を上げると、腰を抜かしたギルド長も室内の惨状を見て絶句する。

 赤黒い稲妻は空を切り裂き、あっという間に雨雲を両断すると更にその果ての彼方へと吸い込まれていった。

 彼方の空には、真っ二つに両断された雨雲と、一直線に伸びる青空が現れた。

 なんて、威力だ……。

 杖を持つ手が震えている。
 確かに、僕自身への反動はわずかだった。
 僕のすぐ後ろにいたガラリアたちが無傷なのも同じ理由だろう。
 魔法障壁が守ってくれたのだ。

 僕はそーっと振り返る。

「うきゃー! 大成功だー! リゼル氏凄いそー!」

 ガラリアはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

「そ、そんな……来月展示するものもあったのに!」

 ギルド長は膝を屈しうなだれている。

 [商人ギルド]のギルド長室は、まるで室内で爆発魔法を連発したかのごとく破壊され尽くしていた。

「やったー! やったー! いやったーー!」

「ああー! 来月の展示会がー!!」

 なんか、ほんと申し訳ない……。

 ガラリアが僕にぎゅっと飛びついた。

「リゼル氏!」

「は、はいっ」

 彼女もここまで喜んでくれるとは……。
 そういえばさっきから後ろで、夢がどうとか言ってたような。

「突然ですまない! ボクは[付呪師ギルド]の設立を考えている!」

 [付呪師ギルド]……。
 いや本当に突然だ。

 だが、彼女がやろうとしていることの重大さはわかる。
 それは、つまり――。

「[魔術師ギルド]から、独立するってことですか……」

 正式な付呪師になるには、[魔法学校]を卒業し[魔術師ギルド]から認可を得なければならない。
 僕やエメリアは、特殊な存在なのだ。

「うむ! リゼル氏! ボクはキミのような存在をずっと待っていた! 是非、共に[付呪師ギルド]を作ろう!」

 甘美な響きだった。
 そしてほんの少し、怖くもある。
 これは未知に挑む者が感じる恐怖だ。

「[魔術師]だけでは無い! 魔法が使えないものでも、戦士だろうと誰であろうと! その門を叩けるのが[付呪師ギルド]だ!」

 僕の思いは、既にガラリアの夢へと傾き初めている、
 だからこそ、聞かねばならない。

「ガラリアさん。あなたの魔導を――聞かせてください」

 それは僕に取って重い意味を持つ、言葉。

「愚問だよリゼル氏! 魔導とは世界を豊かにするためにある! キミは違うのかね!」

「……違いません。それこそが、僕の魔導です」

 同じ志を、持つ人――。

 この人に賭けてみよう。

 僕はガラリアと共に[付呪師ギルド]を作り……世界を、変える。

 そうして、僕たちは[付呪師ギルド]設立のため動き出したのだ。
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