小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第39話:付呪師ギルド設立準備

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 工房に戻ってきた僕たちを、慌てた様子のエメリアが出迎えた。

「せ、先生! 凄い魔法が空を割ったように見えました! [商人ギルド]の方角でしたけど……」

「おおエメリア氏! あれはリゼル氏のものだ!」

「えっ、リゼルさんの……あっ」

「思い当たる節があるようだな? それの改良版だが、今すべき話はそれでは無い。重要な知らせがある」

 と、彼女は愛用の椅子にちょこんと座り、僕とエメリアを交互に見る。

「ボクは、来月この[魔法都市]主催で行われる祝賀会に合わせて[付呪師ギルド]の設立を宣言しようと思う」

「え、それって……」

 どうやら、ガラリアは元々親しい人物には[付呪師ギルド]設立の夢を予め語ってあったらしい。

 おそらく、来たるべき日のための地固めという意味もあったのだろう。

 ガラリアは、[商人ギルド]で語った内容をエメリアにも語る。

「初代ギルド長はボクが務める」

 と言ってから彼女はチラと僕を見る。

「ゆくゆくはリゼル氏に譲ろうと思うが、今はまず知名度が欲しい。[帝]の称号を最大限活用させてもらうつもりだ」

 概ね異論は無い。
 世界に名だたる[帝]の名を冠する付呪師ガラリアの名はあまりにも大きいのだ。

 ちなみにゆくゆくは僕がギルド長、の部分については少し言い合いになったが、まずは新規ギルド開設を優先しようということで了承した。

 それにしても、不思議な感覚だ。
 偶然出会った誰かの夢が、僕の目指す道と重なった。

 僕の得意分野の瞬発火力をガラリアは長年求めていて、僕の求めている安定した付呪をガラリアが持っている。

 少しだけ、道が見えてきた気がする。

 僕は別に、一人で完璧な存在にならなくても良い。
 皆で手を取り合って、足りない部分を補えば――。

 ならば僕は、瞬間火力に全力を注ごう。
 爆発するかもしれない不安はガラリアに丸投げしてしまえば良い。
 彼女だって、僕に丸投げしてくるのだから、お互い様だ。

 そして――。

「さあリゼル氏急げ急げー! キミを副ギルド長の座に置くからには、とにかく付呪をしてもらうぞー!」

 エメリアがぎょっとして僕を見る。

 そう、まだ暫定だが僕は副ギルド長となるらしい。

 僕なんかがそんな地位についても良いのか、という感情はもう捨てなければいけない。
 僕の付呪は、計り知れないほど強力だ。
 副ギルド長の座についても、決して見劣りしないだろう。

 それだけの結果を出してきたし、つい先程も見せたばかりだ。

 ガラリアはこの日のために何年も準備してきた。
 僕は彼女の目指す魔導に賭けてみたい。
 僕たちは、同じ未来を目指しているのだから。

 だが感傷に浸るのはこれくらいにしよう。
 大急ぎでやらなければ行けない仕事ができたのだ。

 僕はガラリアに言う。

「さっきも言いましたけど、一ヶ月で壊れた[帝級]の遺物を直すって言ったって……」

 ガラリアの計画はこうだ。
 一ヶ月後に、この〈魔法都市ガラリア〉の祭りが執り行われる。
 この街が作られてから、ちょうど千年という大きな節目のため、たくさんの要人が集まる。

 そして、[商人ギルド]と[冒険者ギルド]が合同で行う様々な芸術品や遺物の展示会に、[帝級]の遺物をぶつけるのだ。

 要人たちに僕とガラリア、そして付呪の力を大々的に宣伝し、[付呪師ギルド]設立の土台とする。

 ……ちなみに、そこに展示される予定の壺やら何やらを壊してしまった、お詫びの意味も含まれている。

 あの後[商人ギルド]のギルド長は頭を抱えていた。
 いやほんと、申し訳ない……。


「リゼル氏、とにもかくにも手を動かせ。時間は待ってはくれないぞ」

「それは……そうですね。まずはやってから考えましょう」

「んあー、時間がいくらあっても足らんぞ。展示品は[帝級]だけでは無いというのに」

「まだどれくらい壊れてるかもわかってないんですよね?」

「うむ、持って来ただけだ。さー大変だぞお。あそうだ、エメリア氏、今暇かね?」

 エメリアはぎくりと肩を震わし、そーっと僕に目を向ける。
 既に何を言われるのかを察し、僕に救いを求めているようだ。

 申し訳ないが、今僕はエメリアを助けることはできない。
 いや、どちらかと言えば僕は今ガラリア側だ。
 何せ、暫定副ギルド長なのだから……。

 というわけで、僕もエメリアを見て言った。

「エメリアさん。今、お暇ですか?」

 エメリアは僕とガラリアを交互に見ると、逃げられないと判断したのかがっくりと肩を落とした。

 良心がちくりと傷んだ気がした。


 ※


 本格的に、僕たちは動き出した。

 朝早くに起き、ガラリアの朝食を作る。
 ガラリアと共に朝食を取る。
 洗い物と片付けと掃除を済ましてから洗濯をし……。

「ガラリアさん人を雇いましょう。たぶんこの時間無駄です」

「うむ。ボクも今そう思っていたところだ。早急に何とかしなくては」

「今日中に人雇えます?」

「むむむ……。なるべく急ぐ」

 それは不安な答えだ。

「本当は僕だって姉さんに手紙出したいの我慢してるんです。急いでください」

「んん、待てリゼル氏。そういうことは先に言いなさい」

「えっ……?」

「良いかねリゼル氏。ボクはキミに、人生の全てをボクの夢に捧げろだなんて言っていない」

「で、でも、忙しいんですよね? 時間が足らないって――」

「これはボクの夢だ。キミの夢では無い。今、たまたまボクとキミの道が重なっているだけなのだ」

「だ、だけど、一ヶ月ってあっという間ですよ?」

「ああそうか。わかった。ではもう一生この工房から出るな」

「うっ……」

 ま、また極端なことを……。
 ガラリアは、ふふんと得意げな顔になった。

「リゼル氏、キミは姉に手紙を書いて、それからどうしたい?」

「……仕送りを、したいです。お世話になったので」

「うむ。ならばそれがキミの最優先で、全速力だ。これ以上急いだらボクは怒るからな」

「……はい、そうします」

 後ろめたさはある。
 だけど……。
 言葉では、上手く言い表せられない。
 ただただ、ガラリアは良い人だと、そう思った。
 まあ、少し性格に難はあるが。

「ついでに[冒険者ギルド]辺りで人探してみます?」

「うーむ……朝昼晩の炊事洗濯、諸々を頼めて尚且現在暇をしていて、更には工房への出入りを自由に許可できる信頼のある人物か。結構厳しいぞ」

「エメリアさんも、付呪の手伝いですからね……」

「んー、そもそもエメリア氏は家事苦手だからな」

「あ、何か意外……」

「姉の方は何でもできるらしいが――」

「へえっ! それも意外!」

 ルグリアは魔法以外はまさに才色兼備なのだろう。
 ……そういえば、ガラリアは彼女が古代魔法を使えることを知っているのだろうか。
 話しておいた方が良いだろうか?

 と、その時エメリアが工房の扉を開け、やってきた。

「ガラリア先生おはようございます」

 彼女はペコリと頭を下げる。
 その隣で、少しばかり不満そうにしていたルグリアが言った。

「ねー、何かエメリアにいきなり呼ばれたんだけど、何?」

 僕の視線はルグリアに釘付けになった。
 ガラリアの目がぱあっと輝く。

「んん! 素晴らしいぞエメリア氏! 千点だ! 千点やろう!」

「はい。私と致しましても、リゼルさんに家事をやらせるガラリア先生には思うところがありましたので」

「なるほど! いつものエメリア氏だな! だが良いぞ! 今という状況ではむしろ良い!」

 僕はルグリアにぺこりと頭を下げた。

「ではルグリアさん、よろしくおねがいしますね」

「……は? 何が? え? どういうこと? エメリア、これ何?」

 ルグリアは、ガラリア工房でしばらくの間働くことになった。
 非常に嫌がっていたが、三人で拝み倒したら何とかなった。

 ……良心が結構痛んだ。


 ※


 次の日。
 ルグリアがぐちぐち言いながらもちゃんと美味しく作ってくれた朝食を食べ終えてから、僕は[冒険者ギルド]に向かった。
 支払われるはずのお金は、まだ用意されていなかった。
 理由は単純で、持ち込まれた素材の数があまりにも膨大だった為だ。

 受付嬢からは何度も頭を下げられたが、それは仕方ない。
 僕は笑顔で受け答えた。

 そして、本命を出す。
 高額な報酬となるため大きな街で、と手渡されていた手形だ。
 こちらは冒険者全体に支払われる報酬とは別枠なのだ。
 ニーニとシィは、僕が冒険者になる前に討伐したので素材の買取分が全額。
 冒険者になった後に倒した八体のベヒーモスと一体のキングベヒーモスの素材は山分けだが、討伐したことそのものへの報酬がある。

 支払われた金額は、立派な一軒家が三軒くらいポンと建つ金額だった。

 僕は少し悩んでから、金額の七割を姉への仕送りに回すことに決めた。

 手紙には、あの最高峰、[帝]を冠する付呪師ガラリアの工房に就職し、住み込みで働いているとの報告から続き、御礼の言葉を何度も書いた。
 書いてる時に少し泣いたのは内緒だ。
 姉には……幸せになって欲しい。

 そうして手紙と仕送りを[配達ギルド]へと渡し、僕はガラリア工房へと戻った。

 すぐにでも[帝級]、古代の甲冑の修復作業に参加しなければ。
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