小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第41話:修復作業

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 ガラリア工房はてんやわんやだった。
 大量の付呪用魔道具は片付けもされずに転がっている。

 十日が経っても[帝級]の異物の修復作業は目標の半分も進んでいない。

「ガラリアさん! これ無理でしょ!?」

 僕はたまらず泣き言を言う。

 全身鎧の装甲一枚一枚の内側に、とてつもない量の付呪が施されている。
 より効果的で特殊なインクを使い、金属に魔力を染み込ませるように付呪をする必要があるのだが、刻まれたルーン文字があまりにも細かくて僕は失敗続きだった。

 そして何より、古代の甲冑だけにかまっているわけにはいかないのだ。
 展示会では、ガラリア工房の付呪技術の高さを誇示する必要がある。
 僕が付呪を施した杖やローブも展示しなくてはならないのだ。
 そうして、ガラリア工房は安定と瞬発力の双方を実現可能になり、魔導師の枠を越え[付呪師ギルド]の設立を宣言する、という流れだ。

「僕が付呪をする時間、ぜんっぜん足らない!」

「泣き言を言うな馬鹿者お! 手を動かせ! [帝]の名を冠する遺物の修復が難しいのはわかりきってたことだろう!」

「ああ、こんなことなら手紙なんて出すんじゃなかった……時間無いのに!」

「なにぃリゼル氏! その言いぐさは聞き捨てならんぞ! キミは今ボクの逆鱗に触れた! ちょっと表へ出ろ!」

「手を動かせって言ったのあんたでしょ!? 今手が離せないので無視しますからね!」

 ちなみにエメリアは早々にダウンし、ぐったりと横になっている。

 とにかく、[帝級]の付呪は一つ一つの時間がかかってしまう。

 上からルーン文字を書くだけでは駄目なのだ。
 流石は最高位を冠するだけあって、構造は複雑だ。
 具体的に言えば、装甲と装甲の間にルーン文字がぎっしりと埋め込まれている。
 その全てを正確に解読し、壊れた部分を判断し、修繕していかなければならない。

 こ、こんなに大変な作業だとは思わなかった。

 短い付き合いだが、ガラリアの人となりは大体わかった。
 彼女は理想主義者だ。
 年をとってる分普段は地に足がついているが、いざという時に理想を優先してしまう。

 そして今が、そのいざという時だ。

 僕が何とか現実的な案を出さなければ……。

「ガラリアさん! 提案があります!」

「聞くだけは聞こう! 早く言いたまえ!」

「修復箇所に優先順位をつけましょう!」

「んなもん最初からやってるわボケナス!」

「そうじゃなくて! 間に合わない部分は捨てます!」

「な、なにぃー! じゃあそこどうするのだね!?」

「一応この甲冑の付呪は大体把握できましたので、代用を作って何とかしましょう!」

「お、おお!? おおお……?」

「継ぎ接ぎみたいになりますけど、間に合わないよりはずっとマシなはずです!」

「んんん……。んんんー! よし、それでいこう!」

 僕たちは大慌てで、古代の甲冑の装甲を一枚一枚ばらばらにし、ルーン文字がまだ生きている場所、完全に死んでいる場所とわけていく。

 地味な仕分け作業のおかげで、少し落ち着いてきた。

「ガラリアさん。これ思ってたより使える部分少ないですね……」

「うむ。でもそれ最初に言ったぞ」

「はい、聞きました。けどいざこうやって並べてみると……」

「うむ。ちょっと不味いな。……さてリゼル氏どうしよう」

「……特に左半身の部分が全然使える場所無いですね」

「うむ。見ればわかる。で、リゼル氏の案は?」

 ガラリアは僕のことを頼りすぎでは無いだろうか……。
 いやまあ、副ギルド長に任命するくらいなのだから実際かなり頼りにされているのだろうけども。

 僕は一頻り悩んでから、叩かれるのを覚悟で案を口にする。

「左側は、隠しちゃいましょう」

「方法は?」

「キングベヒーモスの皮があります。それで……ええと、左側に魔法障壁の付呪とか、防御よりのものを集中させて誤魔化しましょう」

「左半身そのものを盾にしてしまえということか……荒業だな」

「はい、それに[革細工ギルド]に依頼すれば、時間はかなり短縮できます」

「確かにそれなら行けそうだ。……だが良いのかねリゼル氏。あの素材はキミの手に入れた報酬だろう?」

「良いわけ無いでしょ? ちゃんとガラリアさんにお金請求しますからね」

「おお、マジか。キミもだいぶ立派になったな」

「一応副ギルド長なので」

「うむ。……付呪の修繕が間に合いそうに無い部分はどうする?」

「[鍛冶ギルド]に依頼して、似た部品を作って貰いましょう」

「ほう、それで?」

「何とか僕が、元と似たような付呪をしてみます」

「おお、できるのかね」

 [翻訳の魔導書]の力をフルに使えば、似たものを作れる自信がある。

「質は落ちると思いますが、全力でやれば何とか」

 だが、間に合わないよりはマシだろう。

「リゼル氏の付呪は魔力を奪ってしまう危険性は残されているな?」

 それは僕の付呪の欠点だが、この甲冑には当てはまらないと見ている。

「そもそも甲冑自体に途方も無い魔力が宿っているので、何とかなると思います。……たぶん」

 [商人ギルド]で使った大きな[世界樹の杖]よりも、遥かに強大な魔力を宿した[ロード級]の遺物だ。
 おそらく大丈夫だろう。
 ……大丈夫であってほしい。

「そこで予防線を貼るなリゼル氏。良いぞ、その案で行こう」

 と、ルグリアが扉を開ける。

「ねー、お昼できたんだけど」

「おおルグリア氏! 今からちょいと[革細工ギルド]と[鍛冶ギルド]と[商人ギルド]に行ってきてくれないかね!」

「……それちょっとじゃなくない?」

「僕からもお願いしますルグリアさん。ちょっと行ってきてください」

「絶対ちょっとじゃないし……」

 ともかく、二人で拝み倒すと、ルグリアは渋々ながらも出かけていった。


 ※


 更に十日がたった。
 エメリアは今日もぐったりしているが、もう見慣れてしまった。
 彼女はどうも細かな作業が苦手らしい。

 ふと、ただ一人ぼーっと僕らの様子を見ていたルグリアが言った。

「ねえ。その鎧さ、飾るだけならそこまでしなくて良いんじゃないの?」

「いやいやルグリアさん、飾るだけじゃ無いですから。ちゃんと性能を見せる必要があるからこうやって頑張ってるんです」

「ふーん……。誰が着るの?」

「えっ? それは……」

 当然、僕は駄目だ。
 何も、展示するのは[帝級]の遺物だけでは無いのだ。
 杖やローブを展示し、売り込まなければならない。

 ガラリアも駄目だろう。
 彼女には、[帝級]のために割り当てられた特別展示室にいてもらう必要がある。

 ……では、エメリアか?

 僕がエメリアに視線を向けると、横からガラリアが口を挟んだ。

「エメリア氏には、キミと一緒にいてもらう。[黄金級]の冒険者の名声は必要だ」

 なるほど。
 というかそもそも僕の知名度は一部の冒険者に噂で広まっている程度だ。
 展示会には冒険者以外にも大勢人が来る。
 大勢の人々に、おお、と思わせる肩書が僕には無いのだ。

 と、僕はルグリアを見た。

 彼女はぎくりと身を震わせた。

 ガラリアが言う。

「安心したまえリゼル氏。ボクは最初からルグリア氏に合わせてサイズを調整してある」

「げぇ……。うそでしょ……」

「流石ガラリアさん、安心しました」

「安心しないでよ……。アタシこの臭そうなの着るの?」

「い、一応掃除しました」

「でもこの部屋なんか臭いんだけど……」

「え、そうですか?」

 僕は自分の服の匂いを嗅いでみるが、わからない。

 また、ガラリアが口を挟んだ。

「安心したまえルグリア氏。この匂いは恐らくボクらの体臭だ」

 そういえばお風呂全然入れてないのを思い出した。
 だが仕方あるまい。
 とにかく時間が無いのだ。

「アタシ、やっぱ帰りたい……」

 消沈したルグリアに僕とガラリアはまたひたすら拝み倒した。

 そんなことを繰り返しながら、気がつけば展示会は明日にまで迫っていた。
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