小説版「付呪師リゼルの魔導具革命」

清見元康

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第二章

第42話:夢の前夜

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 小鳥のさえずりが聞こえる。

 もう少し、もう少しだけ寝させて欲し――。
 僕はガバっと体を起こし、周囲の様子をうかがった。

 ここは、ガラリア工房の作業場だ。
 一面に魔法ペンやインクと工具諸々、[帝級]の鎧から引っ剥がした破片が散らばっている。

 昨晩の記憶が曖昧だ。
 修復作業は、確か……。

「ガラリアさんに任せて、僕は革のマントの付呪をして……」

 窓から差し込む朝日に、灰色の甲冑が照らされていた。
 左肩には、キングベヒーモスの皮で作られたマントが装着されている。

 と、作業場の扉が開かれる。

「起きたかリゼル氏。おはよう」

 のそのそとあくびをしながら入ってきたのはガラリアだった。

「すみませんガラリアさん。僕寝ちゃってたみたいで……」

 僕が寝ている間、きっとガラリアは死ぬ気で頑張っていたのだ。
 だと言うのに、僕は途中でダウンしてしまった。
 情けない。

「気にするなリゼル氏。キミが力尽きたのは三十分くらい前だ。ちなみにボクはトイレ帰り」

 ……思っていたほど情けなくなかった。
 むしろ大健闘では無いか。
 よくやったと自分で自分を褒めてやりたい。
 甘いものをたくさん食べて、今日くらいは一日中ダラダラしたい……。

 だが、そうはいかないのが現実だ。

「見たまえリゼル氏」

 と、ガラリアが僕の隣に並び、朝日に照らされる灰色の甲冑を見る。

「ボクたちの夢の結晶だ」

 ガラリアの夢、[付呪師ギルド]――。

 この一ヶ月、僕は彼女の夢の熱に浮かされ、ひたすら遺物の修復作業に追われた。

 だが、危惧すべき点がある。

 僕はガラリアを見、臆すること無く言った。

「[魔法学校]と[魔術師ギルド]は、認めないと思います」

 現在、付呪師という職は魔導師という大枠の中の一つに過ぎない。
 そこから完全に独立するということは、彼らからしてみても面白いことでは無いだろう。

 だが、ガラリアはふふんと得意げな顔になる。

「想像力を働かせたまえよリゼル氏」

「……以前あなたが言ったことでしょ。内側から息のかかったものを潜り込ませて、支配するやり方」

「ああそうだとも。だがなリゼル氏、それと同じやり方を、この街で、このボクがやらなかったと思うのかね?」

「えっ……」

「この街の[魔法学校]学長、そして[魔術師ギルド]のギルド長はどちらもボクの教え子だよリゼル氏」

 僕は言葉を失った。
 凄いというか恐ろしいというか……。
 とりあえず彼女が味方で良かった。

「ああそうだリゼル氏、実は昨晩憲兵隊から連絡あったのだが」

「憲兵、ということは[暗殺者ギルド]の件ですか?」

「ん、そうだ。良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたいかね?」

「その質問意味無いですよね? どうせ両方言うんですし」

「リゼル氏はボクに容赦無いなー」

「容赦して欲しいんですか?」

「いや、されたら困る。論をぶつけ合わねば発見は生まれないというのがボクの持論だ」

 不思議と、ガラリアに対して遠慮する気持ちが微塵も浮かばない。
 出会いのせいで最初の好感度が底値だったのも理由だろう。
 だが今は、きちんと敬意を持っているし、心から尊敬している。

 それなのに、こうも気安く悪態をつけるてしまえるのは何故だろう。

 少しばかり考え、僕は理解した。

 たぶん、ガラリアは僕の友達なのだ。

 気安く話せて、くだらないことも言い合える、そんな友達――。

「では結論だけ言おう。憲兵隊は[暗殺者ギルド]の拠点制圧に成功した。だが数名を取り逃がした」

 ――数名。

「……それって、危険ですよね?」

「ああそうだ。追いつめられたネズミは怖いぞリゼル氏。まともな思考を失い、自らの命すらも賭金にしだす」

「……諦めて故郷に帰ってくれたり、しないですかね」

「その可能性もあるだろう。だが、この街が故郷だったらどうだね?」

「それは――」

 とても、恐ろしいことだ。

「捕まるのは時間の問題。逃げることもできない。さあ、彼らの次の手は何だろうねリゼル氏」

 帰る場所を失った、暗殺者。
 このままでは終われないと、彼らが最後に縋るもの――。

 拠点を失った、数名の暗殺者。

 ……展示会が始まってしまえば、警備の数から考えて暗殺者がガラリアに近寄ることはできないだろう。
 国家の要人だって来るのだ、変装を見破る魔法程度のことなら当たり前のように皆やっている。

 展示会は、明日だ。

「……ガラリアさんは、必ず守ります」

「キミは生来の色男だな」

「茶化さないでください」

「憲兵隊も動いているのだ。キミに何でもかんでも背負わせるつもりは無い、が――」

 ガラリアは一度僕を真っ直ぐに見る。

 何かを探るような、訴えかけるような目だったが、僕は目を逸らさない。
 絶対に、引くつもりは無い。
 友達の命なのだ。
 もう、後悔は嫌だ。
 できることを全力でやると、心に決めたのだ。

 やがて、彼女は苦笑した。

「リゼル氏が意外と頑固なのは、この一ヶ月で良くわかっている。だから、頼んだよ」

「はい。いつでも戦えるようにしておきます」

 とは言え、僕に何ができる。
 どこまで、できる――。

 数名の憲兵隊は、既に工房の外で警備についてくれている。

「リゼル氏は、今夜だと睨んでいるようだな」

「僕ならそうするってだけです」

「展示会の際に狙ったほうが、メッセージにはなるのでは無いか?」

「追いつめられたネズミは怖いと言ったのはあなたです」

 この一ヶ月で、わかったことがある。
 ガラリアは、突発的な事態に弱い。
 性格的な問題なのだろう。
 いざという時に、周りが見えなくなるタイプの人なのだ。

 僕が、何とかしなければならない。

 憲兵隊の応援を増やしてもらうか?
 だが、相手は暗殺者だ。
 それもこの街出身かもしれないとなれば、地の利はあちらにある。
 僕では、憲兵隊の中に暗殺者が紛れ込んでいても気づくことはできない。

 と、ルグリアが作業場の扉を開ける。

「ねー、ご飯できたけど。……あ、完成したんだ」

 頼れる相手、か――。

「ルグリアさん、少しお話があります」

「うげぇ……このパターン、アタシやだ……」

 そうして、僕はダウンしていたエメリアも起こし、現在置かれている状況を話した。

 何が何でも、ガラリアを守らなくてはならない。
 友の夢が、もうじき叶おうとしているのだから。
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