コメディあるいはトラジティ

ネツ三

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中央芝生でランチ

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 時計台の前で階段に腰掛けていると、美彌が大きなトートバッグをもってやってきた。
今日は芝生で一緒に昼食を食べることになっていた。
中央芝生は、サークルの集まりや、寝転がるカップルや一人で本を読む人、フリスビー、バドミントンをするグループなどで賑わっていた。
空いているスペースを見つけて、芝生の上に美彌が持ってきたシートを敷いて並んで座った。
トートからバスケットを取り出し、開くとサンドイッチがたくさん、きれいに詰められていた。
「さあ、どうぞ」
「すごいごちそう、たいへんだったでしょ」
「早起きして六時から作ったの」と言いながら、おしぼりを常二に渡す。
「ありがとう、こんなにたくさん」
「がんばったけど、味見てみて」と一切れ差し出した。
「うん、おいしい」
「本当?うれしいな」
 半分ほど食べ終えた頃、柴崎が常二を見つけて声をかけてきた。
「常二、紹介してよ」
柴崎が二人の前に立つと、背の高さが一段と感じられる。
柴崎は高校時代にアメリカンフットボールをやっていて、身長は百九十センチメートル近くある。
見上げる感じになって、大きさに驚く美彌に、
「同じゼミの柴崎君。でかいでしょう、こちらが阪上美彌さん」
「やっとですよ。今まで僕らの間でこいつが美人をつれてるとうわさになっていて」
「柴崎です、よろしく」そういって尖ったあごに特徴のある柴崎は頭を下げた。
「こちらこそよろしくね、よかったら食べていって」そう言って美彌は柴崎にサンドイッチを差し出す。
「ええ、いいの?むちゃうまそう」柴崎は一口で食べてしまった。
「うまいわー」
「こんなうまいものつくってもらえるお前がうらやましいわ」と言いながら常二に目で合図する。
「なんや、目にゴミはいったんか」
「ほら、あれや、忘れたんかあのはなし」
常二はやっと、美彌に友達を紹介してもらいたいと言っていた話を思い出した。
「美彌、柴崎に合いそうないい彼女、いないかな。誰か紹介してあげて。見た目はごついけど、いい奴なんや」
「どんな人がタイプなの?」
「かわいくて、小柄な人」
「背の低い女子が好みやねん、こいつ。自分はでかいのに」
「凸凹カップル?」美禰はまじめに言うのだが、常二は思わず吹き出した。
「絶対、頼みますよ」と言って去る柴崎を二人で見送る。
「いいやつなんやけど、見た目がごついから損してる」
「阪急電車で、競馬の開催日に、柴崎が車内で煙草を吸ってる男に出会って」
「それで」美彌は、身を乗り出した。
「柴崎がじっとその男をにらんでいたら、男が気づいて、あわてて煙草を口から落として、次の駅で降りて逃げていったらしい」
「本当?」美彌は笑いながら常二の膝をたたいた。
「根はいい人なんや」常二は本心でそう言った。

 食べ終えたあと、芝生に寝転がって空を見た。
あざやかな青色に晴れた空は、キャンパスが六甲山麓の東端の丘陵地にあるせいか、街で見るよりも近く感じた。
白い時計台が、青空と流れる白い雲と絶妙に釣り合っていて、美しい。
「あたし、あなたに会えてよかった」
常二の横でつぶやいた美彌の横顔は、常二には一瞬、なぜか寂しそうに見えた。

 美彌は、時計台の図書館で常二のレポート書きにつきあってくれた。閉館時間まで、参考文献を読みあさり、レポート用紙に写す作業をする常二のそばで、自分の勉強をしながら常二が終わるのを待っている。
常二が元町のライブハウスのアルバイトに入っている夜は、美彌は一人で店に来て、早上がりの常二を待っている。九時過ぎに仕事を終えると、美禰と連れだって元町の山手にある路地裏の小さな店に、ご飯を食べに行った。そして阪急電車の各駅停車で、夙川まで一緒に乗って帰り、降りる美彌を電車の窓から見送る。美彌は大股でホームを歩きながら大きく手を振る。電車が美彌を追い越していく。美彌は常二にずっと手を振り続ける。

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