15 / 19
美和の婚約
しおりを挟む
学食のカフェで美彌と一緒に後期の成績表を見た。
後期試験は、毎日、美彌と一緒に時計台の図書館に籠もって勉強した。
アルバイトに追われる生活の中で、常二は無事進級できる単位を取っていた。常二は安心とするとともに、この数ヶ月の頑張りに満足でもあった。
「美彌の成績見せて」
美彌は白い歯を見せて、成績表を常二に渡した。
「えっ、全部優やん」
「一年の時も全優よ」
「文学部で一番の成績だったから、大学から奨学金をいただいたわ」
美彌はさらりと言う。
「いくらもらったの?」
「六十万円」
「六十万?そんなにもらえたの?うらやましい」
「それがあなたの所に行ったじゃない」
美彌に借りて後期の授業料を支払った金のことだ。
「そうだったのか」
常二はこの女には、絶対にかなわないなと思った。
「ねえ、次の日曜日、仕事あるの?」
「次の日曜は、空いてる」
美彌は、美和から新居に引っ越したので遊びに来ないかと招待されたので、一緒に行きましょうと誘った。
「お土産は私が用意しておくから」と美彌が言った。
その日は夙川から乗り込んできた美彌と落ち合い、三宮まで出て、JR神戸線で塩屋まで行った。駅から山側に少し歩くと、美和の新居に着いた。
新居と言っても築年数の経った大きな一軒家だった。
常二は美彌と顔を見合わせた。
「えらい大学に遠いところやな」常二が不審に思って、ささやくと、美彌は、
「美和の実家からも遠いわ。御影やから」と言った。
呼び鈴を鳴らすと、美和が笑顔で出迎えた。
応接間に案内されて美彌と並んで座った。
「今日は遠いところまで来てくれてありがとう」
美和は、ずっと笑顔で、目が輝いている。本当にうれしそうに見える。
「お茶でも飲んでゆっくりしていてね」
奥に入った美和を見送りながら、美彌が、「美和、きれいになったでしょう?」と言う。
「そう、前から美人だったけど、一段と色気が増したというか、艶っぽいね」と常二が答えた。
しばらくすると、ドアが開いて美和が男性を連れて入ってきた。
「紹介するわ、婚約したの、私たち」
美和が紹介する男性の顔を見て、常二と美和は同時に「えーっ」と声を出してしまった。
その男性は、常二たちの大学の法学部の助教授、山田先生だったからである。
この先生の民法の講義を今年、常二と美彌は一緒に受けていたのだ。
常二は、にわかに理解できなくて、美和に「どういうこと?」と間抜けな質問をしてしまった。
「私たち、今年の秋に結婚することになったの。それまでは婚約中の身よ」とうれしそうに答えた。
「おめでとう、美和」美彌がすかさず言った。
「おめでとうございます」常二も続けていった。
「ありがとう」美和はそう言って、まだ大学の関係者には話していないと言った。
「とりあえず、座って」と言う美和のことばで、四人ともソファに腰を下ろした。
「先生、おめでとうございます」美彌はそう言って、改めて丁寧にあいさつした。
「ええ、ありがとう」山田先生も、笑顔で答えた。
講義で見る顔とは違って、穏やかな顔をしている。
講義で遠くから見ているだけの先生の顔をこんなに間近で見るのは、不思議な感じがする。
美和が話してくれた二人のいきさつはこういうことだ。
山田先生の講義を聴くうちに、美和は先生の研究室を訪れて質問をするようになった。最初は質問のためだったが、それが毎日のことになり、しまいには先生にお弁当を作って届けるようになった。
山田先生は独身で、同じように研究室を訪ねてくる女子学生も他に何人も居たのだが、美和の美貌と積極的な訪問が、先生のお堅いガードを崩したということだ。
二人でお忍びのデートを重ねるようになり、先生が今年の四月から教授に就任することが決まって、それをけじめにして婚約したそうだ。
「じゃあ、美和は大学教授夫人になるのね」
「そうなの。驚いたでしょう?」
「誰かいい人ができたのはわかってたけど、山田先生だとはわからなかったわ」と美彌は言った。
紅茶とケーキをいただき、二人の馴れ初めや、デートのエピソードを聞いた。
阪神間では学生に見られてしまうので、デートは主に京都や奈良まで出かけていたそうだ。
古寺巡りも恋する二人には、しっとりとした時間を過ごせていいものかもしれない、と常二は勝手に考えた。
美和は、東京でテレビ局のアナウンサーを目指すつもりだったが、やめて家庭優先にすると言った。結婚後も大学は続けて、卒業するとも言った。
美和は一年の時に、全国誌の週刊誌の表紙に、顔写真が掲載されたことがある。テレビ局の女子アナウンサーにも引けを取らない美貌である。大学教授夫人でもじゅうぶんにやっていけると常二は思った。
常二が先生に、美和とけんかをすることがありますかと尋ねると、
「年の差が大きいので、けんかになりません」と言った。
「おいくつ違うのですか」常二が聞くと、美和が、
「十七歳の差よ」と言った。
「十七歳」美彌と常二が声をそろえた。
「でも先生は若々しく見えるから、そんなに離れているようには見えませんよ」常二がフォローした。
「先生、美和さんを怒らせると、大阪湾…」と常二が言いかけると、
「やめなさい」
美彌が常二の横腹をつついた。
四月になるまで伏せといてねという美和は、「結婚式には二人を招待するから、ぜひ来てね」と言って、辞去する常二と美彌を見送った。
塩屋駅までの坂道を下りながら、
「美和、幸せそうだったね」としみじみ言った。
「そうだね、よかったね」
常二の方をちらっと見て、
「結婚かあ、うらやましいわ」
常二が黙っていると、
「ちゃんと聞いてた?」
「ねえ、嘘でもいいから、いつか、その時が来たら結婚しよう、ぐらい言って」
「嘘はよくないでしょ、大事なことなんだから」
「それに、美彌に嘘をついたら、大阪湾に沈められる」
「阪上家の掟よ」美彌がすかさず言う。
「これからのこと、一緒に考えていこう」
美彌は二重の目を大きく見開いた。
「本当?」
「本当だよ」
美彌は、常二の腕をつかんで、
「うふっ」と笑った。
後期試験は、毎日、美彌と一緒に時計台の図書館に籠もって勉強した。
アルバイトに追われる生活の中で、常二は無事進級できる単位を取っていた。常二は安心とするとともに、この数ヶ月の頑張りに満足でもあった。
「美彌の成績見せて」
美彌は白い歯を見せて、成績表を常二に渡した。
「えっ、全部優やん」
「一年の時も全優よ」
「文学部で一番の成績だったから、大学から奨学金をいただいたわ」
美彌はさらりと言う。
「いくらもらったの?」
「六十万円」
「六十万?そんなにもらえたの?うらやましい」
「それがあなたの所に行ったじゃない」
美彌に借りて後期の授業料を支払った金のことだ。
「そうだったのか」
常二はこの女には、絶対にかなわないなと思った。
「ねえ、次の日曜日、仕事あるの?」
「次の日曜は、空いてる」
美彌は、美和から新居に引っ越したので遊びに来ないかと招待されたので、一緒に行きましょうと誘った。
「お土産は私が用意しておくから」と美彌が言った。
その日は夙川から乗り込んできた美彌と落ち合い、三宮まで出て、JR神戸線で塩屋まで行った。駅から山側に少し歩くと、美和の新居に着いた。
新居と言っても築年数の経った大きな一軒家だった。
常二は美彌と顔を見合わせた。
「えらい大学に遠いところやな」常二が不審に思って、ささやくと、美彌は、
「美和の実家からも遠いわ。御影やから」と言った。
呼び鈴を鳴らすと、美和が笑顔で出迎えた。
応接間に案内されて美彌と並んで座った。
「今日は遠いところまで来てくれてありがとう」
美和は、ずっと笑顔で、目が輝いている。本当にうれしそうに見える。
「お茶でも飲んでゆっくりしていてね」
奥に入った美和を見送りながら、美彌が、「美和、きれいになったでしょう?」と言う。
「そう、前から美人だったけど、一段と色気が増したというか、艶っぽいね」と常二が答えた。
しばらくすると、ドアが開いて美和が男性を連れて入ってきた。
「紹介するわ、婚約したの、私たち」
美和が紹介する男性の顔を見て、常二と美和は同時に「えーっ」と声を出してしまった。
その男性は、常二たちの大学の法学部の助教授、山田先生だったからである。
この先生の民法の講義を今年、常二と美彌は一緒に受けていたのだ。
常二は、にわかに理解できなくて、美和に「どういうこと?」と間抜けな質問をしてしまった。
「私たち、今年の秋に結婚することになったの。それまでは婚約中の身よ」とうれしそうに答えた。
「おめでとう、美和」美彌がすかさず言った。
「おめでとうございます」常二も続けていった。
「ありがとう」美和はそう言って、まだ大学の関係者には話していないと言った。
「とりあえず、座って」と言う美和のことばで、四人ともソファに腰を下ろした。
「先生、おめでとうございます」美彌はそう言って、改めて丁寧にあいさつした。
「ええ、ありがとう」山田先生も、笑顔で答えた。
講義で見る顔とは違って、穏やかな顔をしている。
講義で遠くから見ているだけの先生の顔をこんなに間近で見るのは、不思議な感じがする。
美和が話してくれた二人のいきさつはこういうことだ。
山田先生の講義を聴くうちに、美和は先生の研究室を訪れて質問をするようになった。最初は質問のためだったが、それが毎日のことになり、しまいには先生にお弁当を作って届けるようになった。
山田先生は独身で、同じように研究室を訪ねてくる女子学生も他に何人も居たのだが、美和の美貌と積極的な訪問が、先生のお堅いガードを崩したということだ。
二人でお忍びのデートを重ねるようになり、先生が今年の四月から教授に就任することが決まって、それをけじめにして婚約したそうだ。
「じゃあ、美和は大学教授夫人になるのね」
「そうなの。驚いたでしょう?」
「誰かいい人ができたのはわかってたけど、山田先生だとはわからなかったわ」と美彌は言った。
紅茶とケーキをいただき、二人の馴れ初めや、デートのエピソードを聞いた。
阪神間では学生に見られてしまうので、デートは主に京都や奈良まで出かけていたそうだ。
古寺巡りも恋する二人には、しっとりとした時間を過ごせていいものかもしれない、と常二は勝手に考えた。
美和は、東京でテレビ局のアナウンサーを目指すつもりだったが、やめて家庭優先にすると言った。結婚後も大学は続けて、卒業するとも言った。
美和は一年の時に、全国誌の週刊誌の表紙に、顔写真が掲載されたことがある。テレビ局の女子アナウンサーにも引けを取らない美貌である。大学教授夫人でもじゅうぶんにやっていけると常二は思った。
常二が先生に、美和とけんかをすることがありますかと尋ねると、
「年の差が大きいので、けんかになりません」と言った。
「おいくつ違うのですか」常二が聞くと、美和が、
「十七歳の差よ」と言った。
「十七歳」美彌と常二が声をそろえた。
「でも先生は若々しく見えるから、そんなに離れているようには見えませんよ」常二がフォローした。
「先生、美和さんを怒らせると、大阪湾…」と常二が言いかけると、
「やめなさい」
美彌が常二の横腹をつついた。
四月になるまで伏せといてねという美和は、「結婚式には二人を招待するから、ぜひ来てね」と言って、辞去する常二と美彌を見送った。
塩屋駅までの坂道を下りながら、
「美和、幸せそうだったね」としみじみ言った。
「そうだね、よかったね」
常二の方をちらっと見て、
「結婚かあ、うらやましいわ」
常二が黙っていると、
「ちゃんと聞いてた?」
「ねえ、嘘でもいいから、いつか、その時が来たら結婚しよう、ぐらい言って」
「嘘はよくないでしょ、大事なことなんだから」
「それに、美彌に嘘をついたら、大阪湾に沈められる」
「阪上家の掟よ」美彌がすかさず言う。
「これからのこと、一緒に考えていこう」
美彌は二重の目を大きく見開いた。
「本当?」
「本当だよ」
美彌は、常二の腕をつかんで、
「うふっ」と笑った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。
春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる