過去が繋ぐご縁

朝倉真琴

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番外編

2/22 猫の日

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side 寛昭ひろあき
 仕事の修羅場を抜けようやく定時帰りできる日が来た。マンションの廊下にいい香りが漂っている。今日は知佳ちかに夕食を作ってもらう約束になっていた。

  部屋に入り声をかけると、エプロン姿の知佳がパタパタと音を立てながら走り寄ってくる。

「寛昭さんおかえりなさい。」

 新婚家庭のようでにやけそうになる。頬を染めて可愛い恋人を抱き締め頭を撫でようとすると……頭には小さな三角の耳。ぴるぴると震えながら伏せられ撫でられるのを待っているようだ。

 思わず頭を撫でると、知佳が嬉しそうに猫のようにすり寄る。腰に回した手にやわらかくふかふかした細長いものが巻き付いてくる。

 うそだろ?!何で知佳に猫耳と尻尾が?!

 「寛昭さんどうしたのにゃん。」

 にゃん?!なんて破壊力!知佳の黒髪にフィットする黒い猫耳と黒い尻尾に目眩がする。心なしか、エプロンから覗くトップスもいつもより大胆に開いていて知佳のたわわな胸の谷間が見えている。思わず喉が鳴る。知佳にすりすり甘えられて、頬を擦り付けられる。これはもう、誘われているよな?知佳を壁に追いやってキスをしようとしたら……突然、後頭部に鈍い痛みを感じた。気づけばオレは床に転がっていた?!

 「寛昭さん大丈夫?ふらふらしてソファーに倒れて寝ちゃったから少し寝てもらってたけど、ソファから落ちちゃった?頭打ってない?」

 心配そうに俺が怪我をしていないか体を確認する知佳の姿が見える。頭に猫耳はない。エプロンから見えるトップスから谷間も見えない。願望が見せる夢か……えげつないな。

「ん。大丈夫そうかな。今日はね!寛昭さんにご褒美がありまーす!じゃじゃーん!」

 後ろを向き、ごそごそとした知佳がこちらを向くと黒猫耳の知佳が再び目の前に現れた!くるんとまわってちょろっと出てきた長い尻尾を両手で持ち、こちらを見ている。可愛すぎるんだけど……まだ夢の続き?慌てて頬をつねるが痛みはある。

「あの?……やっぱり喜ばないよね?由加理が猫の日だから寛昭さんを癒してあげて!って『絶対に喜ぶから御褒美だよってやってみな!』ってプレゼントしてくれたんですけど……。」

 羞恥で首まで真っ赤になり慌てて猫耳カチューシャを外そうとする手をつかんで阻止。抱き締め、由加理ちゃんのアシストに感謝する。

「知佳可愛い。癒されるよ。今週は仕事ばっかりでデートも家とかご飯まで作ってくれてありがとう。やっと乗りきれた。来週は美味しいご飯食べに行こう。」

 そう知佳に囁きおでこに頬に最後に唇にキスを落とした。

 そこまではよかった、何故かキスの後に頭を撫でられて嬉しそうにした知佳が、紙袋からいそいそと豹柄の猫耳と尻尾を出してきて……。

「寛昭さんのもあるんです!色柄は違いますけどお揃いですね。きっと似合います。猫の日は恋人同士で猫耳で!なんて恋人いたことないから知らなかった。」

 なんて可愛いことを言いながろ差し出すもんだから、断りきれず、豹柄の耳を着けて映画鑑賞をすることになってしまった。二人揃って由加理ちゃんのオモチャにされてしまっていることに気付く。

 ソファーでお互いの肩を触れ合わせながら映画を一本観ることにようやく慣れてきたような知佳が、俺の腰に手を回して尻尾を着ける……知佳の柔らかさを腰回りに感じる。その上、頭にカチューシャを着けるためにソファーに座る俺の横からソファーに膝立ちしながらカチューシャの位置を整えていて、俺の鼻先には知佳のたわわな胸が……ご褒美か拷問か。

「猫耳もいいけど俺に構って?」

 無防備な彼女の腰にそっと手を添えると体が跳ねて、少し体が離れようと動く。そっと腰を引き抱き寄せ、そのまま膝の間に向かい合わせに座らせると、視線をこちらに向けた知佳はやっと距離感に気づき耳や首まで赤くなっている。

 うるうるとした目で見つめてくる知佳にそっとキスをして抱き締めた。おずおずと知佳が手を回してくるが、その手は震えている。俺の理性を総動員する日々はもう少し続きそうだ。

 今日は、このままで……と後ろから抱き締める形で映画を観た。互いの体温が心地よい。始めは緊張していた彼女も、映画が終わる頃には体重を俺に預けている。愛しくて可愛くて、暴走しそうになった。だが、きゅる……と可愛いお腹の虫が鳴き、俺も空腹に気付き二人で笑いながら作ってくれた食事を温めて食べた。二人で囲む食卓はあたたかく、知佳の作る料理を独占できる幸せを感じる。

 会話には、やはり彼女の大好きな先生が出てくるので、恋心ではないとは言っても、子供心に気付けないほどのほのかな思いがあったのではないかと嫉妬心がわく。俺に集中させたくて、知佳の口の端を指で拭う。ソースついてたよ?ってペロッと口端を拭った指を舐めると、焦った知佳が手を口にやり箸を落とした。慌てて屈んで拾う知佳の白いうなじはまた真っ赤になっている。

 「知佳の中、俺でいっぱいになった?」

 ニヤリとしながら聞くと頬を膨らませながら怒ったアピールをしているが、恥ずかしすぎて怒りきれていないその姿も愛くるしい。おいで!と手を広げるとおずおずと知佳が俺の腕の中におさまってくる。甘くていい香りがする知佳をぎゅっと抱き締めた。

「知佳大好きだよ。愛してる。」

「わ……私も寛昭さんが大好きです。愛して……ます。」

 恥ずかしがり顔をすぐ胸元に埋めてしまう知佳の顔をあげると、知佳がジッとオレの目を見つめた後に、震えるまぶたをそっと閉じた。
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