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第3話
しおりを挟む次の日。剛佐は再び童とまみえた。偶然に、である。
宿場町を行き交う人に交じり、剛佐の行く手から童が歩いてきていた。肩には何やら、薦にくるんだ長い束をかついでいる。
剛佐はそちらへ駆け出しかけた。が、行ってどうするのか自分でも分からず、足を止める。
目を伏せ、建物の陰に入ろうとしたのに。童は向こうから声をかけてきた。
「おっさん。昨日は世話になったの。怪我ぁないか」
からりと笑う童の腰には、変わらず何本かの脇差があった。その一つは剛佐のものだ。
「む、うむ……」
言葉を濁す剛佐に構わず、童は喋った。
「そらぁ良かった。わしゃぁほれ、小商いに下りてきたとこじゃよって。今日はお陰でうまい飯が食えそうや。有難う」
童は笑って、かついだ束を軽く叩く。薦の下には幾本もの刀が見えた。無論その一つには見覚えがある。
顔に熱を感じながら、道ゆく者の視線を感じながら、剛佐は言っていた。
「……なぜ、刀を狩る。弁慶のひそみに倣おうとてか、武士に恨みでもあるか」
童は息をこぼして笑う。
「そんな大仰なもんやない、恨みがあるなら命も取っとる。楽に飯食うためよ」
かつぎ直した刀が音を立てる。
「どいつもこいつものんびりした太刀や、あくびしながら片づけられる。それに武士だけ襲うんなら、後々面倒にはならん。斬り剥ぎされたなんぞお上に言われんけぇの。恥の体面のとて、お武家は色々あるらしいよって」
剛佐は目を見開き、口を開けていた。
歯を噛み締める。震える手を握り締める。叩きつけるように、頭を下げていた。
「再びの……再びの立ち合いを、所望いたす」
童は鼻で息をつく。
「言うても。太刀もなかろうし、一度拾うた命ぞ。二度捨てに来ることも――」
下げたままの剛佐の顔は、硬く歪んでいた。
「所望いたす」
「お断りじゃ。銭も刀ももろうとる、他に取るもんなかろうが」
「命を」
かっ、と童が喉を鳴らす。
「呆気が。命は買えんが、売れんのじゃ。わしの商いにならん」
上げた顔を、ずい、と剛佐は寄せる。鼻と鼻とをぶつけるように、目玉の奥をにらむように。かぶりつくように、口を開いた。
「銭も刀も用意いたす、立ち合いを。十日後、日の出、昨日の場所にて」
言い捨て、剛佐は背を向ける。
背中ごしに、ため息の後で声が聞こえた。
「せいぜいたんまり持って来ときな。まけてやる気はないけぇの」
町外れまで歩き、剛佐は棒切れを拾った。昨日手にした枝だった。
振るった。満身の力を込めて。何度もそうした後、近くの木立へ駆け、木へと打ちかかった。切り倒そうとでもいうかのように、何度も何度も。
先ほど童と話したとき。つかみかかりたかった。絞め殺したかった、あの場で。そうしていれば、死んでいたのは剛佐の方だったろうが。
何故だ、と問うた。何故敗れたのか、立ち合いを商いなどと言う者に。何故あのような小童に。
そして、何故。自分はあの童ではないのか。あれほどの才を、全てを鼻で笑えるほどの才を持った者でないのか。
剛佐は何度も木を打った。それはもはや修行ではなかった。
やがて音を立て、棒が二つに折れ飛んだとき。荒い息の下、剛佐は腹の奥で笑った。もしも童の首が飛んだなら、同じ笑いが漏れるのだろう。そう考えて、また別の棒を探した。
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