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死の魔王
第2話 生きた死
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森をさまようヴァルゴスは、孤独の中で自らの存在意義を問い続けた。
村を追い出されてから、彼は食べることも眠ることもなく、何の目的もなく歩き続ける。数日が経過して、月明かりの下で静かに瞑想していると、突然周囲の空気が凍りつくように冷たくなった。
「お前がヴァルゴスか……」
低く響く声が闇の中から聞こえた。
ヴァルゴスは目を開け、その声の方向を見ると、黒いローブを纏った巨大な存在が立っている。
骨に皮膚の張り付いたミイラのような外見、顔も髑髏と皮膚が張り付いており、虚ろな眼窩は深紅に輝いている。黒い外套のほかには、歪んではいるが巨大な鎌だとわかる物が握られていた。その不気味な鎌は闇の中でも薄っすらと紫色に光っており、農具というよりも処刑人の刀のような印象を与える。
「誰だ?」
ヴァルゴスは問いかけた。
その言葉に恐怖はなく、わずかな疑惑と困惑の色含まれている。
「私はモルディナ」
存在はゆっくりと近づきながら答える。
ヴァルゴスはその名に、どこか懐かしさを感じた。
この時の彼は知らなかったが、モルディナは古代エルフ語で「魂の管理者」を意味している。
「何故、私の前に現れた?」
モルディナはミイラのような顔に薄い笑みを浮かべた。
「お前は生と死の狭間に生きている。その力は私と共鳴するものだ。お前の内なる力を制御する力を授け、我が使徒としようと思ってな。無論、断っても良い、そうなれば遠くないうちに生と死の力に耐えられずに消えることになるだろう」
その言葉に嘘は無いように思えたが、ヴァルゴスは相手にそれ以上の意図を感じた。取るに足らない者の前に、わざわざ降臨するとは思えなかったからである。その意図を読んだように、実際に心を読んだのかもしれないが、モルディナは説明する。
「水に落ちてもがく虫けらを哀れに思ったことはないのか? 余裕があれば、助けてやろうと思ったことは? 他の管理者は放っておけと嘯くが、我は我の感じたままに振舞っているだけよ。水から救い上げて助けた後、その虫がどのような行動をするかまでは気にもせん。無論、虫からの礼なども期待しておらんよ」
ヴァルゴスは幼少期のことを思い出して、静かに頷いた。
死をもたらすものと忌み嫌われていたが、自分も過去に池に落ちた蜘蛛を見つけて助けたことがあったのだ。後日その蜘蛛が蝶を喰らっている姿を見たことも思い出した。
その時、自分はどのような感情を抱いた窯では思い出せなかったが、村の子供たち――のちに彼を追い出した若者たちは死の使いだと噂したものである。
「私は生まれてからずっと死に取り憑かれてきた。その力を制御することで、自分の運命を切り開けるのならば、受け入れよう」
モルディナは満足げに頷き、干からびた手を差し出した。
「良いだろう。我らの契約を結ぼう。お前はこれより『沈黙の使者』としての道を歩むのだ」
ヴァルゴスは干からびた手を握ると、強烈な力が体内に流れ込んできた。彼の蒼い瞳の冷たさが力を増し、見えざるものを見る力が宿った。線の細い体からは冷たい死のオーラが放たれる。
「これが……、死か……?」
ヴァルゴスは自らの変化を感じ取り、静かに呟いた。
モルディナは満足そうに頷き、闇の中へと消えていく前に言葉を残す。
「さあ、『沈黙の使者』よ。お前の使命を果たすが良い」
ヴァルゴスは冷えた微笑みを浮かべ、ようやく自分が生きる意味を見出したのである。
村を追い出されてから、彼は食べることも眠ることもなく、何の目的もなく歩き続ける。数日が経過して、月明かりの下で静かに瞑想していると、突然周囲の空気が凍りつくように冷たくなった。
「お前がヴァルゴスか……」
低く響く声が闇の中から聞こえた。
ヴァルゴスは目を開け、その声の方向を見ると、黒いローブを纏った巨大な存在が立っている。
骨に皮膚の張り付いたミイラのような外見、顔も髑髏と皮膚が張り付いており、虚ろな眼窩は深紅に輝いている。黒い外套のほかには、歪んではいるが巨大な鎌だとわかる物が握られていた。その不気味な鎌は闇の中でも薄っすらと紫色に光っており、農具というよりも処刑人の刀のような印象を与える。
「誰だ?」
ヴァルゴスは問いかけた。
その言葉に恐怖はなく、わずかな疑惑と困惑の色含まれている。
「私はモルディナ」
存在はゆっくりと近づきながら答える。
ヴァルゴスはその名に、どこか懐かしさを感じた。
この時の彼は知らなかったが、モルディナは古代エルフ語で「魂の管理者」を意味している。
「何故、私の前に現れた?」
モルディナはミイラのような顔に薄い笑みを浮かべた。
「お前は生と死の狭間に生きている。その力は私と共鳴するものだ。お前の内なる力を制御する力を授け、我が使徒としようと思ってな。無論、断っても良い、そうなれば遠くないうちに生と死の力に耐えられずに消えることになるだろう」
その言葉に嘘は無いように思えたが、ヴァルゴスは相手にそれ以上の意図を感じた。取るに足らない者の前に、わざわざ降臨するとは思えなかったからである。その意図を読んだように、実際に心を読んだのかもしれないが、モルディナは説明する。
「水に落ちてもがく虫けらを哀れに思ったことはないのか? 余裕があれば、助けてやろうと思ったことは? 他の管理者は放っておけと嘯くが、我は我の感じたままに振舞っているだけよ。水から救い上げて助けた後、その虫がどのような行動をするかまでは気にもせん。無論、虫からの礼なども期待しておらんよ」
ヴァルゴスは幼少期のことを思い出して、静かに頷いた。
死をもたらすものと忌み嫌われていたが、自分も過去に池に落ちた蜘蛛を見つけて助けたことがあったのだ。後日その蜘蛛が蝶を喰らっている姿を見たことも思い出した。
その時、自分はどのような感情を抱いた窯では思い出せなかったが、村の子供たち――のちに彼を追い出した若者たちは死の使いだと噂したものである。
「私は生まれてからずっと死に取り憑かれてきた。その力を制御することで、自分の運命を切り開けるのならば、受け入れよう」
モルディナは満足げに頷き、干からびた手を差し出した。
「良いだろう。我らの契約を結ぼう。お前はこれより『沈黙の使者』としての道を歩むのだ」
ヴァルゴスは干からびた手を握ると、強烈な力が体内に流れ込んできた。彼の蒼い瞳の冷たさが力を増し、見えざるものを見る力が宿った。線の細い体からは冷たい死のオーラが放たれる。
「これが……、死か……?」
ヴァルゴスは自らの変化を感じ取り、静かに呟いた。
モルディナは満足そうに頷き、闇の中へと消えていく前に言葉を残す。
「さあ、『沈黙の使者』よ。お前の使命を果たすが良い」
ヴァルゴスは冷えた微笑みを浮かべ、ようやく自分が生きる意味を見出したのである。
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