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第19話 奴隷オークション2
しおりを挟む22人の女性たちは先程の男たちのようなボロ服とは違い、24,000個以上の赤い宝石が散りばめられた豪華な下着を身に着けており、成熟したボディラインを際立(きわだ)たせている。
そんな扇情的な姿に加えて、女たちの蠱惑的な表情と誘うかのような淫らな仕草に、購入者たちの熱気は燃え上がった。
「最低落札価格は22人で100万! 1人約4万5千と通常の奴隷より少々お高いですが、見ての通り普通の奴隷ではありません。娼館として稼がせるも良し、有力者の手土産にするも良し、自分の後宮に加えるも良しです! ちなみに彼女たちの着ている下着はお買い上げいただいた時に付属品としてお持ち帰りいただけます。下着だけでも5千程度の価値がありますので、参考にしていただければ幸いです」
それから司会は先程と同じように値踏みの参加者を募りながら、今度は1人1人の名前、スリーサイズ、性癖、出身地、家族構成を早口で解説していく。先程の男たちのときに比べて、だいぶ熱の入った解説であり、値踏みの参加者も5倍以上はいた。
値踏みを行う者たちは無遠慮に女たちの肌触りや感度を確かめて、納得したようにいやらしい笑いを浮かべる。女たちは悶艶蟲を与えられる前であれば、おそらく男たちを罵倒して、精一杯の抵抗を行ったことだろう。だが、今の彼女たちは自分たちを買おうとする者に対して、媚びた笑みを浮かべながら体を淫らに動かすことだけである。
「それでは、入札を開始します!」
司会の言葉と同時に、入札希望者は次々と値を張り上げる。
「110万」
「125万」
「148万5千」
最終落札となれば、先程のように予想外の値段をつけられて押し切られることがあるので、入札希望者にとっては、この入札時点で落札できるのが一番望ましい。
それゆえ誰もが、相手を蹴落とすように強気の値段をつけていく。
「156万6千」
「160万」
「165万」
「残り入札時間は3分を切りました。165万以上の方は?」
司会は会場を見回す。この場にいる参加者たちにとっては、100万単位の金額は珍しいものではない。まだまだ値段を釣り上げることができると、司会者は壇上の商品に扇情的なポーズを取るように目配せする。
22人の女たちは訓練された体操選手のように、買ってほしいとおねだりするような姿を披露する。それは人の尊厳を自ら踏みにじるような卑猥な姿であったが、購入希望者の心に火をつけることには成功した。
「180万9千」
「200万」
「220万」
「220万! 220万以上の方は?」
司会者の煽りに、ちまちま値段を上げていては入札時間が終わってしまうと考えた者が一気に倍の入札を行う。
「440万!」
その声に動揺の波が広がる。
「440万! 2倍の値がつきました! さて、これ以上のお声はありますか?」
司会者は会場に集まった参加者たちに問いかけるが、返ってくるのは沈黙のみ。
「440万! 商品は440万で落札されました!」
1人あたり20万もの値段がついたわけであるが、落札した男は満足そうな足取りで引換所に向かう。落札者は高級娼館の館長であり、彼女たちに夜の仕事をさせて稼がせるつもりである。個人差はあるが20万程度ならば数年で稼ぐことができるだろうし、その後の利益は自分のものになると考えれば一時の出費も惜しくはないのだろう。
「さて、次の商品は36名の女奴隷。最低落札価格は360! 1人につき、ななな、なんと10リエル! え~、小銭のない方もいるかと思いますので……、品定め料は無料で結構です」
司会者の紹介とともに並べられたのは、イヴァが容姿で落第と考えた者達である。ボロ服すら着ておらず、汚れた姿のまま壇上に姿を晒した女たちを購入者達はあざ笑う。
「そんなブスども、誰も買わんぞ!」
「此処はいつから豚を売るようになったんだ」
「さっさと次を出せ!」
嘲笑、罵声、怒号などに晒されて、女たちの表情は怒り、羞恥、屈辱と様々に変化をする。結局、誰一人として品定めが行われないまま、入札が開始される。
「皆様、洗濯婦や炊事係としては、いかがでしょうか? あるいは顔に布袋やラバーマスクをつけて見えないようにすれば、少しは使えるかと思います」
司会者の涙ぐましい努力もむなしく、入札を希望するものは現れない。
安物は買わないという金持ちならではのプライドが邪魔しているのか、あるいは本当に1リエルも支払いたくないほどひどい商品であるのか?
時間だけが虚しく流れ、司会者は時間切れを宣言する。
「残念ながら落札者なし。では次の商品を……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
オークションを見ている〝|蟲の皇子(ヴァーミン・プリンス)〟に、密かに忍び寄る暗殺者の姿があった。
人間ではない――蠍である。
この蠍は盗賊ギルドに協力している仮面の魔法使いが呼び出した意のままに動く小さな暗殺者である。子供の手のひらくらいの大きさの地味な色の蠍は、天井裏を這うように移動しながら、〝蟲の皇子〟のいる貴賓席にまでたどり着いた。
蠍に施した魔法により、彼らの声を拾い、仕草を読み取る。
「残念、安すぎると、逆に何かあると警戒させちゃったのかなぁ?」
「肉食植物は毒々しい色か、その逆にまったく無害な色をしているかだが、経験の積んだ動物はそのどちらにも近づかないからな」
「単純にお買い得商品として、出品したんだけど。でもまあ考えてみれば、エルカバラードでは善意なんて悪意よりも理解されないから、仕方なかったかもね」
ダークエルフの少年は柔らかな笑みを浮かべる。
先程のアマゾネスの言葉を借りるならば、無害を装う肉植物のような笑みだ。
「残りは男107と女31だが、いささかバランスが悪くないか?」
「此処から先は、どれも一級品に磨き上げた処女との抱き合わせ販売になるけど、ボクの予想だと、みんな食いついてくれると思うよ。それ相応に趣向を凝らしたからね」
「では今少し、手並みを拝見するとしよう」
主人と奴隷というよりも、気の合う友人同士のような会話である。僅かな期間で打ち解けてしまう〝蟲の皇子〟の対人スキルが高いのか? あるいはアマゾネスの溶け込む力か、もしくは単純に相性が良いのか? いずれにせよ、天井裏に潜む蠍はペルセネアが護衛をしている間は、単独で暗殺を仕掛けるのは控えたほうが良さそうだと判断して気配を殺す。
今はまだ仕掛けるタイミングではない。それよりも、監視にとどめて同行を探るほうが良い。
と、そこに老執事ザハドが護衛を伴って入室する。
「イヴァ様、〝|疫病の従者(プレーグ・フォロワー)〟ピラトカナス様の支払いを確認いたしました」
「方法は?」
「鋼鉄銀行(スティール・バンク)への振込みです」
「へぇ、銀行口座持っていたんだ」
イヴァは感心したように言う。
この世界には金銭の出し入れが行える銀行と呼ばれる機関が、少数であるが存在している。
銀行は金銭の両替・預金、貸出、決済の大機能を備えており、大金を動かす取引を完了させるには非常に便利である。例えば今回のオークションにおいても、実際に現金を手持ちで持ってきているものは少ない。
単純に100万単位の金銭を持ち歩くのは巨人族でもない限り難しい。高価な宝石や貨幣に分割するというのも手であるが、盗難や強盗の危険は少なくない。なので、自分にしか使用できない口座というものを開設して、その場所に金銭を溜め込み、必要な場合に口座から引き落とす。
元々は両替商人の考えた機能であり、今では上流階級の人間ならば誰しも利用している。
この銀行という機関を利用するには、第一に両者の信用が必要となる。
利用者側は銀行が潰れないかどうかを見定めねばならない。
近年では、スレヴェニアにあった銀行などは革命の時期に軒並み潰れており、金銭は残らず革命軍に徴収されている。
逆に銀行側は使用者が貸し出した金銭を持ち逃げしないような信用のある人物か、見定めねばならない。これに関しては無数の前例があり、銀行側に借金をしたまま逃亡する者、死亡する者など、数え始めればキリがない。来歴調査を密に行ったり、貸出制限を行ったり、様々な手を講じてはいるが、根本的な解決には至っていない。
そんな銀行の中で、難攻不落の要塞都市拠点を持つドワーフが運営する鋼鉄銀行、商業神の名を冠したテオドール信用金庫、情け容赦のない徴収で知られる<黒鴉>の3つが、信用と資金力、実行力において最高の銀行口座である。
「ええ、どうやら彼も鋼鉄銀行に口座を持っていたようで、入金はすんなりといきましたよ」
「それは……思ったよりも大物だったのかな?」
イヴァの声音には感心と警戒の色が混ざりあっている。
「いえ、どうやら個人口座ではなく、盗賊ギルドの口座のようです」
「そうか、それは余計にまずいね」
「はい」
イヴァの知らぬ間に盗賊ギルドが鋼鉄銀行との間にパイプを作っていたのも問題であるし、彼らが鋼鉄銀行から借金をしている可能性が高いのも問題だ。
<黒鴉>ほどではないにしろ、鋼鉄銀行の徴収も無慈悲であり、盗賊ギルドに支払い能力がない場合、エルカバラード全体から借金分を徴収する可能性が高い。
東西の勢力に資金を提供して、エルカバラードを略奪させる程度のことは、余裕でやってのけるだろう。
「蟲を使って、情報を収集させるしかないか……。本当はもう少し別のことに使いたかったんだけど」
「知らなかったでは済まされない可能性が高いですからな。今回は、そちらの方に情報収集用の蟲を使うべきでしょう」
イヴァの操る蟲の中には情報収集能力に長ける種類も多い。
港の市場を飛び回る蝿、砂の下に蠢く砂虫、日陰に潜む甲虫など、日常の景色に紛れて会話を盗み聞き、その情報をイヴァに届ける。高い情報収集能力を持ってはいるが、欠点も多い。
まず集める情報量が膨大であること。そこから必要な情報を手に入れるのには、イヴァの情報処理能力を持ってしても、容易なことではない。
次に融通がきかないこと。命令した情報は集めてくるが、それ以外にも重要そうな情報を手に入れても、主人に知らせることなく飲み込んでしまう。今回の件にしても、蟲はどこかで盗賊ギルドが鋼鉄銀行に口座を開設したことを知っていたはずなのに、言われていないからと教えなかったのである。ザハドやキリィのような者がこの手の情報を手に入れていれば、絶対に教えている。
それ以外にもいくらかあるが、上記の2つだけでも充分だろう。昔の賢人の言葉を借りれば、「有用ではあるが万能ではない」といったところだ。
「それと可能ならば、今回のオークションでは盗賊ギルドとの取引は避けるべきかと」
「そうだね」
盗賊ギルドの資産がいくらかわからないが、鋼鉄銀行の預金をマイナスにすることで、最終的に自分の首を絞めることになる可能性もあるのだ。
そのやり取りを聞いていた蠍――魔法使いは感心する。
盗賊ギルドと協力している魔法使いは、彼らの狙いをある程度は推察しており、今回のオークションも暗殺と同時に進行している〝蟲の皇子〟を潰す陰謀の1つである。
そのあたりをすぐさま見破り、火の粉が降りかかるのを抑えるように対策を講じるのは、なるほどエルカバラードの領主に相応しいといえるかもしれない。そしてだからこそ、魔法使いはなんとしてもイヴァを排除しなくてはならない。
(東西の戦火を燃え上がらすには〝蟲の皇子〟は邪魔になる)
この間にもオークションは進み、2度目の最高落札が発生した。
商品として売りに出されているのは、滅びた聖神に仕える司教ルシアンを始めとする奇跡の使い手達であった。
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恵まれないゾンビに愛の手を!
アナタの善意が、ゾンビの赤ちゃんを助けます。
1人が1リエルの寄付をすると、なんと年間で2,000人以上の命が助かるのです。
詳しくは店頭のスタッフまで。
―― エルカバラードの盗賊ギルド支部の張り紙 ――
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