蟲の皇子 ~ ダークエルフのショタ爺とアマゾネスの筋肉娘がおりなすアラビアン・ファンタジー ~

雨竜秀樹

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第20話 奴隷オークション3

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〝|美食家(グルメ)〟と呼ばれる盗賊ギルドの幹部、人肉嗜好者(カニバリスト)のラミアは、壇上に姿を現した男女を見て、黄色い蛇目に邪悪な輝きを宿す。

 男が1人に女が4人。

 3回目を除けば、オークションが進むほどに、男の逞しさ、女の色香が増して、客たちの購買欲が刺激されている。
 司会の言葉によれば、彼らは聖神と呼ばれる古い神に仕える一団とのことらしい。人間至上主義を掲げて、はるか昔に妖魔を虐殺した神に仕える彼らの考えることは単純で――遥か過去の栄光を復活させて、再び自分たちが世界の中心に座することである。
 滅びた神格とはいえ、アルアリード大陸全土を支配していた神が残した力を継承する信者たちの力は侮って良いものではない。逆に考えれば、侮らなければ恐れるほどのものではない。

 聖神に使える司教ルシアンの瞳には嫌悪と怒り、恥辱の色が混じり合っており、女たちは蟲の毒に対抗しながら屈辱と羞恥に顔を歪めている。信仰という細い糸が何とか彼らの正気を支えており、落札者には糸を断ち切る権利が与えられる。

 この手の趣向を期待していた者たちは、凄まじい勢いで値段を釣り上げていき、〝美食家〟もその流れに乗る。
 そして、最終落札にまで持っていくことに成功すると、〝|疫病の従者(プレーグ・フォロワー)〟から鋼鉄銀行を使用するのに必要な魔術的な刻印を受け取る。

(残り2,930万)

 残高を確認すると、隣に座る〝|鼠を統べる者(ラット・ロード)〟が盗賊ギルドの会員にしか通じない言葉で囁く。

「最終落札を狙う連中の中で最高価格は580万だ。+αに何を用意するのかはわからんが、お前さんは倍の値段と食べかけをくれてやれば、あの餓鬼は落札するはずだぜ」

 蟲使いであるイヴァが各地に斥候を放っているように、この鼠使いも使い魔たちをオークション会場に潜ませている。客層に妖魔や獣人などが多く臭いがごまかせることに加え、会場全体が薄暗いお陰で、なんとか警備兵の目をごまかし、客たちから情報を集めることができている。

「迂遠なものね」
「俺達が落札したんじゃなくて〝|蟲の皇子(ヴァーミン・プリンス)〟が買い取ったってことにしたいんだよ。まあ、屁理屈のたぐいだがね。難癖をつけて、ゴネるのが、俺達のやり方だろ?」

 単純に落札したいのならば、少し前に1,000万程度の値を言えば良い。だがそれでは、盗賊ギルドが買ったと言うだけの話であり、鋼鉄銀行に使う言い訳としては弱い。あくまで〝蟲の皇子〟が入札者の中から自分たちを選び、盗賊ギルドの資金――ひいては鋼鉄銀行の資金を奪う陰謀を巡らせていたのだと、鋼鉄銀行を始めとする他の勢力に吹聴しなくてはならない。

「大丈夫だよ。必要な証拠はでっち上げることができる。あの餓鬼が各地に散らせた蟲はいくらか回収してあるし、然るべき場所、然るべき時に使えば、動かぬ証拠になる」
「そう上手く事が運ぶかしら?」
「運ばせるんだよ。だからほら、あの餓鬼が食いつきたくなるような金以外の餌もぶら下げろ」

〝美食家〟は不満そうに眉を寄せる。

「まだ食べかけなのよ?」
「ボスの命令だ。落札した奴らは全員食わせてやるから、食いかけはくれてやれ」
「……わかったわよ」

 ボスの命令という伝家の宝刀を抜かれれば、それ以上反論することはできない。
 ラミアは唇を尖らせるが、言われた通りに行動する。

〝美食家〟が提示したのは1,160万に加えて、あるルートで捕らえたアマゾネスの食いかけ2人であった。


  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


〝美食家〟――いや、盗賊ギルドから提示を見て、〝蟲の皇子〟は苦笑する。

「どうやら、ボクらの読みは当たりみたいだ。盗賊ギルドの連中はどうにかして、鋼鉄銀行とぶつけたいみたい」

 無論、法秩序を重んじる者や利益不利益と関係ない第三者が聞けば、そのような企みは上手くいくとは思えないだろうし、そもそも思いつきもしないだろう。だがしかし、盗賊ギルドは現実にやろうとしており、鋼鉄銀行の経営者たちがどのような判断を下すのかは未知の領域である。信義を守って盗賊ギルドの破産を良しとして不利益を被るか、あるいは屁理屈ながらも盗賊ギルドの主張を受け入れて、賠償金のたぐいを要求するのか?
 信用関係で成り立っている銀行が不信感を持たれるような選択をするとは思えないが、こればかりは当事者となってみなければわからない。

「鋼鉄銀行はご主人様の資産を守る組織なのだろ? その為の手数料を支払って、魔法の誓約を交わしていると聞いたが?」
「約束や契約は神聖なことだと思い、それを遵守するのは悪いことじゃない。魔法の契約が破れないものだと信じるのも間違っちゃいない。だけどね、世の中に約束や契約を平気で破る奴がいるということも知っておいたほうがいいよ。特に国だとか組織だとかいう怪物は、自分の都合が悪くなれば、どこまでも面の皮を厚くすることができるんだから」

 イヴァは面白そうに言う。
 なるほど、この世すべての誓約が律儀に守られていれば、世の中は今よりも少しは平和で秩序に満ちているだろう。魔法の契約も個人ならば解除はほとんど不可能な術を施すことは可能だ。だが、集団となれば約束や契約の穴を見つけたり、自分の都合の良いように解釈するは当然として、場合によっては仲間をトカゲの尻尾きりのように使い捨て契約そのものを破棄しようとすることさえある。
 悲しいことに、巨大な国家や組織になれば、この手の傲慢さは顕著に現れる。

 それゆえ今日に至るまで、世界は暴力と混沌に満ちている。特に近年はソレが目に見えぬ形で忍び寄り、不意をついて襲い掛かってくることが多い。
 もっとも、多くの者は殴られるまで気づかないことが多く。仮に気がついたとしても、逃げることもできないことが多い。残念ながら、現在のイヴァもそうした目に見えない脅威すべてと戦うことは難しく、現在進行形で殴られないように立ち回っている最中だ。

「まあもちろん、鋼鉄銀行が目先の利益に惑わされる可能性は低いと思う。だけど、ゼロじゃない。だから今回は罠を回避しよう。幸いなことに、この罠は1回踏んだくらいじゃ致命傷にならないようだからね」
「なるほど、しかしご主人様が暗殺されるようなことがあれば、連中は困ったことになるのではありませんか?」

 情報を咀嚼して問いかけたのはテタルナだ。
 今回、奴隷オークションで仕掛けてきた罠は、イヴァと鋼鉄銀行を争わせる謀略の一種である。だが、イヴァが死んでしまえば、鋼鉄銀行は盗賊ギルドと敵対することになる。

「ソレに関しては単純だよ。ボクが死んだ後で遺言書でもでっち上げて、受取人を自分たち盗賊ギルドにすればいい。推測だけど、たぶん間違いない」

 少年は上機嫌のまま、羊皮紙の文字をなぞった。
 署名欄に名前を書けば取引成立だが、盗賊ギルドの思惑を知った今では名前を記すことなどない。

「盗賊ギルドとは取引しない。いや、できない」

〝蟲の皇子〟は老執事の助言と自分の考えを元に、結論を出す。

「だけど、食べかけの女蛮族は欲しい」

 しかし、イヴァ個人はわがままを言う。
「助けたい」ではなく「欲しい」という言葉を使うあたり、彼は自分の業をよくわかっている。

「何か策があるのか?」

 同胞の境遇に同情しているらしいトルティは、協力的な姿勢で問う。もちろん、ペルセネアとテタルナも主人の命令があれば、助けることに不満はない。

「策ってほどじゃないけどね。まあ、この局面は引くとしよう。次のオークションが終われば、休憩時間があるだろ? その時に〝美食家〟に個人的に取引をしてみるよ」

 エルカバラードの領主としてこの場は引き、イヴァ個人として後で話し合う。
 この手の柔軟さは翡翠解放団長にはないものであり、それが彼の敗北した理由の1つであったかもしれない。

 イヴァは「さて、もう時間がないね」と言って、他の面々が提示した最終落札の条件にも目を通す。
 最終入札価格は500万であったが、その中から3つほどにまで候補を絞った。

 1人目は吸血鬼の武器商人。
 580万+〝太陽喰らい〟と呼ばれる天候を操る魔剣1振り、相手の生命を奪う吸血剣7振り、流血団と呼ばれる下級吸血鬼20人(男15:女5)と従者30人(男15:女15)からなる傭兵団を20年間貸し出す強制魔法が施された契約書。

 2人目は貿易商人ギルドに所属する海賊団の船長。
 525万+獣使いの奴隷5人(男4:女1)。調教済みの剣歯虎(サーベルタイガー)20頭、大猿(エイプ)20頭、巨大鰐(クロコダイル)10匹、密林蛇(アナコンダ)5匹。未調教の極楽黄金鳥のツガイだ。

 3人目は邪神ハルヴァーに仕えるゴブリンの祭司。
 500万+劫火の剣、不浄なる篭手、百眼鎧、災厄を見る兜、邪竜靴といった闇の神器15セット。グール・キングが率いる約60人のグール兵団、エルカバラードの辺境村に浸透しているカルティスト80人の支配権。

 いずれも悪くない取引だ。
 本来であればじっくりと吟味したいところであるが、先に述べて通り時間も差し迫っている。

「ねえ、君たちは動物嫌い?」

 イヴァはアマゾネスたちに問いかける。
 その答えを聞いて、どれにするか決めることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



古代。
ゴルデオ王国はイオルコス人に土地を与えると約束する代わりに、彼らを傭兵として使い、ゴブリンの大帝国に対抗した。この約束から7年、ゴブリンの大王が寿命で死んだ時、イオルコス人は土地を要求したが、ゴルデオ王国は約束を反故にして、戦いで疲弊したイオルコス人を虐殺した。
その70年後、再び偉大なゴブリンの大王が現れ、ゴルデオ王国を脅かす。虐殺から逃げ延びたイオルコス人に、ゴルデオ王国は再び戦う代わりに土地を約束する。イオルコス人はゴルデオ王国の要人を人質にすることを条件に、再びゴブリンの大軍勢と戦い、大王を打ち破る。
だが、約束も再び破られた。
ゴルデオ王国は背後からイオルコス人を襲い、人質ごと、情け容赦なく殺した。
その7年後、生き延びたイオルコス人はゴブリンと盟約を結び、ゴルデオ王国を蹂躙する。イオルコス人はゴルデオ王国をゴブリンと分割する約束をしていたが、その約束を反故にして、ゴブリンを殺戮する。

       ―― 裏切りの歴史 ――

P.S.
古代から現代に至るまで、彼らは同じことを繰り返している。

       ―― ???の報告書 ――
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