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piece2 壊れた未来
剛士には世話になってるよ?
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ユタカが、後輩たちの肩を叩く。
「まあオレも、剛士には世話になってるよ? 休み時間とか、アイツが寝てようが関係なく、問題集のわかんないとこ聞くし!」
「寝てるのに? 酷すぎ!」
後輩の1人が笑いながら手を叩き、もう1人の後輩は、興味津々に問いかける。
「柴崎さん、どんな感じなんすか? 起こされて、キレたりしないんすか?」
「あー、しないしない。起きて、ひと通りオレに説明して、『わかんないとこあったら、また起こして』って言って、寝てる」
剛士の真似をしたつもりか、ユタカは瞼を擦りつつ、眠そうな声で答えた。
「酷すぎー!」
後輩たちが声を揃えて突っ込むと、ユタカは戯けたように肩をすくめる。
「なー、酷いよなあ。オレが一晩考えてわかんなかった問題を、俺は寝起きで解けますって、見せつけてくんだよぉ」
弾かれたように、後輩たちは笑った。
「岸部さん、どんだけ捻くれてんですか!」
「いやいや、対抗意識と言ってちょーだい! とにかく剛士のヤツ、何聞いても答えてくれるもんでさ。オレ、塾の先生に、数学の超難問ください!ってお願いして、わざわざ準備したのよ」
「何ですか、そのムダな対抗意識!」
「それでそれで?」
興味津々に先を促す後輩たちに気をよくしたのか、ユタカは得意げに続ける。
「その日、たまたま2年生全クラス自習の時間があったからさ。そんときに、隣りのクラスの剛士に聞きに行ったわけ。『これ、今日の塾の時間までに解きたいんだ』って」
「うんうん」
「そしたらさ、さすがの剛士も解けなくて、うーんって考え込んでさ!」
「マジで? まさかの岸部さんの勝利?」
後輩たちが目を丸くすると、ユタカは大袈裟に肩を竦めてみせる。
「それで剛士、どうしたと思う? 『よし、数学のプロの力を借りよう』って、オレを引き摺って職員室に行くわけ!」
「ええ? 自習の時間に、わざわざ先生に会いに行ったの?」
「アイツ、数学の先生と仲良いからさ。オレの問題囲んで、先生と一緒に、あーでもないこーでもないって、やり始めたの。もはやオレ、蚊帳の外!」
「何やってんすか岸部さん!」
後輩たちは、腹を抱えて笑い出す。
「で、30分くらいかけて、問題解いちゃったの。剛士と先生、ハイタッチとかしててさあ。ようやく教室に戻れるかと思ったら、オレのクラスまで一緒に来るわけ。で、ご丁寧に問題の解説してくれんのよ。公式はこれを使うとか、考え方はこうだとか。それが、すげえわかりやすくて!」
後輩たちは、顔を見合わせ頷いた。
「ああ~、オレたちも勉強会出てるから、わかる! 柴崎さんの解説、わかりやすいっすよねえ」
「うん。オレらの反応見ながら、ゆっくり説明してくれるよね。優しいから、質問しやすいし」
ユタカも、我が意を得たり、というふうに大きく頷いてみせる。
「な。おかげでオレ、学校でも塾でも成績上がったもん。ウチの母親なんか、剛士に会ったこともないのに、『柴崎くん柴崎くん』言ってるわ」
後輩たちは、手を叩いて笑う。
「柴崎サマサマじゃないっすか! 学校の勉強だけでなく、塾のフォローまでしてくれるなんて」
「岸部さんの話聞いてると、もう、なんで岸部さんが柴崎さんのことを嫌ってるかわかんない!」
ユタカも、首を傾げて笑っている。
「ははっ。オレもわかんない! まあ、とにかくムカつくでしょ。こう、何もかも完璧に対応されちゃうとさあ。剛士に、施し受けてる気分なんだよ。何一つとして勝てない自分がイヤになって、ミジメな気持ちにさせられるんだよなあ」
「ちょ、それは岸部さんの勝手!」
「柴崎さんの態度は、善意でしょ!」
後輩たちからの痛烈な突っ込みに、ユタカは笑いを崩さない。
「そうそう。剛士の方は、100パーセント善意よ? アイツ、バカがつくくらいお人好しだからなあ……」
「ちょっとアンタ」
楽しそうに話し続けようとしたユタカを、忌々しげにカンナが遮った。
「黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって。剛士くんをバカ呼ばわりすんじゃねぇよ」
「おお、怖っ」
ユタカが、大袈裟に首を竦めてみせる。
そして、戯けた声音を保ったまま、言った。
「バカなんて言ってないっすよ。お人好し! イイヤツだって、言ったんですよ?」
カンナは溜め息をつき、吐き捨てるように呟く。
「とにかく、お前が剛士くんに迷惑かけんな」
「おお怖!」
また首を竦め、ユタカは笑った。
「カンナさんの剛士愛も、なかなか極まっちゃってますよねー」
「当たり前でしょ? 剛士くんは、アンタらとは違うのよ」
「えー? ヒドイなあ、カンナさん」
ユタカは、泣くふりをしながら、明るく彼女を非難した。
――剛士愛?
悠里の苦しい心は、意外な言葉の欠片を聞き咎める。
笑いながらカンナを宥めるユタカ。
腕組みをして、彼を睨みつけるカンナ。
訝しげに眉を顰めた悠里を認め、ユタカは、ニィッと下品な笑みを零した。
「あれ? けっこう鈍いんだねぇ。ゆ・う・り・ちゃん?」
見下した声で、ゆっくりと名前を呼ばれ、悠里は無意識のうちに息を詰める。
ユタカは、せせら笑い、ことも無げに言った。
「カンナさんは、ずーっと。剛士のことが、好きだったんだよ?」
「まあオレも、剛士には世話になってるよ? 休み時間とか、アイツが寝てようが関係なく、問題集のわかんないとこ聞くし!」
「寝てるのに? 酷すぎ!」
後輩の1人が笑いながら手を叩き、もう1人の後輩は、興味津々に問いかける。
「柴崎さん、どんな感じなんすか? 起こされて、キレたりしないんすか?」
「あー、しないしない。起きて、ひと通りオレに説明して、『わかんないとこあったら、また起こして』って言って、寝てる」
剛士の真似をしたつもりか、ユタカは瞼を擦りつつ、眠そうな声で答えた。
「酷すぎー!」
後輩たちが声を揃えて突っ込むと、ユタカは戯けたように肩をすくめる。
「なー、酷いよなあ。オレが一晩考えてわかんなかった問題を、俺は寝起きで解けますって、見せつけてくんだよぉ」
弾かれたように、後輩たちは笑った。
「岸部さん、どんだけ捻くれてんですか!」
「いやいや、対抗意識と言ってちょーだい! とにかく剛士のヤツ、何聞いても答えてくれるもんでさ。オレ、塾の先生に、数学の超難問ください!ってお願いして、わざわざ準備したのよ」
「何ですか、そのムダな対抗意識!」
「それでそれで?」
興味津々に先を促す後輩たちに気をよくしたのか、ユタカは得意げに続ける。
「その日、たまたま2年生全クラス自習の時間があったからさ。そんときに、隣りのクラスの剛士に聞きに行ったわけ。『これ、今日の塾の時間までに解きたいんだ』って」
「うんうん」
「そしたらさ、さすがの剛士も解けなくて、うーんって考え込んでさ!」
「マジで? まさかの岸部さんの勝利?」
後輩たちが目を丸くすると、ユタカは大袈裟に肩を竦めてみせる。
「それで剛士、どうしたと思う? 『よし、数学のプロの力を借りよう』って、オレを引き摺って職員室に行くわけ!」
「ええ? 自習の時間に、わざわざ先生に会いに行ったの?」
「アイツ、数学の先生と仲良いからさ。オレの問題囲んで、先生と一緒に、あーでもないこーでもないって、やり始めたの。もはやオレ、蚊帳の外!」
「何やってんすか岸部さん!」
後輩たちは、腹を抱えて笑い出す。
「で、30分くらいかけて、問題解いちゃったの。剛士と先生、ハイタッチとかしててさあ。ようやく教室に戻れるかと思ったら、オレのクラスまで一緒に来るわけ。で、ご丁寧に問題の解説してくれんのよ。公式はこれを使うとか、考え方はこうだとか。それが、すげえわかりやすくて!」
後輩たちは、顔を見合わせ頷いた。
「ああ~、オレたちも勉強会出てるから、わかる! 柴崎さんの解説、わかりやすいっすよねえ」
「うん。オレらの反応見ながら、ゆっくり説明してくれるよね。優しいから、質問しやすいし」
ユタカも、我が意を得たり、というふうに大きく頷いてみせる。
「な。おかげでオレ、学校でも塾でも成績上がったもん。ウチの母親なんか、剛士に会ったこともないのに、『柴崎くん柴崎くん』言ってるわ」
後輩たちは、手を叩いて笑う。
「柴崎サマサマじゃないっすか! 学校の勉強だけでなく、塾のフォローまでしてくれるなんて」
「岸部さんの話聞いてると、もう、なんで岸部さんが柴崎さんのことを嫌ってるかわかんない!」
ユタカも、首を傾げて笑っている。
「ははっ。オレもわかんない! まあ、とにかくムカつくでしょ。こう、何もかも完璧に対応されちゃうとさあ。剛士に、施し受けてる気分なんだよ。何一つとして勝てない自分がイヤになって、ミジメな気持ちにさせられるんだよなあ」
「ちょ、それは岸部さんの勝手!」
「柴崎さんの態度は、善意でしょ!」
後輩たちからの痛烈な突っ込みに、ユタカは笑いを崩さない。
「そうそう。剛士の方は、100パーセント善意よ? アイツ、バカがつくくらいお人好しだからなあ……」
「ちょっとアンタ」
楽しそうに話し続けようとしたユタカを、忌々しげにカンナが遮った。
「黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって。剛士くんをバカ呼ばわりすんじゃねぇよ」
「おお、怖っ」
ユタカが、大袈裟に首を竦めてみせる。
そして、戯けた声音を保ったまま、言った。
「バカなんて言ってないっすよ。お人好し! イイヤツだって、言ったんですよ?」
カンナは溜め息をつき、吐き捨てるように呟く。
「とにかく、お前が剛士くんに迷惑かけんな」
「おお怖!」
また首を竦め、ユタカは笑った。
「カンナさんの剛士愛も、なかなか極まっちゃってますよねー」
「当たり前でしょ? 剛士くんは、アンタらとは違うのよ」
「えー? ヒドイなあ、カンナさん」
ユタカは、泣くふりをしながら、明るく彼女を非難した。
――剛士愛?
悠里の苦しい心は、意外な言葉の欠片を聞き咎める。
笑いながらカンナを宥めるユタカ。
腕組みをして、彼を睨みつけるカンナ。
訝しげに眉を顰めた悠里を認め、ユタカは、ニィッと下品な笑みを零した。
「あれ? けっこう鈍いんだねぇ。ゆ・う・り・ちゃん?」
見下した声で、ゆっくりと名前を呼ばれ、悠里は無意識のうちに息を詰める。
ユタカは、せせら笑い、ことも無げに言った。
「カンナさんは、ずーっと。剛士のことが、好きだったんだよ?」
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