#秒恋5 恋人同士まで、秒読みの、筈だった

ReN

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piece3 初めまして!

伝統のご挨拶

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そのとき、悠里のスマートフォンが震え出した。
待ちに待った、彩奈からのメッセージだ。

『無事に3人集合したよ!
今から行くね!
面白いよ』

最後の不思議な言葉に、悠里は微笑んだまま首を傾げる。
意味はよくわからなかったが、間もなく皆が到着するという事実に浮き足立つ悠里には、それを考える余裕はなかった。

悠里は、傍らの父に笑いかける。
「彩奈と、勇誠学園の2人のお友だち、駅に着いたって。もうすぐ来るよ」
「了解! 彩奈ちゃんに会うのも、久しぶりだなあ」
「ふふ、彩奈も楽しみにしてたよ」
彩奈は、父とも数度会ったことがあり、もう気軽に話ができる間柄である。

さあ、母にも声をかけて、何か手伝おう。
悠里は良い匂いの漂うキッチンに目を向けた。
「私、お母さんのとこ行ってくるね!」
父に手を振り、悠里はパタパタとキッチンに向かった。


軽やかにインターフォンが鳴り響く。
ドキン、と胸が高鳴る。
「来た……」
緊張した様子で呟く悠里を見つめ、母がにっこり笑った。
「さあ、行きましょ!」

悠里、そして母と父が、いそいそと玄関に向かう。
ひとつ深呼吸をして、悠里は扉を開けた。
「いらっしゃい!」
笑顔で皆を迎えた悠里の目が、きょとんと丸くなる。

ニコニコ顔で、手を振ってくる彩奈。
その横にいる剛士と拓真は、何故か制服姿だった。

「あれ? ……もしかして今日、学校だった?」
心配になり、悠里がそっと、剛士たちに問いかける。
剛士は、口元に笑みを浮かべて、首を横に振った。


母の柔らかな声が耳を打つ。
「皆さん、いらっしゃい! さあ、どうぞ、入って?」
その声にハッとした悠里は、扉を大きく開いて皆を招き入れた。
「どうぞ」

剛士と拓真が、しっかりとした足取りで進み出た。
そして、母と父の前に並んで微笑む。
「初めまして。今日はお時間をいただき、ありがとうございます」

初めて、耳にする。
少しよそ行きな、剛士の爽やかな声音。
悠里と彩奈は、顔を見合わせた。

「勇誠学園2年の、柴崎剛士と申します」
「同じく勇誠学園2年の、酒井拓真です。よろしくお願いします」
そうして2人揃って、両親に向かい、頭を下げた。


母と父が、笑顔で拍手をしている。
「まあ、ご丁寧に」
「勇誠学園伝統のご挨拶だね」

――伝統?
初めて聞くワードに、悠里と彩奈は再び顔を見合わせる。

そんな2人をよそに、両親がいそいそと、剛士たちを家に招き入れていた。
悠里たちも慌てて中に入り、連れ立ってリビングに向かった。

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