#秒恋4 恋の試練は元カノじゃなくて、元カノの親友だった件。

ReN

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piece3 明確な悪意

彩奈のブランケット

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温かい夜食と、何より母の暖かい笑顔。
それは、明確な悪意に凍えていた悠里の胸を、優しく優しく包み込んでくれた。

――大丈夫。がんばれる。
これまで通り、ゴウさんを待ってる。
私はゴウさんの言葉を、気持ちを、信じてる。


電車の中では、ガタガタと揺らいでしまったこの思いも、今度は落ち着いて、心に結ぶことができた。

「ありがとう、お母さん」
たくさんの気持ちを込めて、悠里は、ごちそうさまと手を合わせた。


暖かい気持ちで、悠里は部屋に戻る。
パチンと電気を点け、机の上に置いた鞄を見た。

寝る前に、整理をしなくては。
悠里は小さな吐息を漏らし、鞄に手を掛ける。


――開けたくない。

ここには、悪意が入っている。
大切な人のかつての笑顔が、悪意に利用された、悲しいものが。


悠里は息を詰めるようにして、鞄を開けた。
教科書の影に隠していたフォトブックの存在を、確認する。

ついさっき、母のスープに温めてもらったばかりの指先が、冷えていく。
悠里は細い指を、固く握りしめた。


――触りたくない……

本当は、鞄から取り出そうと思っていた。

けれど、どうしても、触れたくない。見たくない。
その重みを、感じたくなかった。


それに、鞄から出したところで、フォトブックをどこに仕舞うのか。
机の上?本棚?
嫌だ。自分の部屋のどこにも、置きたくなかった。

それでも、捨てることはできない。
自分にとって辛いものでも、剛士の笑顔が詰まったもの。
それを塵のように扱うことなど、できなかった。


悠里は唇を噛み締め、俯く。

――ダメだ。

今日はとりあえず、このままで。
どうするかは、気持ちが落ち着いてから、考えよう……

悠里は長い溜め息をつくと、気怠い身体をベッドに横たえた。


「おはよ、悠里!」
翌朝、教室に着くと、待ってましたと言わんばかりに彩奈が駆け寄ってきた。

「彩奈!おはよ」
昨日は先に帰ってごめんね、と悠里が謝る前に、彩奈がブランケットを広げてみせる。

悠里は、きょとんと目を丸くし、ブランケットと彩奈を見比べた。
「悠里、みんなから聞いたよー。お腹大丈夫?」
「う、うん」

赤メガネの奥の瞳をキラキラさせて、彩奈が言った。
「お腹冷えるとさ、もっと痛くなったりするじゃん? だからこれ、貸したげる! あったかくしてな?」

ふわっとブランケットを悠里の肩に掛け、頭を撫でてくれる。


少しだけ、泣きそうになる。

一瞬、言葉に詰まってしまった悠里に気がつき、彩奈が不思議そうな顔をする。
悠里は、にっこり笑って、ブランケットに顔をうずめるようにして涙を抑え込んだ。

「……彩奈は、あったかいねえ」
戯けた調子で、悠里は答える。
「ありがと。借りるね」


昨夜の母の夜食に続き、また心を暖めて貰えた気がした。

見たくなくて、触りたくなくて。
家に置いておくのも、学校に置き去りにもできなくて。
それでも、捨てることができない。

フォトブックが入れっ放しになっている鞄は、重い。
この重みを、いつかは取り除けるだろうか……

それまで、自分はがんばらなくては。


――大丈夫。がんばれるよ。

悠里は彩奈に微笑みかけると、鞄を机の横に掛け、大切そうにブランケットを抱えた。

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