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piece2 剛士の傷跡
それって未練ってこと!?
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拓真の瞳が、遠い過去を思い返す。
「……あいつ、いっつもフツーの顔してた。励まされても、逆に揶揄われても、ホントいつも通りだった。でも1度だけ、オレに言ったんだ。『俺、なんなんだろうな』って」
拓真の指が、乱暴に金髪頭をクシャクシャと掻いた。
「あんときのゴウの悲しい声、オレは一生、忘れらんないと思う。だからオレ、あの元カノのこと、大っ嫌いなんだよね」
悠里は、拓真の冷ややかな声を思い返す。
『はあ? 何言ってんの』
彼女に対する拓真の冷酷な態度は、剛士を守るためだったのだ。
辛そうに目を伏せた剛士の顔。
離れ際に見た、彼女の勝ち誇ったような笑顔が、交互に悠里の心に浮かんだ。
彩奈が納得したように呟く。
「……だから拓真くん、『ゴウがマリ女と関わるなんて意外だ』って言ってたんだね」
拓真が目を丸くする。
「オレ、そんなこと言ったっけ」
悠里の脳裏にも、4人で初めて一緒に帰った日のことがよみがえった。
『ゴウがマリ女と関わるなんて意外すぎるもん』
確かに拓真はそう言っていた。
『余計なこと言うな』
剛士が眉をひそめ、拓真の頭を引っぱたいたことも、よく覚えている。
赤メガネの奥にある瞳が、力強く頷いた。
「悠里のストーカーを捕まえた日、『ゴウがやっと恋愛する気になったみたいで嬉しい』とも言ってた」
「……彩奈ちゃん、記憶力いいんだね」
拓真が微笑むと、彩奈は自分の頭を指し、誇らしげに笑った。
「それ聞いたとき、シバさんって、恋愛にトラウマでもあんのかなーって、気になってたんだよ」
「うん。オレさ、ゴウが元カノとのこと吹っ切れずにいたこと、心配してたんだよね」
「はあ? それって未練ってこと!?」
再び牙を剥きかける彩奈に怯えながらも、拓真は答える。
「い、いやいや、元カノに未練があるわけじゃないって」
「なんでそう言い切れんの!?」
「だってゴウのヤツ、すっげえ暗い顔してたじゃん」
拓真が彩奈を宥めつつ悠里を見やり、ニコッと微笑む。
「ねえ、見たでしょ? 元カノと話した後、戻ってきたときのアイツの顔」
拓真は自分の目尻を、指できゅっと下に引っ張ってみせた。
「ほら、こんな感じでさ。すっごい辛気臭いツラして戻ってきたじゃん。あれが、好きな女と会話した後の顔かよ」
拓真が明るく笑い飛ばした。
「それに、もし元カノをまだ好きならさ。あのまま元カノとどっか行くよ、普通に」
「……確かに」
「でも、ゴウはものの10分で、オレたちのところに戻ってきたじゃん!」
「……まあ、そうだね」
彩奈も渋々ながら肯定する。
拓真が優しい笑みを浮かべたまま、静かに目を伏せる。
「……あいつさ、元カノのことがあってから、女の子を全然寄せ付けなくなったんだよ」
「トラウマのなせる業だね……」
彩奈が顔をしかめる。
「うん。あいつ、それまでは男女問わず愛想良いし親切だしで、かなりモテたんだよ? 」
「へえ!まあシバさんはイケメンだし、モテるのはわかるけど、愛想良かったってのは、ちょっと今とイメージ違うかも」
彩奈の言葉に、拓真が頷いてみせる。
「ゴウはね、怖くなっちゃったんだと思う。ヘタに愛想良くして、女の子と関わって傷ついたり……何より、バスケ部の迷惑になったりするのがさ」
悠里は何を言うこともできず、唇を噛む。
すると、励ますような温かい声音で、拓真が言った。
「だからゴウがさ、悠里ちゃんに対して積極的に関わったこと、ビックリしたし、オレは嬉しかったんだ」
拓真が、頼りなく揺れる悠里の瞳を覗き込んだ。
「あいつにとって、悠里ちゃんは、特別なんだと思う」
「え?」
「だってゴウね。悠里ちゃんを見るとき、すっごい優しい顔する。悠里ちゃんのこと、大切なんだって、伝わってくるんだ」
拓真の言葉に、剛士の暖かい微笑が悠里の瞳の裏に浮かんだ。
「オレさ、ほんとに嬉しいんだよ。傷ついたままだったゴウの心を、前に向けてくれる子が、ようやく現れたんだなあって思ってさ」
悠里ちゃんなら、オレも安心だしね!と拓真は微笑んだ。
その言葉に、思わず悠里は涙を浮かべた。
「……私、ゴウさんの助けになれるかな」
拓真の笑顔が大きくなる。
「もう、なってると思うよ?」
ポンポン、と励ますように、拓真は悠里の肩を叩いた。
「だから今まで通り、あいつと仲良くしてやってよ!」
彩奈も深く頷く。
「そうだよ悠里。がんばれ! 浮気しやがった元カノなんかに負けんな!」
言いながら、バシバシと悠里の背中を叩いた。
赤メガネの奥から見える暖かい瞳が、悠里を元気づける。
「大丈夫! シバさんはちゃんと、悠里の方を向いてくれるって!」
泣いてしまいそうになるのを堪え、悠里は2人の笑顔に向かい、微笑んだ。
「うん!」
「……あいつ、いっつもフツーの顔してた。励まされても、逆に揶揄われても、ホントいつも通りだった。でも1度だけ、オレに言ったんだ。『俺、なんなんだろうな』って」
拓真の指が、乱暴に金髪頭をクシャクシャと掻いた。
「あんときのゴウの悲しい声、オレは一生、忘れらんないと思う。だからオレ、あの元カノのこと、大っ嫌いなんだよね」
悠里は、拓真の冷ややかな声を思い返す。
『はあ? 何言ってんの』
彼女に対する拓真の冷酷な態度は、剛士を守るためだったのだ。
辛そうに目を伏せた剛士の顔。
離れ際に見た、彼女の勝ち誇ったような笑顔が、交互に悠里の心に浮かんだ。
彩奈が納得したように呟く。
「……だから拓真くん、『ゴウがマリ女と関わるなんて意外だ』って言ってたんだね」
拓真が目を丸くする。
「オレ、そんなこと言ったっけ」
悠里の脳裏にも、4人で初めて一緒に帰った日のことがよみがえった。
『ゴウがマリ女と関わるなんて意外すぎるもん』
確かに拓真はそう言っていた。
『余計なこと言うな』
剛士が眉をひそめ、拓真の頭を引っぱたいたことも、よく覚えている。
赤メガネの奥にある瞳が、力強く頷いた。
「悠里のストーカーを捕まえた日、『ゴウがやっと恋愛する気になったみたいで嬉しい』とも言ってた」
「……彩奈ちゃん、記憶力いいんだね」
拓真が微笑むと、彩奈は自分の頭を指し、誇らしげに笑った。
「それ聞いたとき、シバさんって、恋愛にトラウマでもあんのかなーって、気になってたんだよ」
「うん。オレさ、ゴウが元カノとのこと吹っ切れずにいたこと、心配してたんだよね」
「はあ? それって未練ってこと!?」
再び牙を剥きかける彩奈に怯えながらも、拓真は答える。
「い、いやいや、元カノに未練があるわけじゃないって」
「なんでそう言い切れんの!?」
「だってゴウのヤツ、すっげえ暗い顔してたじゃん」
拓真が彩奈を宥めつつ悠里を見やり、ニコッと微笑む。
「ねえ、見たでしょ? 元カノと話した後、戻ってきたときのアイツの顔」
拓真は自分の目尻を、指できゅっと下に引っ張ってみせた。
「ほら、こんな感じでさ。すっごい辛気臭いツラして戻ってきたじゃん。あれが、好きな女と会話した後の顔かよ」
拓真が明るく笑い飛ばした。
「それに、もし元カノをまだ好きならさ。あのまま元カノとどっか行くよ、普通に」
「……確かに」
「でも、ゴウはものの10分で、オレたちのところに戻ってきたじゃん!」
「……まあ、そうだね」
彩奈も渋々ながら肯定する。
拓真が優しい笑みを浮かべたまま、静かに目を伏せる。
「……あいつさ、元カノのことがあってから、女の子を全然寄せ付けなくなったんだよ」
「トラウマのなせる業だね……」
彩奈が顔をしかめる。
「うん。あいつ、それまでは男女問わず愛想良いし親切だしで、かなりモテたんだよ? 」
「へえ!まあシバさんはイケメンだし、モテるのはわかるけど、愛想良かったってのは、ちょっと今とイメージ違うかも」
彩奈の言葉に、拓真が頷いてみせる。
「ゴウはね、怖くなっちゃったんだと思う。ヘタに愛想良くして、女の子と関わって傷ついたり……何より、バスケ部の迷惑になったりするのがさ」
悠里は何を言うこともできず、唇を噛む。
すると、励ますような温かい声音で、拓真が言った。
「だからゴウがさ、悠里ちゃんに対して積極的に関わったこと、ビックリしたし、オレは嬉しかったんだ」
拓真が、頼りなく揺れる悠里の瞳を覗き込んだ。
「あいつにとって、悠里ちゃんは、特別なんだと思う」
「え?」
「だってゴウね。悠里ちゃんを見るとき、すっごい優しい顔する。悠里ちゃんのこと、大切なんだって、伝わってくるんだ」
拓真の言葉に、剛士の暖かい微笑が悠里の瞳の裏に浮かんだ。
「オレさ、ほんとに嬉しいんだよ。傷ついたままだったゴウの心を、前に向けてくれる子が、ようやく現れたんだなあって思ってさ」
悠里ちゃんなら、オレも安心だしね!と拓真は微笑んだ。
その言葉に、思わず悠里は涙を浮かべた。
「……私、ゴウさんの助けになれるかな」
拓真の笑顔が大きくなる。
「もう、なってると思うよ?」
ポンポン、と励ますように、拓真は悠里の肩を叩いた。
「だから今まで通り、あいつと仲良くしてやってよ!」
彩奈も深く頷く。
「そうだよ悠里。がんばれ! 浮気しやがった元カノなんかに負けんな!」
言いながら、バシバシと悠里の背中を叩いた。
赤メガネの奥から見える暖かい瞳が、悠里を元気づける。
「大丈夫! シバさんはちゃんと、悠里の方を向いてくれるって!」
泣いてしまいそうになるのを堪え、悠里は2人の笑顔に向かい、微笑んだ。
「うん!」
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