#秒恋2 2人の日常を積み重ねて。〜恋のトラウマ、ゆっくりと乗り越えよう〜

ReN

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piece6 未来への欠片

勇誠学園の柴崎さんですか?

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「悠人、悠人! ねえ、どっちがいい?」
「あー。もう、どっちでもいいんじゃない?」

午前中の、柔らかな日差しが差し込むリビング。
そこには、2着の洋服を抱え仁王立ちする姉と、あくび混じりに応答する弟。

悠里は、不満げに唇を尖らせる。
「もっと真剣に考えてよ」
「だって姉ちゃん、もう何着目よ?」
クッションを抱え、悠人はむくれた。

「別にどれでもいいよ。姉ちゃんが着たい服着りゃいいじゃん」
「だって……」
悠里が、がっくりとうな垂れる。
「よくわかんなくなっちゃったんだもん……」

「つか、今日はエラく気合い入ってんね?」
悠人は、いつになく浮き足立つ姉を不思議そうに見る。

「……えへへ」
「うわ、姉ちゃんキモ」
「うるさい」
パチンと悠人のおでこを叩き、それでも悠里は緩む頬を抑えきれなかった。

悠人は何かを察したようだが、特に言及はせずニヤリと笑った。
「……で? 姉ちゃん、時間は大丈夫なの?」
「あ」

確認すると、約束の時間まであと30分に迫っていた。
たちまち悠里は総毛立つ。
「大丈夫じゃない!着替えなきゃ!」

バタバタと、悠里は自分の部屋に戻っていった。
「はいはい、がんばってねー」
悠人は笑いながら、ヒラヒラと手を振った。
 

剛士から、最寄り駅に着いたと連絡が入った。

『明日、家まで迎えに行くから』

そう囁いて、悪戯っぽく笑った剛士を思い返す。
『お前を迎えに行くのに慣れてるからさ。何か、落ち着くんだ』

からかいの延長にある、小さな冗談だったかも知れない。
けれど、剛士がとても楽しそうな、嬉しそうな笑顔を見せるから、悠里まで幸せな気持ちになったのだった。

――楽しい1日になるといいな。
心地よく弾む心音を感じ、悠里は微笑んだ。


駅から悠里の家までは、徒歩10分程度。
はやる気持ちを抑えられず、悠里は、いそいそとブーツを履き始める。

「わ、ミニスカだ。ほんとに気合い入ってんねー」
悠人が玄関にやってきた。
パッと悠里は顔を赤らめる。

迷ったあげくに、悠里は白のニットワンピースを着ていた。
座ってブーツを履いていたところだったので、なおさら短く見えたようだ。

「へ、変かな……」
おずおずと尋ねる姉に、悠人が吹き出す。
「大丈夫なんじゃん?」
「もう!」
悠里は、むくれながら立ち上がる。
「私、もう出るね。帰るとき連絡するから」
「はいはい。ごゆっくり」

言いながら、悠人も靴を履き始める。
「……何してんの?」

「今から会うのってさ。昨日も家に呼んでた、勇誠の人なんでしょ?」
嫌な予感がして、悠里は慌てて弟を突き飛ばす。
「あんた、何考えてんの?」

ニヤニヤと悠人は笑う。
「だってその人、姉の恩人なんだし? 弟として、オレもしっかりご挨拶しなきゃね?」
「やめてよ、もう!」

いつも悠人の方が早く登校するため、今まで剛士と顔を合わせたことはなかったのだ。
これはまずい。早く家から離れてしまおうと、悠里は扉を開ける。

「ついて来ないで」
「いーじゃんいーじゃん。彼氏さん見せてよ」
「彼氏じゃないよ!」
「そんだけ浮かれて、彼氏じゃないはナイでしょー」
「違うってば!」

玄関の前で押し問答をしていると、あ、と悠人が動きを止めた。
弟の視線を追って、悠里は振り返る。

門の外には、笑いを噛み殺した剛士が立っていた。

昨日と同じ、黒のダウンジャケットの下には、ヒヤシンスブルーのセーター。
黒のパンツを履いた彼は、いつにも増して大人びて見えた。


弟との醜態を見られた。
悠里の顔が真っ赤になる。
慌てて門を開けて、剛士を見上げた。

「よお」
いつもの彼の挨拶が、心なしか笑って聞こえる。
「おはようございます……」
悠里は蚊の鳴くような声で応えた。

「あの、弟の悠人です……」
言いながら弟に目を向けると、剛士を見つめ、ぽかんと口を開けていた。

「……悠人?」
「も、もしかして、勇誠学園の柴崎さんですか!?」
悠人が目を輝かせながら叫ぶ。

今度は悠里が、ぽかんとする番だ。
「……知ってるの?」
「当たり前だろ! 勇誠の柴崎さん! 超有名!」
悠人が目を剥いて答える。

「姉ちゃん!柴崎さんと付き合ってんなら、どうしてもっと早く教えてくれないの!?」
「だから付き合ってな……」

姉の反論を無視し、悠人は改めて剛士に向かって勢いよくお辞儀した。
「橘悠人です! オレに、スリーポイントのコツ、教えてください!」

剛士が、ふっと柔らかく微笑む。
「じゃあ、今度」
「やったああ!」
悠人が歓喜に飛び上がった。

このままでは、剛士を庭のバスケットゴールに連れて行きかねない。
悠里は慌てて門の外に出て、悠人に手を振った。

「じゃあね! もう行くから」
「姉ちゃん! 次はいつ柴崎さん連れてくる?」
「もう、うるさい」

パチンと悠人のおでこを叩く。
「行ってきます!」
強制的に弟に別れを告げ、悠里は剛士とともに歩き始めた。
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