調整師の幸運術~すべてを奪われた令嬢は運を操る

兎緑夕季

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第一章

建国パーティーのひと時…①

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建国祭は文字通りラクナメイア帝国の誕生を祝う式典だ。
毎年、建国設立宣言が成された6月6日に各地で盛大な催しが行われ、その前後を合わせた一週間は国中のどこを見渡してもお祭りムードである。特に今年は記念すべき5010年を迎える年で皇帝一家が主催する晩餐会は例年よりも盛り上がると予想されている。

「まあ、あれをごらんになって。どこのバカかしらね。あんな身なりでいらっしゃるなんて…」

故にその場に相応しくない振る舞いをする者達への風当たりは強い。

「ほら、例のマーシャン家よ」
「マーシャン?」
「ご存じない?まあ、忘れられた家門だものね」

その視線が自分に向いているのは分かっていた。
けれど、それこそが望んでいた反応。
聞こえてくる嫌味な言葉はあれど、首を傾げている者達も多い。
その様子に我が家がどういう位置にいるのか見て取れた。
そもそも、マーシャン家のある領地にほど近い貴族達は忘れられた家門である事もクーデターについても知らない様子だった。それはマーシャン家の娘である妹に求婚していた男達を見ていれば分かる。

いえ、たとえ汚点があったとしてもルシアの魅力が勝っているって事でもあるのかも?

どちらにしてもこの様子だと、お母様が心配するような事態は起きないわ。
それほどまでにマーシャンの名は帝国内で取るに足らない存在。
これなら、適当に楽しんで帰るだけで役目は果たせる。
むしろ問題はルシアの方よね。

「美しいご令嬢。一曲いかがです?」
「まあ、嬉しい」

ルシアは皇都でも花があるのね。
慣れない場所だというのにもう男性方に囲まれている。
姿は見えないが、マーシャンの屋敷に手紙を送ってきていた子息達もいるはず。
彼らがこの光景を見たらどう思うのかしら。
よくも悪くもルシアは目立つ。今まではそれがいい方に転んでいただけ。

「ルシア。あまり、目立つ行動は…」
「折角の都なのよ。遊んだっていいじゃない」
「ここは領地とは違うの。危険だって…」
「そうよ。領地じゃないから羽も伸ばせるのよ」
「ルシア!」

妹の含みのある視線が突き刺さってくる。

「何よ」
「そんな恰好で名誉ある皇宮に来た精神は認めてあげるけれど、だからって私の行動を制限するのは違うんじゃない?」
「最低限のドレスコードは守っているわ」
「頑固なんだから。折角、ドレス貸してあげるって言ったのに口答えばっかり。そっか…。プライドが傷つくのね。私と違ってモテないから」
「そういう事ではなくて…」
「もう黙って!」
「一緒にいると貧乏性が感染するわ」

そう吐き捨てて、妹は群衆とかしている人の波の中へと消えていく。

「エル…」

振り返れば、ストレイト侯爵のご子息が立っていた。
けして、男前ではないけれど、素朴な雰囲気を漂わせた好青年。
正装していてもそれは変わらない。優しい微笑みが見て取れた。
だからこそ、胸もざわめく。

せめて、彼の目にはもっと美しい姿でいたかったという普通の女性がきっと思う感情も湧き上がるのだ。

「ストレイト小侯爵様。この度は車を貸していただいてありがとうございます」
「気にしないでくれ。ところでルシアはどこだろう?」

やっぱり、私は眼中にないのね。

「さっきまでこの辺りにいたのですが…」
「あっ!皇女殿下のおなりだ。失礼するよ」
「ええ~」

階段から降りてくる第一皇女と第一皇子の姿が視線をかすめた。
ここからではそのお顔を確かめる事は出来ない。
おそらく、皇帝も近くで見ているはず。

さっきまで、活気に湧いていた会場に緊張感が走っていた。
これが皇帝一家の力というものなのね。

今の皇帝が即位されてからおよそ30年。その座につくために多くの血を流したと噂されている疑惑の皇帝。だからこそ、皆、どこかで恐れている。けれど、そんな中でも第一皇女は親しみやすさで国民から大人気で次の皇帝に推す声も大きい。しかし、皇宮で働く者達は保守派も多い。皇帝には男をという考えのもと、第一皇女の弟である第一皇子を次期皇帝にという動きも水面下で動いていると推測できる。今、この瞬間にも政権争いが繰り広げられているのだろう。

人の様々な思惑のせた視線、空気に気分が悪くなる。

こんな時にルシアはどこに行ってしまったのよ。
人の気も知らないで…。
役目はすでに果たしたはずだ。道化を演じる必要すらなかった。
お母様達が繰り返す皇家と縁続きであるマーシャン家の令嬢達に皇帝一家からお声一つかからないのが何よりの証拠よ。

早く探して、この場所から退散したいわ。
どこかで遊んでいるルシアを回収して帰ればいいだけだと安易に考えていた。
そのすべてが浅はかだとも知らずに…。
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